闇夜に踊る刺客
隠すように苦笑いする目の前の女の子は本当は王女だ。
外に出ることは身の安全の為に。
一方的に禁じられた、いわゆる籠の中の小鳥のようなもの。
ふつうの女の子、先ほど呟いたことはきっとこの小さな背中に掛かる重みを一時だけ忘れる一つとして成りたかったものだと思う。
思うだけならいくらだってできる。
けれど実行するにはその籠は小さな手ではとても強固すぎた。
当たり前のようにおめかしして、おしゃべりしている普通の町娘たちが彼女にとってはとても羨ましかった光景だろう。
それでも、一度だけでも外に出たくて兵士達の目を掻い潜り町に出た……というところだろうか。
被っていたゾーラのお面を外す。自己紹介するにはお面は邪魔だろう。
『名前、教えてくれないかな。私はユキセ……ここじゃ変わった名前だけど』
お互い名前を知ればきっとまたこうやってしゃべれるかもしれない。
笑ってボムチュウボウリングとか、屋台の買い食いとか出来るかもしれない。
願うだけではそれは叶わないのが厳しい世の中だけれど、……それでも。
ニカッと女の子に微笑むリンク。
「オレはリンク、また一緒に遊ぼう!」
『人生は長いんだからさ、またこんな機会がきっとあるよ』
自分も本当はここには来られない存在な訳だけど、運が良くって、偶然と奇跡が重なって今、奇跡的にここにいることが出来るんだと思う。
そう、そうなのだ。
彼らは動く。
息をする。
笑ったり、泣いたりもする。
そして生きている。
生きていれば、きっとどんな奇跡だって起こせる。
優しく頭に手を乗せて、頭を撫でる。
子ども特有のきめ細かな、リンクとはまた違う手入れの届いた細い髪が手に馴染んだ。くすぐったそうな、少し驚いたその表情。
そして私とリンクの言葉にゼルダはふわりと微笑んだ。
「……うん。私の名前は……」
遠慮がちに話し出す。
多分、正体を明かすことによって自分を見る目が変わるのかもしれないのが恐いんだろう。
名前を出すだけ、それだけでも彼女にとって大きな大きな一歩。
けど、辛抱強く待った。
その小さな口から名前を聞くまで。
けれどそれは叶わぬ小さな波紋のひとつとなった。
ーーゾワッ。
一瞬、空気が変わった。
ざわりと騒ぎ出す何かを感じて思わず辺りを見渡す。
何?何か昼間にも感じたような………。
途端キョロキョロする私にリンクは疑問の声を掛けるが、それすら気にならないほどだ。
「……姉ちゃん?」
リンクが不思議そうな表情で呼び、うつむいていた女の子も顔を上げた。
複数の何かが物凄い速さでこちらへと駆け抜ける音が聞こえた。
口許を布で隠し曲げ刃の剣を持った二刀流の女の集団。
インパとはまた違う褐色の肌に私の元の同じ丸い耳、そして高い鼻に高身長、髪を一つ結びにした鎧を着ないまるでアラビアンのような軽装の独特の姿をしていた。
「な、なにっ!?」
その彼女たちの正体はゲルド族だ。
砂漠の向こうで暮らすこのハイラルとは別の種族。
そうか、だからガノンドロフと出会ってしまったときのと同じ気配がうっすら感じたのか。
なぜなのかは分からないけれど……!
その集団はちょうど人のいない町の広場にいる自分たちにその刃を向けたのだ。
いきなり私たちを取り囲むゲルド族。
数は四、五人と少ない、やけに。
しかし街灯から微かに見えるナ、ナイスボディ……くびれとか胸とか!
ちょっと羨ましい……って、そうじゃなかった。危機的状況で思わず思考が逸れてしまった。
目の前に曲がった形の剣を見て刃が薄く小さなカッターナイフでは戦えないな、と思った。
戦うには不利すぎる。
「な、なんだお前ら!」
剣を抜き警戒するリンク。
しかし、子どものただの威嚇としか見ていないようで彼女たちの視線を辿ると、良い服を着た女の子だけを見ていた。
どこで得た情報なのか、彼女だけを狙っていた。
本人が目的なのか。
「そこの小さな娘……お前の正体はわかっている。我々に時のオカリナを渡せ!」
「!!」
リンクと私を関わらせまいとしての行動か、ダッと逃げる女の子。
それよりも……え?
時のオカリナ持ってたの?ただの誘拐じゃないの?
何よりもなんで今日時のオカリナなんて隠し持っていたのとかゲルド族も何でそれを知っていたのとか気になる。
もしかして忍び込んで盗まれるのを見越して本人自ら城から逃げてまで持っていたのか。
『あ、ちょっと危なっ……!』
一人は危険だと察した身体が自然と女の子を追いかけた。
ゲルド族の一人が逃がさないとこちらへ剣を振るうが切っ先が当たる前にリンクが剣で受け止めた。
キンッと甲高い金属音が響き渡る。
突然の生死の絡んだやり取りに混乱して、転んだ女の子を立ち上がらせてせめてこの子には向かないようにゲルド族に見えないよう抱きしめた。
「ム、お前ら何者だ!邪魔をすると……」
「しっ、誰か来るぞ!」
来るか、と覚悟をしたがゲルド族の一人がこちらへ刃を向けた方へ呼びかける。
人の気配を察して、舌打ちをしながら足早に逃げていった。
「待て!」
『ちょっ、リンク!深追いは……!』
行っても無駄だと言う前にリンクは真っ暗な街道へと走っていってしまった。
行っちゃった……。
そのままゲルド族の後を深追いをしてしまったリンク。すぐ戻ってくるだろうけれど、金属の弾き合う音がした。
……直ぐさま何かが木の箱に当たったような音が聞こえるんだけれど……大丈夫かな。
凄い心配だけど女の子いるし下手に動けない。
ゲルド族も目当てはオカリナなので、今何か起きたらガノンドロフの今までの行動が無駄になってしまうだろうから何もしないと思う。
ここで事を起こすとはガノンドロフも早計だと思うからこんなことをするとは思えない。考えが浅はかだったか、ツインローバによる独断だろうか。
街灯に影が差しその姿が彼女の乳母だと分かったところで緊張を解いた。
はぁ、と安堵のため息が漏れる。
とりあえずこの人が来たところで安全だろう。
『もう夜だし、そろそろ帰った方がいいんじゃないかな。
……心配した顔をしてる』
「え……」
女の子が後ろを見遣ると彼女の乳母がいた。
思えばちょっと迷惑かけちゃったかな。この子の事を言わなかった訳だから。
「姫……」
「インパ!」
抱きしめていた手を離せば女の子は駆け出して乳母に抱き着いて、乳母であるインパも抱きしめ返す。
心配したのだろう、インパさんは安堵のような表情を浮かべていた。
「ご無事で良かった……そこの者も礼を言う。姫をありがとう」
『それを言うなら先ほど走っていったリンクに言ってやって下さい』
「………驚かないの?」
何を……というと姫という地位を隠していたことに何故驚かないのか、てことかな。
『うん……なんとなくそんな感じはしたから』
今までの行動を見てるとね。
城下町の子であるはずなのに、自分達と同じまるで初めて来たみたいな感じだったし、
それに周りの子と比べれば気品があって浮いてたし。
まぁお金を沢山持っていたから端から見ればご令嬢……。
でも兵士から逃げてたからもしくは……まぁどのみち兵士から逃げなきゃいけない立場の人物とかも考えることもできただろう。
しかし私たちはお上りさん、深いところまでは考えられないのだ。
彼女がインパに探されていたことで発覚した、なんてそれはとても口が裂けても言えない。
それを言ったらいろいろとお終いな気がする。