君はどこの子



「可愛い可愛いっ!なあに、この可愛い生き物!!」


ポケモンです。
若干、いやかなり嫌がってるから放しておやりよ。
ぐりぐりと顔を押し付けられて必死に逃げようと顔が潰れたブルドッグの顔みたいになってて嫌がってるよ、その小さな小さな電気鼠。
放電したらどうするのよ……。

可愛いものが大好きな義母は見つけたら勢いがすごい、こちらが引くほどだ。
……本当、私と性格が正反対である。
暴れるのでなんとか義母が倒れる前に床に下ろしてあげる。


「大丈夫よ、あなたも可愛いからっ。だからぶすっとした顔やめなさい」

『この顔元から』


ぶすっとはしてない、引いているのである。
可愛いロリータ系の服買わなくなったら物の可愛いに対しての考えを改めることは考えてやらんこともないのだ。無駄にクローゼットを圧迫させないでほしい。

流石姉妹。死んだ母とこうも似てるとは。
思えば死んだ母も私に桃色ピンクの服ばかりを着させていた、遺ったアルバムの写真にそれが色濃く残っている。
ホントに嫌いになるぞ、ロリータファッションは真に可愛い子が着てこそ完成されるものなのを分かっていない。
いや、それはそれとして置いといて。

義母はいたくピチューを気に入ったようだ。
なんなら住まわす気満々である。おそらく頭の中ではペット用品の購入リストを作っていることだろう。


「欲しいこの子!家に置いておきたいわ!」

『……良いんじゃない?』

「やったー!」


まだポケモンセンターにもジュンサーさんにも連絡はしてないから順序が逆だけれど。
その代わり義父への説明は自分でしてね。と心の中で付け加えておく。
うん、とりあえずこれでいいだろう。
自分が了承した事に凄い反応して驚きの顔を向けたポケモン、基い、ピチュー。
でもピチューに対してまだ許可は得ていないので後で聞かないといけないとは言っておいた。

ごめんね、基本こうなると話聞かない人だから。
どのみちこうなるから。
恨むなら私に見つかったことを恨むが良いぞ。


しばらく自分が昼食を取っている間、母が逃げるピチューを撫でようと追いかけ回していた。ちょっと騒がしい。
良かった、今日はパスタだった。しかしこの世界でハンバーグやら寿司やら食べれるのだろうか、ハンバーグはさすがに食欲無いが魚系は食べたいぞ。
この家にポケモンフードなどなく、食品添加物の少なそうで食べれそうな食パンをピチューに与えたらとりあえず食べてくれた。

午後、ピチューを生け贄に自分はそそくさとしなくちゃいけないことだからとふたたび家を出た。
今度はピチューの飼い主探しである。

ピチューの飼い主が何処かにいればいいんだけど……。
そもそも都会とはいえこの辺りでジョウトのポケモンがいるのは珍しいのではないだろうか。
いなければどうしよう。

とりあえず、ポケモンセンターかな。
その足で入って良いものかとキョロキョロしながらもポケモンセンターに足を踏み入れてみた。
ジョーイさん経緯でジュンサーさんがいるポケモンパトロールへ連絡してもらったが、ジョウト地方のポケモンの迷子を探している人間はいなかったという。
最近捜査をお願いする案件は多いんですけどねとジョーイがボヤきつつもどう検索してもピチューを探している案件はなかった。
ということはあのピチューは野生の子ということで合っているとのだろうか。それはそれで親を探さないといけないな……。

……暇だし、ゆっくりできるのは多分今しかないだろうとデパートの中でも眺めようかと思い、自動ドアをくぐった。

中は原作通りの仕様で一階はフロント、二階にポケモン専用のアイテムが売られていた。
品物はフレンドリィショップと一緒の内容のようだ。
三階はドーピングの薬……一時的に素早さや攻撃力が上がる製品。四階はわざマシンが売られていた。陳列されている商品を見てる間、ちらっと窓を見たら曇り空が広がっていて雨が降っているような……。
そういえば今日は手ぶらのままだ。

デパートの中から出たら本当に雨が降っていた。結構な降雨量で、走り回る人やポケモンが右往左往していた。急な雨だったみたいだ。


『(やばい、傘持ってきてないや……)』


雨が止むまでデパートで雨宿りでもしてるかと思っていたら、
ぴちゃぴちゃと水の中を歩く音とずるずると何かを引き摺るような音が混ざって聞こえ、
此方に向かってくる小さな子供傘を差したピチューがいた。

あちゃー……訳を話しておけば良かったか……。
小さな体のためこちらの目線では傘で耳が隠れてピカチュウにしか見えない。
今はまだロケット団が大々的に活躍しているわけではなさそうだから、公の場で捕まらずに済んで良かったけれど……。


『ピチュー、大丈夫だった?』

「チュアッ!」


ずるずると音がしてたのは傘の音で、
重くて引きずって来たらしい。
ピチューの小ささなら大変か、そう理解して少々汚れた傘を差し、ピチューといっしょに家に帰った。
帰り道、少し泥だらけのピチューを着ていたパーカーの懐に入れて抱えながら質問を投げかける。


『ピチューは誰かのポケモンだったりする?』

「チュ」横に首を振る

『そっかー、じゃあ親は一緒にいる?」

「チュ」横に首を振る

『少なくともここにはいない?んー、困った……んん?』

「チュ?」


家に着く前、
玄関前に橙色の毛並みにクリーム色の鬣がたくましい犬……犬?のガーディが鎮座していた。
雨宿りみたいだが、この周りは家の屋根以外、雨を防ぐような大きな木が近くに無いからだろうか。
だからって、人間がいる家の玄関に現れるのも珍しいような。

ピチューと顔を見合わせる。
こう生き物と意思の疎通が取れるのも不思議なものだ。
自分がさしていた傘を玄関前に置いた。
これは男傘だから大きさ的にも十分だろう。

暫くじっと見つめられたあと傘を置いた時に直ぐに逃げられたが、軽く暖めたミルクも濡れない様に傘の中に置いた。
飲んでくれれば良いけれど駄目でもそれならそれで構わない。
ほかのポケモンが飲んでくれるかもしれないし。

それよりもピチューの体と自分の服を洗わねばならない。
どうすれば感電されないようにかつ、ピチューに嫌がられずに済むか悩んだ。