さようなら




デクの樹のもとへ着くと、弱々しくもしっかりとした声でトライフォースの話をリンクにしてあげていた。
触れた者の心を写す世界を作る力をもつトライフォース。

ディン、ネール、フロルの三女神は何故ハイラルへそんなものを置いていったのだろう。人間など欲深い生き物だ。そんな物、悪用されるだけでしか無いのに。


「ハイラルに恐ろしい危機が迫っている。
あの悪しき者をトライフォースに触れさせてはならぬ……!
だが、お前のその勇気があれば必ずやつの野望を打ち砕けるだろう……」

「……なんでオレなの?」


なんでリンクなんだろう。
リンクの近くに寄って頭を撫でながら、リンクを見つめて瞼を薄く閉じる。

ずっと繰り返される物語だ。

いつ終止符が打たれるかすらわからない。
トライフォースの試練としてハイラルを支配しようとする者と戦い、封印し、また封印が解かれたら戦う。
それは何世代もリンクという名の勇者が、魂の世代が何代も続く終わりの見えない戦い。
誰が終止符を打つのだろう。
出来ることなら自分のように未来を知り、リンクの傍にいてくれる誰かが永遠に封印を解かれることなく守ってくれる事を願いたい。
寿命のある自分ではきっと無理だから。


「お前なら出来る…外の世界を知って大きくなれ……リンク」


外の世界、それを聞いたリンクの雰囲気は変わった。
彼もまたコキリの一部の子どもたちと一緒だ。この短い間でもリンクも外の世界に想いを馳せていたことくらいよく分かる。
リンクだけに与えられた、外へ出れる権利。
権利もなにも、彼は元からハイラル人だから外に出れる要素はあるのだけれど。


「……うん!」


どうやらリンクは決意したようだ。
デクの樹の言葉に大きく頷いた。


「ハイラル城へ行け、そこに神に選ばれし姫がおいでになるはずじゃ……姫にこの石を渡すのじゃ、
あの男がワシに呪いをかけてまで欲した"森の精霊石"を……!!」


デクの樹がコキリの翡翠の話題に移ったところで邪魔になると思い数歩後ろに下がった。リンクの頭上に翡翠の光が溢れ落ちて、そこから金の台座に新緑のような優しい光がはめ込まれた宝石が現れた。

不意にふよふよと漂っていた翡翠色の小さな一粒の光が自分の体の中へと吸い込まれるように入り消えていった。
他は花火のように光を無くして消えていくのに。

……?
なんだろ、見間違いだろうか?

特になにかが変わったわけではない。
少し身体が軽くなった気がしないでもない。
見間違いだろうかと思い、デクの樹に呼ばれた時にはそんなものは隅に追いやってしまった。。


「ユキセよ……」

『……結局、お話できなかったね』

「そうじゃの……もう話ができるほど時間もないようじゃ」

『……ごめん。ごめんなさい、ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっ!』


主語を言わずにただ謝る、汚ない人間だ。
怖くて私は彼の死を覆すこともしないまま逃げようとしている。
私は弱い人間だから、私は力がない人間だからと底辺で胡座をかくしかできていない。
そんな自分が嫌だ。
神頼みなんかしても、世の中の誰もが助けてくれるわけじゃないのだ。


「謝らなくて良い……ワシはお前さんの気持ちはわかってるつもりじゃよ。それよりも、リンク達を助けてくれてありがとう」

『けど、………けど!』

「ふむ。どうかワシの頼みをきいてはくれないかの」

『頼み……?』

「ワシの意思を継いで、お前さんの知識でどうかリンクの助けになっておくれ……これがお前さんに託す願いじゃ」

『……わかった。それが、あなたの願いなら』


物語を知りながらもゴーマの呪いの巨大さにデクの樹を助けられなかった。
其れを知っていたのにデクの樹は許してくれた。自分はそれを許せないのになぜそんなに優しくなれるのか今は解らないままだった。

けれど、デクの樹の優しさは無駄に出来ない。
今こそこの世界の知識を吸収し、知識でリンクを助ける番だろう。私だけが知っている未来通りなら、幾分かリンクを助けられる筈だ。
足手まといだろうからと、ここへ残ろうと思っていた迷いは無理やり消した。
元の世界へ、現世へ帰る手掛かりを探す為にもリンクを助けよう。


「みなの成長を見届けることができないのはまことに残念じゃのぅ……じゃが、ワシはこの森を、みなを見守っておるからの……」


つぅ、と涙が自然に流れてきた。
もうすぐ別れの時がくる。周りでは泣きじゃくる子までいた。
ああ、デクの樹が消えてしまったらコキリ族が受けていた加護はどうなってしまうのだろう。
何も知らない私はそれを心配していた。


「頼むぞ……リンク、……ワシはお前を、信じておる……」

「……うん、わかった…デクの樹サマ」

「ワシの亡きがらで盾を作るがよい。
あらゆる邪悪からお前を守るだろう……。
ナビィ……ナビィや……」

《デクの樹サマ………》


ナビィがす、と近寄る。
心なしかナビィの発するその光も悲しみの色に満ちているようにも思える。


「ナビィ……リンク達を助けるのだ……頼んだ……ぞ。
みな……、さらば……じゃ……」

(そなたの今を、これからの未来に平穏と安寧がどうかあらんことを)


そして、デクの樹はみんなに見送られながら静かに息を引き取った。
コキリの皆はそれぞれを大声をあげたりして泣いた。
ただ、リンクだけは肩を震わしながら声を出さずに我慢していた。

気づけば、皆を慰めるかの様に優しい風が吹いた。
互いに擦れ合いながら出す葉の音や風の音が何故か切なく感じた。



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