外宇宙からの訪問者01



オラクルという組織がある。
彼等は外宇宙を旅する巨大な宇宙船団であり、マザーシップを中心とし無数の船団で形成されるそのシップの群れには数百万という数の人々が暮らしている。

その中でもアークスという存在がある。彼等の役割は未知の惑星の探索と、外敵との戦闘だ。
しかし高い技術力と高度な文明を持つ彼等は、惑星探索の際、原住民との交流も受け持つことも多い。

そして今日もまた、新たに発見した惑星へと一人のアークスが派遣された。
人間を襲う原生生物の存在も確認されているが、同時に文明も存在している。
オラクルに比べれば科学能力などは比較にならないものの、それでもアークスにとっては貴重な交流可能な原住民。
このチャンスを逃すわけにはいかない。

惑星の調査と交流を目的とし、降り立った惑星の名はオールドラント。
派遣されたアークスは二体のサポートパートナーとともに、その地に降り立った。
彼女の名はユキエ。アークス内部からも信任厚い、熟練のフォースであった。



「さて、と」

ユキエがキャンプシップより転送された先は、せせらぎの音が聞こえるとある渓谷だった。
オールドラントの人々からタタル渓谷と名づけられているその場に足をつけたユキエは一つ息を吐き、続けて自分の背後に転送されてきた二体のサポートパートナーの存在を確認する。

「シエロ、クロエ」

彼等は人ではなかった。
正確に言うならば人を模したアークスをサポートするための人工生命体なのだが、二体とも身の丈一メートルほどのひよことしか表現のしようがない姿をしていたのである。
そのピンクと青色のひよこの姿をしたサポートパートナーの名を呼んだユキエは二人に周囲の探索をするよう指示をしてから、自分もまた杖を片手に周囲の探索を開始した。
人里から離れたところに転送してもらっている筈だが、環境や原生生物の強さなどを確認したいとの思いからだった。

そうしてユキエが暫く周囲を探索した後、サポートパートナーと合流して報告を受け、周囲にはそれほど強い原生生物も居らず比較的に安全な場所だと判断した頃、突如頭上から強大なエネルギー波を感知する。
今まで様々な惑星を探索してきたユキエはそのエネルギーが無害か有害か判断するまでもなく、反射的にその場から飛びのいて可能な限り距離をとった。
巨大な光の柱が音も無く渓谷に降り注ぎ、やがてゆっくりと収束していく。
光の柱が細くなり完全に消失したあたりで、オペレーターからそのエネルギー波の残滓によって周囲の環境変化が起きておらず、身体に害のある影響なども残っていないという報告を聞いて、ユキエはようやく警戒を解いた。
ユキエと同じように咄嗟に避難を選んでいたシエロとクロエもまた、警戒を解いて顔を出す。
ユキエはサポートパートナー二体が無事なのを確認すると、先程のエネルギー派によってどのような影響が出たのか確認するために、柱の中心地だった場所へと歩き出した。

そこには、つい先程まで居なかった筈の二人の人間が居た。
思わず眉をしかめてしまったユキエの耳に、エネルギー波の解析が終わったらしいオペレーターからの声が届く。

『先程のエネルギー波ですが、第七音素と呼ばれるこの星独自のエネルギーを持つ人同士の間に共鳴現象が発生して生まれたもののようです。
対象の分解と再構築を行うこの現象により、別箇所に居たこの二人が分解されこの渓谷に再構築されたのでしょう』

「つまり私達が使う移動ポータルが自然現象として起きてしまったと?」

『近いです。しかし制御されていない量子変換機能は非常に危険を伴います。スキャンしたところ彼等はどこに支障も無く再構築されているようですが、不幸中の幸いと言っても良いでしょう。目を覚まさないのはエネルギー波に巻き込まれた余波だと考えられます』

「目覚めた後に後遺症が残る可能性は?」

『比較データが無いので100%ではありませんが、スキャンしたバイタルデータから鑑みてもその可能性は限りなく低いと思われます』

「解りました。それでは私は彼等が目覚めるまで護衛をし、その後交流を図りたいと思います」

『了解しました』

オペレーターとの会話を終了させた後、ユキエは一つ息を吐いてから近場の岩へと腰掛ける。
振り返れば白い蕾の花が群生していて、その背後には青色をたたえた海が見える。
幸いこの渓谷に住む原生生物は凶暴性も低く、わざわざテクニックを使用するほどの強さもない。
ユキエはサポートパートナー達にあまり遠くに行ってはいけないが好きにすごして良いと伝え、怪我をしないよう注意してから彼等が目を覚ますまでのんびりと護衛するのだった。

それからどれほど時間が経っただろうか。
日は沈み、月が昇ってすっかりと夜になってしまった頃、群生していた花達が淡い光を放ちながら次々に蕾を開いていく光景を眺めていると、少女の口から僅かなうめき声が漏れた。
それを聞きつけたユキエはそっと少女に近寄れば、数度の瞬きの後少女が瞳を空ける。
栗色の長い前髪の隙間からきつめのアイスブルーの瞳が覗き、ぼんやりとしていた焦点がゆっくりと合っていく。

「目が覚めましたか?」

「ぅ……こ、こは」

「ああ、すぐに動かないでください。確立は低いと言われてはいますが後遺症が残っていないとも限りませんので」

「いたっ、っあ……そう、そうだわ。私、擬似超振動を起こして……あなたは?」

「私はユキエといいます。余計なお世話かと思いましたが、貴方達が目覚めるまで護衛をさせていただきました」

「そう、なの……ありがとう」

ゆっくりと上半身を起こした少女は、ユキエに礼を言った後、現在地を確かめるかのように周囲を見渡す。
そして自分の隣に寝ていた青年の存在を確かめると彼の身体に怪我が無いか確かめた後、名前を呼びながら彼を起こし始めた。
ユキエのように起きるまで待つという気は無いらしい。

「ルーク、起きて……ルーク」

後遺症が残っていないとも限らないというユキエの言葉を聞いていなかったのか、少女はルークと呼ばれている青年を揺さぶって起こそうとする。
ユキエが密かにそれに眉をしかめていると、ルークもまた小さなうめき声を上げながらゆっくりと瞼を上げた。

「ぁ……お前……ここは」

「起きたのね。どこか痛むところは?」

「そう、か……確か、擬似超振動が……お前!!」

「待って、急に動かないで!」

「っく……襲撃犯が、俺を誘拐して何をするつもりだ」

目を覚ましたルークは数度の瞬きの後、少女を見て慌ててその場から飛びのいた。
顔が歪んだところを見ると突然動いたことによって痛みはあったようだが、それよりも少女への警戒のほうが上らしい。
逆に少女はせっかく人が気を使ってあげたのにとでも言わんばかりにルークの態度に眉をしかめ、人聞きの悪いことを言わないでときつい口調でルークに向かって言った。

「誘拐だなんて……擬似超振動が起こったのは事故じゃない。ひどい言いがかりだわ。それにしても、その調子なら問題なさそうね」

ふん、と不機嫌ですといわんばかりに鼻を鳴らし、立ち上がった少女は服についていた土を払う。
どうしたものかとユキエが悩んでいると、ルークが視線だけでユキエを見たかと思うと、ぎょっとした顔で顔を赤くした後更に2歩後ずさった。

「な、ななな」

「七?」

「ちっげーよ!お前なんて格好してんだ!!」

「格好?……なっ!?あなた!そんな恰好して恥ずかしくないの!?」

ルークに言われようやくユキエの服装に目をやった少女も、顔を真っ赤にしてユキエから距離をとる。
二人の反応を見たユキエは何か自分はおかしな反応をしているかと、自分の纏っているコスチュームをまじまじと見下ろした。

赤を貴重としたクレイジーキトゥンと呼ばれるコスチュームは、一言で言えば露出の多い衣装だった。
しなやかな金属が覆うのは僅かな胸部と腹部、そして二の腕から下の腕のみ。
下半身は黒いビキニ一枚で、太ももから下は布には見えない光沢のある白い素材で覆われている。
腰の両サイドには湾曲を描くユニットがそれぞれに一つずつつけられていたものの、肌を覆うにはまるで足りていない。
アークスでは何もおかしくないコスチュームだったが、オールドラントではどう見ても露出過多の衣装であった。

「別に恥ずかしくありませんが」

「あ、あなた……変態だったの!?」

「別にそう言うわけでは……ああ、この惑星の文化とはそぐわないということですね」

ティアとルークの反応にようやく理解がいったユキエは二人の服装をまじまじと観察した後、量子パットを呼び出してコスチュームの交換を行った。
青白い光がユキエの身体を包み、一瞬にしてユキエの身体を覆うコスチュームが切り替わる。
今度もまた、赤を貴重とした衣装だった。しかし先程までと一番の大きな違いは、その衣装は布で作られていたということだろう。
今のユキエは赤いダブルボタンのコートを纏い、丈の短いプリーツスカートからは白い足が伸び、茶色のファーつきのショートブーツを履いている。
オールドラントの人々からすると珍しい恰好といわれるかもしれないが、先程のコスチュームよりも圧倒的に良いと言える衣装だ。

「これでいかがでしょう?」

量子パットを消し、二人に向かって微笑みかけるユキエ。
しかしそこには呆然とする二人の顔があって……彼等が目を白黒させながら返事をするまで、後数分の時間を要することになる。

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