旅立ち
「姉ちゃん……」
『どうしたの、リンク』
顔を下に向けながら
きゅっと少ししわくちゃになるくらい強く服をにぎりしめてくる。
何かに耐えるかのように、声を振り絞って問いかけてくる。
「……一緒に着いてってくれるの?」
『……うん、勿論に決まってるじゃない。
寧ろ出来るのはそれくらいしかないから。
……私こそいいの?足手まといになるかもしれないんだよ』
自分は漫画のような主人公と違って、超人的な力はもってないから。
剣だってろくに扱えないだろう。
良くてデクの樹の言う通り、知識のサポートくらいしか出来ない。
私は神様なんてものを信じてないから、神頼みなんてしない。
自分しか頼れるものはない。それでも、どれだけ未来の勇者にしてあげられることがあるだろうか。
リンクは早速デクの樹から木片を切り取り剣で器用に削っていた。
原作ではルピー集めが大変だったなぁ……。草を伐ったり岩を持ち上げたり……なんでそこから出てくるのか不思議だった。もちろんルピーが落ちてるかもしれないがそう簡単に稼げるものではないだろう。
ゲームと現実の差はシビアなものだ。
あ、そうだ……。
こっちも準備しないと……。
私が森へと走り出すのに誰も止めることはなく、ただ見守ってくれていた。
リンクの家から必要な物だけをバッグに積める。
使っていた毛布やら、元の世界で残っていた飴やらの日持ちしそうな食べ物。
薬は……この世界の人に合うかどうか分からないから自分専用にとっておこう。ビニール袋は使えそうだから穴を空けないようにしなければ。
元の世界での硬貨は見た目的に売ったらお金になるかな……。
さすがに持ってた保険証は失くさないようにしないと……元の世界に帰ったときまた再発行の手続きをしたりしないといけないから大事なものだ。
きっと、もう戻らないであろうリンクの部屋の周りを見渡す。
前にあげたクレヨンを使ってリンクは沢山の絵を描いていた。
お世辞にも上手とは言えない子供特有の絵は、カラフルに色付けされていてサリアや自分、コキリの皆にデクの樹が大きく描いてあった。
部屋の隅、分かりにくいところにリンクとミドとサリア、それに……私だろうか?髪が黒い女の子が手を繋いで笑っている絵があった。
それを見てくすり、と笑みが零れる。
ここへは戻ることが出来ないかもしれない。
でも、また戻れたら……。
* * *
「出来た!うん、よしっ」
リンクはもう盾を完成してた。
こういう造形のアイディアの才能がぴかいちなリンクはここでも才能を発揮し盾と十分に言えるようなものを作り上げた。
「よろしくな、ナビィ、……姉ちゃん!」
『あ、おを付けるのはやめたの?』
「別に……とくになんでもない!」
《行こう、リンク!ユキセ!》
『……うん、けど』
「……行くってお前どこ行くんだよ……オレたちコキリ族は森の外に出たらシぬんだぞッ!!」
その前に挨拶をと思ったらミドが大きな声で引き止めてくる。
なんだかんだでミドは寂しいのだろうか、それともずるいとかコキリ族の在り方に固執した子供っぽい考えからなのだろうか。
外へ続く道の方向から振り返ったリンクは自分の覚悟を話した。
「オレ……外の世界を見てみたいんだ……どのくらい広いのか、何があるのか、自分の目で」
其れを聞いたミドは少し悲しげな顔をした。
本当はどちらとも仲良くしたいんだろうな。
でもどちらも意地っ張りだから(片方はプラス見栄っ張りだけど)
平行線のまま交わることはない。
「……っユキセ!お前もなんか言えよ!」
こっちに来るか。
というか自分も外へ出るようにデクの樹の遺言があるんだから説得したって意味無いでしょうが。
まあ言うとすれば……。
『……今のリンクには必要だと思うんだ。何よりリンクが望んでる訳だし。此処にずっといるとリンクはデクの樹の使命を果たせないし……、
なにより、リンクがリンクじゃなくなっちゃう……かな』
ごめんね、ミド。
心の中で謝罪する。ミドの気持ちも分かるのだ。
森を出たらデクの樹の加護は無くなってしまい、リンクが本当にコキリの森の住人だったなら出た途端に消えてしまうかもしれない。
有から無への喪失とは心が折れてしまうほどに度し難い苦しみを与える。
最後の言葉の意味が分からないミドは容量を得ないという表情をしていた。
これはとても曖昧なようでリンクの本質を言い表しているのだけれど、コキリ族のミドにはまだ分からないだろう。
「ユキセもリンクも行っちゃうの?」
リチェとリカがこちらへ出て、目を伏せ悲しそうな表情で聞く。
数日しかいなかったのにとても親しくしてくれたのがこの双子姉妹だ。服も仕立ててくれて、恩もまともに返せていない。
『服仕立ててくれてありがとうね。この服、とても丈夫で助かったよ』
「うん……あたし達ね、外の話聞けて良かったよ。皆と遊んだりして楽しかった。
ミドが言ったとおりあたし達、外に出たら生きていけない……シんじゃうから。
それがコキリの掟だから……。」
「だから見たことも無い世界に足を踏み入れた感じがして、楽しかった……。
だから、待ってるから。
またお話聞かせてよね」
『……うん、分かった』
「早くデクの樹サマの使命終わらせてよリンク!」
「じゃないと二人とも呪っちゃうからね!」
とリチェとリカはリンクに向かって叫んだあと走っていってしまった。
人前で我慢はしてても涙を流したところを見たことがないからきっとどこかで二人で泣いているのだろうか。これは勝手な妄想だけれど……。
自分の気持ちに整理が着けられないのか、ブンブンと首を横に振りながら、
「だぁーーー!外野は黙れ!
もうさっさと早く行けよ!
んでもって帰ってくんな馬鹿ーー!!」
と、大声でミドは叫んだ。
リンクに目を合わせてここを出ようと目配せる。
それにリンクは静かに頷いた。
「……じゃあね」
とリンクは穴へ走って行った。