逆行させられました。(003)


※育児放棄を中心とした重い話が入ります。
苦手な方はご注意ください。
































こくりと、紅茶を飲む。
シンクの弱々しい言葉に何を言っていいか解らず、また無視することもできず。
私達の間には嫌な沈黙が流れていた。

はっきり言おう。
気まずい。

「………………」

「………………」

気まずい!

紅茶を飲む事で気を紛らわせているものの、この永遠に続きそうな沈黙は胃の中身が紅茶で満たされても終わらない気がする。

というか、私だってシンクを指名した訳じゃない。
欲しかったのは単純な仲間であり、同士なのだからもっと他の人物とか、いっそのことチーグルとかでも良かったはずだ。
いや、チーグルだとあまり役に立ちそうにないけれども。

それなのに何だこの仕打ちは、嫌がらせなのか、即答しなかった私への嫌がらせなのかローレライ。
確かに彼は強そうだし、頭もよさそうだし、あの若さで将軍を勤めてたんだから仲間になればきっと頼もしいに違いない。

違いないが、仲間になるまでのハードル高すぎませんか。
というか仲間になるというゴールが見えません。かしこ。

そこまで考えていると、沸々と愚痴というか、嫌な気分が沸いてきた。
決して怒りとかではないのだが、勝手に転生させられて、勝手に人の魂弄繰り回して、選択肢塞いで生き返らせて、一体何故こんな思いもしなかった難関に立ち向かわなければいけないのか。

そもそもシンクとは初対面で、敵意を向けられる謂れも無ければ理由も無い。
いや、あるか。私がローレライに手ごまが欲しいと頼んだわけですしおすし。
でもそれだって確定じゃないじゃないか、何かの手違いとかそんな可能性だってある訳で。

もし手違いとかローレライの純粋な押し付けとかそんなんだったらコレ私がこんな目にあう必要なくねぇ?

いや、十中八九私の手駒寄越せって我侭(という名の正当な要望)のせいなんだろうけど、こんな重苦しい空気に耐えなきゃいけないんだから現実逃避くらい、ねぇ?
そこまで考えて、全て放り出したくなって思考をストップさせる。

もう嫌だ。
元々私は根性無しなのだ。
放棄したい。だらけたい。

紅茶を飲み干したカップを脇に避け、でろんと溶けたチーズの気分になってテーブルに突っ伏す。
シンクの存在も忘れ、そのまま思考回路から垂れ流した文句をぶつぶつと呟く。

「大体さ、何で私なんだよ。
あんな失礼大魔神のお願いなんて聞かなきゃ良かったなんて今更思っても仕方ないのは解ってるけど文句くらい言いたくなるっつーの何この重い空気。

大体何さ勝手に生み出したとか勝手に捨てたとか。そんなの人間もおんなじだっつーの。
でなきゃ孤児なんかいないっつーの。

全員が全員愛されて生まれてたらネグレクトとか虐待と存在しねーっつーの。
何なの一体なんで私がこんな目に……」

「……気持ち悪い独り言やめてくれる?」

「誰のせいだ」

「ローレライ」

「……うん、その通りだ」

はぁ、と一つため息をついて起き上がり頭をかく。
いつの間にかローレライに対する愚痴がシンクへの愚痴へとなってしまったことにちょっぴり後悔する。飽くまでもちょっぴり、だが。
するといつの間にか机に肘を突いたシンクが此方へと視線を向けていた。

「……何でしょーか」

「ねぐれくと、って、何?」

あ、そんな質問ですか。
てっきり愚痴に対する嫌味が飛んでくるかと思っていた私は拍子抜けだ。

「育児放棄のこと。 勝手に生み出して、邪魔だからって勝手に捨てる、子供を育てないことよ」

「ふーん」

何も考えずに答える。
途端、シンクが嫌な笑みを浮かべる。
先程のような自嘲的な笑みではない。
蔑むような、哀れむような、見下した笑みだ。

「君も、されたんだ?」

「まぁねー」

が、私があっさりと答えたのが気に入らないらしい。
少しだけ眉をしかめてから嘆息した。
何か文句あんのかコラ。

「うらんだり、しないわけ?」

「別にィー。 だってさぁ、産みの親だからって言うけど、それだけじゃん?
産んだだけじゃん。
育ててくれたなら恩も感じるけど、突き詰めればそれだけな訳」

「……でも勝手に生み出されて、捨てられたんでしょ」

「だって愛してないもん」

心底どうでもいいという風体を隠さない私の言葉に、シンクは今度こそ眉を顰めた。
どうしてその言葉が出たか、理解できないと言った風だ。
なのでちょっとだけ噛み砕いて説明してみる。

「あのね、愛の裏返しって知ってる?」

「……嫌いってこと?」

「それは好きの裏返しかな」

「じゃあ…何?」

浮かべた表情は、困惑。
今まできっと考えてきたことも無かったんだろう。

「愛の裏返しはね、無関心、だと私は思ってる」

「……どうでもいいってこと?」

「そ。 だってさ、辛いとか憎いとか、結局は相手に期待したり、求めたりするから生まれる感情な訳よ。
けどさ、どうでも良いって切り捨てちゃえばそんな感情生まれないわけ。
つまり、無関心。

だから私はね、私の産みの親が幸せになろうが不幸のどん底に居ようが、どうでもいいし、憎もうとも思わない。だって興味が無いんだから。
まぁ不幸だったら腹抱えて笑ってやっても良いかな、ざまぁみろ、ってね」

人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。
内心でうっすらと笑いつつ訥々とそう話しながら、ティーポットにお湯を足し、少し待つ。
出がらしのお茶は美味しいものではないけれど、それでも私には慣れた味だ。
何より茶葉が勿体無い。

しかしシンクはお茶などもうどうでもいいらしい。
複雑そうな表情で視線をさ迷わせた後、憎々しげに此方を見てくる。

「その論理でいくと僕が世界を憎む理由は、僕が世界に期待してるからってことになるんだけど?」

納得いかないという顔で言ってくる。
そりゃそうだ。

というより、本当にそうだったとしても安易に認められるものでもないだろう。
自分が世界に必要とされたかった、でも切り捨てられたから憎むなんて、彼の性格上認められないに違いない。

「知らないよそんなの」

なので私はばっさりと切り捨てることにした。
途端、予想通りシンクはムッとした表情になる。

「何ソレ、君が言い出したんじゃないか」

「だってコレは私の持論だもん。 私が生きてきた上で見つけた答えで、万人共通だなんて思ってないし、全てのパターンに当てはまる筈ないじゃん」

少し蒸らした後、恐らく味も薄くなったであろう色の薄い紅茶をカップに注ぐ。
口を付けてみればやはり先程より味は薄い。
が、飲めないほどではないし喉を湿らす分には問題ない。
シンクを見ればまだぐるぐると考え込んでいて、このまま放っておけば何日でも考え込んでいそうだ。

よくよく考えてみれば、いや、よくよく考えなくてもネグレクトをされた子供というのはシンクの境遇に似通っているのだろう。

勝手に生み出されて、勝手に捨てられて、勝手に拾われて。
周囲の、大人の都合に振り回される子供というのは実に憐れだ。

「ねぇ、シンク」

「……何?」

「生まれた命ってさ、ソレこそレプリカもオリジナルも関係無しによ? 生まれた瞬間からさ、その命は自分のものだと私は思ってる」

そこで一区切り置いて、シンクを見る。
シンクは私が何を言わんとしているのか解らないらしく、無言で先を促す。

「だからさ、存在理由とか、生み出された理由とか、そんなの周囲の意見なんて無視してシンクが決めちゃえば良いんだよ。
だってシンクの命は生まれた瞬間からシンクのものなんだもん。
他の誰かが決める権利なんてないし、理由なんて無いと思わない?

そりゃあね? 発達しきってない身体や心じゃ保護されなきゃやってけないけどさ、幸い今のシンクには一人で生きていくだけの知識と身体があるじゃない?

やってけるとおもうんだよねー。 私よりは」

少なくともオールドラント初体験の私に比べ、シンクは生まれ育った惑星なのだ。
顔を隠しながらになるかもしれないが、きっとうまくやっていける。

「……だから、好きに生きろと?」

「そそ、自分探しの旅とかさ、楽しいかもよ? シンク強いし」

「他人事だからってどうでもよさそうに言わないでくれる?」

「だって他人事だし。
つかさ、私だって今みたいに考えられるようになるまで結構時間かかった訳よ。 

シンクはまだ…………確か、二年くらいしか生きてないんでしょ?
もっと時間かけて、ゆっくり考えて、自分に折り合いをつければ、私とは違う答えを見つけるかもしれないじゃん。

まぁその上で世界に復讐、とかそんな答えになったなら、それでも良いんじゃない?
事実私の居た世界でも親殺しの子供とか居たらしいし」

そこで言葉を切り、紅茶を飲む。
私の言いたいことはこれで終わりだから、後はシンクの質問に答えるくらいだろう。
というかそもそも何でこんな話になったのかさっぱり覚えてないが、まぁ軌道修正はシンクがしてくれるだろうから気にしない。
話が脱線するのは乙女の常道である。

シンクは苦々しい表情のまま暫く固まっていたが、やがてゆるりと首を振り、此方を見ないまま聞いてきた。

「……存在理由なんか探してどうすんのさ」

「え? シンクって自分の存在理由否定されたから世界憎んでるんじゃないの?」

「…………まぁ、そう、だね」

私があっけらかんと言えば、間を置いてから認め辛いけれど結局はそうなのだろうという感じで小さく頷くシンク。
まぁまだ2歳児なのだ。
悩めるだけ悩めば良いと思う。

しかし酷いと言われようがなんだろうが、その悩みは私にとっては他人事だ。
なのでそろそろ自分の欲望のために動こう。
私はカップをテーブルに置き、身を乗り出して真剣な顔で言った。

「ところでさ」

「何?」

「お腹空いた」

「…………」

そしたら、無言で返された。
しょうがないじゃないか。
飲み物を飲んだら腹が減ったのに気付いたんだよ。

「そこら辺の草でも食べれば?」

「食べられるの?」

「お腹壊すだろうけどね」

「食べられないんじゃん!」

一気に空気が軽いものへと変わる。
呆れたらしいシンクはとっくに冷めた紅茶を一気に飲み干してから立ち上がると、そのまま外へ繋がる扉へと向かって歩き出した。

「どっか行くの?」

「君と居ると僕まで飢えそうだから、現在地の確認も兼ねて何か探してくる」

「シンクって料理できるの?」

「野営経験はあるからね、多少はできるよ」

「ご馳走様です」

「君の分まで作るなんて言ってない」

「鬼! 悪魔!」

涙目になりそうな私を鼻で笑ったシンクは、そのまま出て行ってしまった。
くそぅ、飢え死にしたら化けて出てやるんだからな!



存在理由




遅々として話が進みません。
何故だ。(答え、話が脱線しまくってるから)


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