萌ゆる緑に身を焦がす
目が覚める。いつもならすっきりと目覚められるのに、今日は自棄に瞼が重かった。目を擦りながら重だるい身体を起こそうとして、くらりと目眩。腰に走る鈍い痛みにまたベッドに逆戻り。
何故、と考えて意識を落とす前のことを思い出す。鈍痛を堪えながら改めて自分の身体を俯瞰して、発熱していることとうまく足に力が入らないことを確認した。
「目が覚めたか」
重い頭を動かして隣を見ればヴァンが寝ていた。頭を撫でられ、その手を払いのける。僕はサブではない。
僕の反応にヴァンは怒ることなく笑い、体調はどうだと優しい声で問うてきた。
「発熱。けだるさ。あと眩暈と下半身の痛み。立てない」
「疼きは?」
「ない。水」
「持ってこよう」
掠れた声で端的に要求すればヴァンが起き上がって水を持ってきてくれる。対応が完全に駄々をこねる子供相手のそれだった。
上半身を起こしてもらい、介助を受けながらカップに口を付ける。頭痛がないだけマシだなと思いながら、同時に身体がさっぱりとしていることに気付いた。
「後始末までしてくれたんだ」
「あの後すぐ気をやってしまっただろう。嫌かと思ったが、腹を壊させるのもな」
「助かった。礼を言う」
カップを空にした後にそう言えば、何故かヴァンはきょとんとした顔をした。
僕が礼を言うとは思ってなかったらしい。失礼な。
「礼くらい言うさ。起きてどろどろのぐちゃぐちゃはごめんだ」
「確かに」
僕の主張にヴァンは笑い、ベッドの端に腰かける。
カーテンが閉じたままの窓を見れば隙間から灯りは漏れておらず、今が明け方か夜なのだと知る。一体どれほど眠っていたのだろう。
僕の視線で疑問をくみ取ったヴァンが、僕が丸一日寝ていたことを教えてくれる。どうやらすっかり寝こけていたらしい。
「教団に連絡はしてある。明日の朝帰還する」
「解った。それまでに少しでも体調を戻さないとね……ヴァン」
カップをベッドサイドに置いて、ヴァンに向かって両手を伸ばした。
意味が解らなかったらしいヴァンがどういうことかと聞くように僕を見る。察しの悪い男だな。
「お腹が空いた。非常食くらいはあるだろう? 食べるからテーブルまで運んで。僕は動けないから、明日の朝までお前が僕の面倒を見るんだよ」
「ふっ……かしこまりました、イオン様」
ぶすっとした顔で伸ばした手の意味を伝えれば、ヴァンは小さく笑って僕を毛布にくるんでから抱きあげた。
ヴァンの腕で運ばれながらその硬い胸に身を預ける。安定感のある運搬は殆ど揺れない。
熱は出ていても食事はとらなければいけない。例えどれだけ量が少なくても。そうでなければこの虚弱な身体は悪化の一途をたどるばかりだ。
でも慣れている分、まだましだった。昨晩の熱の燻っていた身体よりもずっと楽だった。
「……ヴァン。お前のお陰で助かった。ありがとう」
「いいえ。情報を得ていながらこのようなことになり、まことに」
「可愛くないやつだな。そこはね、どういたしましてって言えばいいんだよ」
大真面目に謝罪を返してくるのが気に入らなくて、顔を上げた僕の指摘にヴァンが言葉を詰まらせた。そんなことを言われるとは思ってもみなかったらしい。
相変わらず硬いやつだ。リグレットの苦労が偲ばれる。
「お前は首席総長として僕を抱いたの? それとも仲間として?」
「……どちらも、私です」
「そうだね。でも僕はお前じゃなかったら体を預けることなんてしなかったし、それはお前が首席総長だからじゃないよ」
真面目で融通が効かない。本当に可愛くないやつだ。
なので仕方なく言わなくてもいい事まで教えてやりながら、いつの間にか足を止めていたヴァンを見上げる。
目をぱちくりさせるヴァンの顔は滅多に見られないものだった。
「なに」
「……いえ」
「それで、僕はありがとうって言ったんだけど?」
「……どう、いたしまして。イオン」
「それでいい。感謝くらい素直に受け取っておきな」
ようやく素直に礼を受け入れたヴァンにまた頭を預ける。
しばしヴァンは無言で僕を見下ろしていたが、やがて足を動かし始めた。今度は何を考え込んでるんだか。
「……素直にさせられたのは私だったか」
が、そんな言葉が聞こえてきて、それが何のことか考えて、昨晩の情事のことを思い出したのでまた身体を起こしてヴァンの頭をはたく。
顔を歪める僕とは真逆に、ヴァンは声をはりあげて笑った。