それを愛と呼ぶならば、(03)
「ダアトの解体も完了、教団は順次経営縮小を決定、送り込んだ執政官に対する反応はどうだ」
「はっ。最初は反発されていましたが、現在の態度は軟化していると言って良いでしょう。新事業の展開と、教団への力添えが功を成したようです」
「新エネルギーに関してはどうなっている」
「風力を利用した風車なるものをシェリダンが開発し、そこから生まれるエネルギーを機器の動力源に利用できないか模索中です。それに伴い開発費の増額を求めています」
「そうだな……ベルケントの方にも金はかけてやりたいしなぁ……」
全員で知恵を出し合う議会。新勢力が完全に仕切っている議会では様々な意見が飛び交い、試行錯誤を繰り返しながら問題を解決しようと全力を傾けている。
ナタリアの処刑が決まり、パダミヤ大陸を配下に治め、ルークは後数日もすれば王になろうという時期に来ていた。
若手の者達と舌戦を繰り広げている姿は為政者そのものであり、最早王宮に勤めるものでルークをあざ笑う者は居ないだろう。
例えレプリカの身であろうとも、ルークはその確かな手腕でキムラスカを支えようとしているのだから。
議会が終わり、従者より報告を受けたルークはルビアと共に地下牢へと足を運ぶ。
そこにはかつて"死霊使い"と呼ばれた男と、親友だった男が牢の中で憔悴した面持ちを見せていた。
「久しぶりだな、ジェイド、ガイ……いや、ガイラルディアって呼んだ方が良いか?」
「お久しぶりですね……まさかこんな形でお会いするとは思いませんでしたよ」
「ルーク……ルークなのか!? お前、一体どういうつもりだ!?」
僅かに頬をこけさせながらもかつての口調を失わない男と、感情のままに柵に縋りつく男。
相対した姿にルビアは微かに頬を緩ませ、辛辣な笑みを浮かべていた。
「ルーク様、やはりここは空気が悪すぎます」
「でも一緒に旅した仲間だから、さ」
「そうですか……差し出がましいことを申し上げました」
「いいよ、ルビアはオレを心配して言ってくれてるっていうのは解ってるから」
一緒に旅をした仲間だと言いながら、柵越しに呑気な会話を続けるルーク。
同一人物の筈なのに二年前の彼と今目の前に居る存在が結びつかず、ガイは軽いパニックに陥った。
ジェイドもまた、眼鏡のブリッジを押し上げながら黙ってルークを見ている。
「で、二人の今後なんだけど、これからキムラスカで処刑ってことになってる。安心しろよ、マルクトに対して慰謝料や賠償金は求めてない。ま、ダアトを譲ってもらったからそれが実質賠償金かな」
「何言ってるんだルーク…お前一体どうしちまったんだ!?」
「別にどうもしてねぇよ。ただお前達に責任を取ってもらうってだけで」
「責任……ですか」
「そ。王族であるオレを護衛しないどころか闘わせたこととか、ユリアシティに置き去りにしたこととか、不敬罪とか侮辱罪とか、ジェイドは脅迫罪とかも入ってるけど」
「何言ってるんだ! 俺たちは仲間だろうが!」
「おかしなこというなガイ、罪を償うのは当たり前のことだろ? オレにも散々アクゼリュスの罪を突きつけたじゃないか。だからお前達も罪を償えって言うだけさ、オレなんかおかしいこと言ってるか?」
ルークの言葉にガイは絶句し、ジェイドは無言を貫いていた。
身から出た錆だと、自業自得だとルークは言っている。
「こうなることくらい、解ってただろ? オレより賢くて、常識があるガイとジェイドなら。オレと違って世間知らずでも無いし、責任が何か知ってる大人だもんな? だから別におかしなことなんて何も無いだろう?」
常識を知っているなら、解って当然。皮肉たっぷりに追い討ちをかけられてガイはずるずるとその場にへたり込む。
そして縋るようにルークを見上げ、その目に敵意を見出し肩を跳ねさせた。
「復讐するためにオレの傍に居たガイ。自分が復讐されるのはどんな気分だ?」
「復、讐……お、オレは何もしてないだろう!? むしろ俺たちは親友で、」
「オレをずっと見捨ててきた、オレをずっとヴァン師匠に売ってきた。解るか? ガイがヴァン師匠に協力するってことは俺を裏切るってことなんだよ。先に裏切ってたのはお前。先にオレを捨てたのもお前。な、これのどこが親友なんだ?」
「そ、れは……」
ガイは視線を泳がせながら、震える手をぎゅっと握り締める。
それでも許してくれたんじゃないのかと顔が言っていて、ルークはその場にしゃがみこんでガイと視線を合わせ、優しいともいえる口調で説明を続ける。
「親友だったなら、犯した罪に対して見てみぬふりをしてやったかもしれない。けど、親友を先にやめたのは……いや、親友の皮を被っていたお前を庇う義理は無い。だってお前、裏切ってたことに対して一度もオレに対して頭下げてないだろ?」
その言葉を聴いたガイは弾かれたように顔を上げたが、ルークは笑みを浮かべたまま最後の言葉を告げる。
「貴族としての誇りがあるのなら、潔く罪を償え。ガイラルディア・ガラン・ガルディオス」
最早同情すら向けられないのだと悟り、ガイは言葉をなくしてその場にうなだれた。
ルークはそれを見届けた後、牢の奥で無言を貫き続けていたジェイドを見る。
「お前は……言わなくても解ってるよな」
「……我々は見捨てられた、ということですか」
「そうさ。いくらお前が皇帝の幼馴染だろうと、国民と天秤にかけられれば陛下とてお前を切り捨てる。権力を持ってるのはお前じゃない。陛下だ。それを身を持って知ったか」
「えぇ。しかし貴方がここまでするとは……流石に予想外でした」
「もう、一人じゃないからな。コイツと一緒に歩くためなら、一緒に国を支えていくためなら、オレはどんなことだってするさ」
そう言って立ち上がったルークは黙って成り行きを見守っていたルビアを振り返り、そっと手を取る。
ジェイドは無言でその様子を見た後、彼にしては珍しく深く長く息を吐いた。
「……貴方は真に仲間といえる人間を見つけたのですね」
「ルビアは仲間であり、伴侶であり、人生のパートナーだ」
断言するルークの瞳には、確かな光と溢れんばかりの愛情が見て取れた。
それを見たジェイドは唯一牢屋に持ち込むことを許された眼鏡を外し、ルークを真っ直ぐと見る。
「国の決定に逆らうつもりはありません。幸い私は死というものが理解できない。処刑に対する恐怖もそれほどありませんからね…逃げ出さずに受け入れますよ。これで痛くない方法ならば嬉しいんですがね」
「安心しろ、ギロチンだから痛みを感じる暇もねぇよ」
「それを聞いて安心しました。最後に一つお願いしても?」
「何だ?」
「我侭を言える立場ではないと解っていますが……私の遺体はケテルブルクに埋葬して欲しいのです」
「……ピオニー陛下に打診してみるよ」
「ありがとうございます」
微かに笑みを浮かべ、ジェイドは眼鏡をかけて硬い椅子へと腰掛ける。
口をつぐんだということはこれ以上話すつもりは無いのだろう。
「ルーク様、そろそろ……」
それを頃合と見たのか、ルビアがそっと声をかけた。ルークもそれに頷き、別れの言葉も無く彼等に背を向ける。
かつて親友だった男が僅かに声を上げたが、ルークが気に留めることはついぞ無かった。
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