04
無事アッシュの捕縛を終え、シンクやディストを含めたアッシュ捕縛隊は誰一人欠けることなくカイツール軍港へと帰還することができた。
それを迎え入れたアルマンダイン伯爵は黙したまま国境にて帰還を待ちわびていたルークの前へとアッシュを差し出す。
事前にルークとのやり取りがあったとはいえ、襲撃犯を前にしても怒りを露わにしないのはさすがとしか言いようが無いだろう。
勿論その目には隠しきれていない怒りが燻ってはいたが、それはキムラスカへの忠誠心あってこそである。
故にルークはそれを咎めることなく、アッシュの捕縛と連行を成したアルマンダイン伯爵にねぎらいの言葉をかけただけだった。
関節をがちがちに固められるように縛り上げて自由を奪われ、更にその上から簀巻きにされて新手の納豆の如き格好にされたアッシュは荷物のように馬車の中に突っ込まれることになる。
バチカルまで連れて行き、後は伯父と父の判断を仰ごうというのがルークの出した結論だったから。
そうして一難を乗り越えようやく帰還したバチカル。
縦長の町に流石のアルテミシアも驚いたようで、パチパチと眼を瞬かせながら街を見上げている。
その反応に密かに笑みを零しつつ、ルークは迎えに来たというゴールドバーク将軍と向かい合い挨拶していた。
そしてその背後から更に護衛を引き連れて現れた人物にルークが目をぱちくりさせる番だった。
「ルーク!無事でしたのね!」
「ナタリア!」
金色の髪がふわりと膨らませながら、護衛を引き連れたキムラスカ王女、ナタリア・ルツ・キムラスカ=ランバルディアはルークの元へと駆け寄った。
ルークに抱きつかなかったのはひとえに人前だったからだろう。
それでもルークの全身を見て怪我が無いか確認しているのだから、人目が無ければそれこそ抱きついていたに違いない。
「無事でよかった。貴方が誘拐されたと聞いて心臓が止まるかと思いました。
セシル将軍、ルークが無事帰還できたのも貴女のお陰ですわ。礼を言います」
「勿体無いお言葉にございます」
ナタリアの言葉に深々と頭を下げるセシル将軍。更にナタリアはイオンに対し久しぶりだと挨拶を交わす。
ルークは今回自分が無事帰還できたのはセシル少将の働きも勿論だが、この二人のお陰でもあるのだとフリングス将軍とアルテミシアをナタリアへと紹介する。
ナタリアは礼装に身を包んだフリングス将軍に無礼を詫びると改めてルークを保護してくれた礼を述べ、同時に歓迎する旨を口にした。
そして無言を貫き目礼だけに留めていたアルテミシアへと視線を移す。
「貴女のことも聞き及んでおります。クロエとやらを使ってルークの無事を知らせ、またカイツール軍港では我が軍の助けとなってくれたとか。
我が民を守ってくださったこと、そしてルークを守ってくれたこと、キムラスカを代表して礼を言わせて頂きますわ」
「ありがたきお言葉」
「まぁ立ち話もなんだ。まずは上層部に向かうか」
「そうですわね。フリングス将軍、アルマンダイン伯爵から鳩が届いております。
謁見は明日でも宜しくて?」
「勿論です。迅速な対応、感謝いたします」
「ルークの恩人ですもの。これくらいはさせて頂きますわ」
完璧な微笑と凛とした立ち振る舞いに、遠巻きながらも見ていた市民達はアレがナタリア王女かと見とれている。
同時に今回帰還した、実質次期国王だと言われているルークの姿にもまた感嘆の息を漏らしていた。
気の早い者だと、あの二方の御子ならばさぞ美人に違いないなどと言う始末だ。
こうして市民の視線を総さらいにしてバチカルを騒がせた王女と公爵子息はバチカル上層部、王城とファブレ公爵邸が構える最上層へと向かった。
勿論ルークに同行していたアルテミシア達や、イオンなども共に向かっている。
フリングス将軍とイオンはそのまま王城の客室が集まる棟に案内され、ルークとナタリアはファブレ邸へと行き先は別れてしまったが。
「おお、ルーク!無事だったのですね!お前が良からぬ輩にさらわれたと聞いて、母は心臓が止まるかと思いました」
「只今帰還いたしました。ご心配をおかけして申し訳ございません」
「良いのです。無事に帰ってきてくれただけで母は安心できました」
帰還したルークをまず迎えたのは、ルークの母、シュザンヌだった。
病弱ではありながら権謀術数渦巻く王宮を生き延びた過去を持つ彼女は実に強かで、ルークの無事を心の底から喜んでいるのは確かだ。
しかし彼女の足元でぐったりとしているクロエを見る限りそれだけでないのは明らかで、いつに無く弱りきったクロエを見てシエロが慌てて駆け寄り、アルテミシアが珍しいその姿に目を丸くしているほどである。
「貴方がアルテミシアさんですね?まずはルークを守ってくださってありがとう。
貴方がクロエを使って知らせてくれたお陰でコチラも準備をすることができました。
僅かだけれどラムダスに礼金の支度はさせてあります。受け取ってちょうだいな」
「お気遣い、ありがとうございます」
「それにルークの帰還を待っている間、一人で居たら気が滅入って寝込んでいたでしょうけど、クロエのお陰でとても楽しく過ごせました。
クロエにもお礼をしたいのだけれど、何をあげればこの子は喜ぶのかしら?」
つやつやとした笑顔で気が滅入っていたと言われても説得力の欠片も無いが、そこはあえて誰も指摘しない。
そしてアルテミシアの足にしがみ付き、今にも泣き出しそうな雰囲気を醸し出しているクロエも、見なかったことにされた。
いや、唯一シエロが慰めるようにしてクロエの肩を叩いていたが、いかんせん二人ともひよこのような格好をしているのでギャグにしか見えない。
アルテミシアはその一連の流れを見て、シュザンヌは敵に回すべきではなく、またはむかうべき相手ではないと判断してにっこりと微笑む。
この子は甘いものが好きなんですよ。まぁそうだったの、ではパティシエに砂糖菓子でも作らせて持たせてあげるわ、時間はあるかしら。勿論です。暫くはバチカルに滞在する予定ですから。
と、笑顔でシュザンヌに対応した。それを見て密かにルークがグッジョブを送ったのをシンクたちは見逃さなかった。
「それではおば様、私はお父様にルークの帰還を報告して参ります。ルーク、明日は登城されるのでしょう?」
「ああ、いくつか報告したい案件もあるしな。出迎えサンキュな」
「貴方の無事を確認したいがために私が勝手にしたことですわ。長旅で疲れたでしょう?今日はゆっくり休んでくださいまし」
シュザンヌとアルテミシアの話の隙間を縫い、キリをみたナタリアがそう告げてファブレ邸を去っていった。
シュザンヌもまたいつまでも立ち話もなんだからとメイドにお茶を淹れる様に言ってから自室へと戻っていく。
何だかんだ言いつつ、今日は無理をして床上げをしてルークを出迎えたらしいとメイド達がこっそり報告をあげていた。
「父上は城か?」
「はい。夕方には戻られるかと」
「なら報告は夜でいいな。アルテミシアも今日はうちに泊まっとけよ。どうせ宿とるんだろ?」
「宜しいのですか?」
「構わねーよ、客室なら腐るほどあるしな。シンク達も一旦落ち着くまで客室で過ごしてくれ。部屋を用意させるから」
「いいの?」
「父上に説明する際に呼び出すかもしんねーから宿屋だと遠いしよ。うちで匿うって言ったのはオレなんだから気にすんな」
「では、遠慮なくお世話になりましょうか」
ルークの誘いを素直に受けることにした三人は、こうしてファブレ家に世話になることが決定した。
ケテルブルク出身のディストはともかくとして、産まれてこの方殆どをダアトで過ごしたシンクは貴族の屋敷に緊張を隠しきれていないようだ。
ちなみにアリエッタはイオンと一緒に王城に行っているし、導師守護役を解雇されたアニスはローレライ教団バチカル支部へと行かされている。
その夜、ルークは帰還するまでの全容を父に報告。
教団員による愚行から始まり、オリジナルルークの暴挙、モースが指示したタルタロス襲撃の真相、はたまた髭が計画していた杜撰な計画などを聞いた公爵は頭を抱えた。
公爵はそれを更に国王へと報告し、報告を受けた国王は密かにヴァンの尋問を開始するよう指示。
外郭大地、終末預言、魔界、ユリアシティ、レプリカ大地計画などなど次々に露わになる真実にキムラスカはてんてこ舞いになったものだが、勿論外部の人間であるアルテミシアには知ったこっちゃなく。
「え?シュザンヌ様が怖かった?一体何をしてたんです?
リボンをたくさんつけられて?ドレスまで着せられそうになった?
あぁ、ラッピーの姿のままじゃ仕方ありませんよ、見た目は大きいぬいぐるみですから。
それだけじゃない?笑顔で拷問?何を言ってるんです?
シュザンヌ様は王族なんですから自ら拷問を行う筈が無いでしょう?
鞭と譜術が乱舞してたって…あの方が鞭ねぇ…」
あわただしくなる王城を余所にファブレ邸に居る間、キムラスカに派遣していたクロエのケアに勤めていたという。
この後、親善大使としてアクゼリュスへ向かうことになるルークの護衛として正式にファブレ公爵家から雇われることになるのだが、それはまた別の話。
歯に衣着せぬ訪問者
えっと、終わりがちょっと強引過ぎる気もしますが、歯に衣着せぬ訪問者、これにて終了です。
次書くならちょっと戻ってルークと出会ってタルタロスに向かうまでの間の話とか書いてみたい。
胡乱なる訪問者、みたいなタイトルで。
あとさりげなく捏造ナタリアです。初です。
にしても最初ネタとして考えてた時点ではアクゼリュス派遣は無かったんですが、何かこの終わりだとルーク親善大使になる話になっちゃってますね。
おかしいなぁ?
志紀様、大変お待たせいたしました。
お気に召していただけたなら幸いです。
リクエストありがとうございました!