それを愛と呼ぶならば、(04)


 ジェイドとガイがキムラスカにて処刑され、ルークは新国王として即位した。
 政治に参加できるようになった途端、次々に企画を打ち出してきたルークの人気は高い。

 ジェイドの遺体はピオニーの協力の元ケテルブルクへと移送された。
 最期の最後で己の罪を自覚した罪人への、僅かな慈悲だった。自覚しなかった者達の遺体は言わずもがなである。
 かつての仲間達を死に追いやったというのに、ルークは全く感慨を覚えていなかった。今もまた、新たな伴侶と共に穏やかな時間を過ごしている。

「アニスがマルクトで処刑されたってさ」
「彼女のことですから、さぞ喚いたのでしょうね」
「正解。パパが、ママが、仕方なかったのって、最後まで言い訳してたらしいぞ」
「己の罪を受け入れることすらできないのに、よくもまぁ導師など目指せたものです」
「アニスとしてはイオンの意志を継ぐつもりだったみたいだけどなぁ」
「己が主を殺した意識すらないとしか思えません。戯言もここまで来ると喜劇に見えると私は初めて知りました」
「アイツ、タルタロスの人間が自分のせいで死んだってことも、アクゼリュスの救助が遅れたのは自分のせいだってことも自覚してなかったからなぁ……」
「おつむが足りませんの?」
「どう、だろう……貧乏だったらしいから、ろくな教育を受けてきてなかったのかも」

 王宮内にあるルークとルビアの寝室で、お互い寝巻き姿でソファで寛ぎながらそんなやり取りをしている二人。その二人の目の前には、豪奢な室内には不釣合いな動物用の檻が置かれていた。
 その中には手足を拘束され、身体を折りたたむようにして押し込まれたティアが入っている。猿轡をされているため呻き声しか聞こえないが、その瞳は射殺さんばかりにルークとルビアを睨みつけていた。

「それで、これはどうするのですか?」
「楽に殺してはやらない、ってのは決めてるんだけど……中々具体案が思いつかなくてさ」

 頬をかきながら言うルークにルビアはくすりと笑みを漏らし、そっと寄り添い肩に頬を寄せる。ルークもまたそんなルビアの肩に手を回し、微かに力を込めて身を寄せ合った。
 愛し合う姿を見せ付けられ、ティアの視線はますます剣呑なものになっていく。それを見たルークはソファから立つと、檻の中に手を伸ばしティアの猿轡を解いてやった。
 檻に刻まれている譜陣のせいで譜歌は使えないのだ、外しても問題は無いだろう。

「ルーク!! こんなことをして、一体どういうつもり!? 変わるとか言った癖に、余計酷くなってるじゃないの!!」
「お前はちっとも変わらないな……」
「何ですって!? 罪をでっち上げて私をこんな目に合わせて、一体何の恨みがあるって言うの!?」
「は? お前解ってなかったの?」
「私が何の罪を犯したというの!!」
「えっと、オレの屋敷に不法侵入して住民を眠らせたこと。これが不法侵入と傷害罪。更にオレを擬似超振動で屋敷から連れ出したこと。これが誘拐罪。それからオレに戦闘させたこと。これが殺人及び戦闘強要による軍法違反と不敬罪。それとオレを怒鳴りつけたり馬鹿にしたりしたろ? これが侮辱罪な。あとヴァンの計画を黙ってたこと、これは情報隠匿罪……あ、幇助罪も適用されるな」
「ふざけないで! 私はちゃんと貴方をお屋敷まで送り届けたし、奥様にも謝罪して許されたのよ!?」
「母上が一言でも許すって言ったか?」
「それ、は……」

 ルークの問いかけにティアは黙り込む。
 思い返してみても、シュザンヌは肉親同士で争い合うなと言っただけで許すとは一言も言ってなかった。ルークに言われてようやく気付いた事実に、ティアはそっと目をそむける。

「でも! 私は貴方を無事送り届けたわ!」
「誘拐犯が被害者を家に帰したとしても罪は消えないし、お前はオレを戦闘に参加させた。これを無事とは言わないし、これも罪になるって今言ったよな?」
「闘える人間が闘うのは当たり前のことでしょう!」
「そんな常識存在しねぇよ。闘うのは傭兵や軍人、そういった職業についてる人間だけだ。軍人は一般人を守る義務があるって知らないわけじゃないだろ? お前は軍人として最低なことをしたんだよ。いい加減自覚しろよ……」
「でも……でも! 私は罪を犯した貴方を見守り続けてきたじゃない! 罪を償おうとする貴方をずっと見てきたわ! それなのに、それなのにあんな女と……!」

 話題をすり替え、何とかルークを悪役に持っていこうとするティア。
 キッとルビアを睨みつけるが、ルビアはティアの視線など何処吹く風だ。

「はい、それも不敬罪。オレは罪を償った。だからお前も罪を償えよ。今説明したんだから、罪を犯したって言うのは解っただろ?」
「あ、あの時は兄さんを止めなくちゃって焦ってて……」
「けどお前は謝罪の一言だけで後は不敬罪連発してたからな、情状酌量の余地は無い」
「アレは貴方の態度が悪かったから……っ!」
「襲撃犯で誘拐犯のお前に態度良くしろって? 無茶言うなよ。先に態度が悪かったのはお前」
「それは兄さんを止めるためで!」
「だからその後の態度でお前は情状酌量の余地をなくしたんだって」

 話題を修正されて言い訳を繰り返すティアに、ルークは呆れた表情を隠さないままため息をついた。
 堂々巡りになりそうな会話を無理矢理切り上げたルークはまるで愚かな子供を見るようにティアを見下し、侮辱と感じたのかティアはルークを睨みつける。

「ルーク様、彼女には何を言っても無駄ですよ。人語が通じないのですから」
「みたいだなぁ……昔はここまで酷く無かったと思うんだが」

 ソファに戻りもう一度ルビアを引き寄せてそっと口付けるルーク。
 溢れんばかりの愛情が見て取れて、ティアは嫉妬の炎を燃え上がらせながら二人をにらみつけた。

「ルークをずっと見守ってきたのは私よ! ルークに近づかないで!」
「あらあら。子供染みた独占欲をルーク様に押し付けないで下さいな」

 くすくすと笑うルビアは嘲りの笑みを浮かべてティアを見下ろしている。
 ティアは歯噛みしながら再度喚こうとしたが、ルビアに投擲用のナイフを投げられて無理矢理口を噤まされた。
 ナイフはティアの首筋を掠めていて、何本かの髪を切り落とし首筋に一本の赤い線をつけている。

「私はルーク様の妻となると決まった時、ルーク様の姿見を見て感じましたの。預言でもない予感、そう、運命と言うのかしら? 私の過去はルーク様に出会うためにあり、私の未来はルーク様と共に歩み続けるためにある。そして同時に、ルーク様の全てが欲しいと思ったのです。だから私は生涯この方を愛しぬき、時に支え合いながら一生共に歩み続けようと己に誓いました。こうしてお会いした今も、かつてよりも遥かにルーク様をお慕いしております。ルーク様の全てを受け止め、ルーク様だけを見つめて、ルーク様のためならどんな力でも振るいましょう」

 まるで神の啓示を受けたように恍惚とした表情でルビアが語る。
 彼女にとってルークに出会えたことこそ人生で最高の幸運であり、ルークのために働けることは最上の幸せなのだ。

「けれど私は自分が思ったよりも心が狭い人間だったようです。例え過去のことであろうともルーク様が侮辱されたことが許せなかったのです。そう、貴方のような人間がね」

 一転して憎悪に燃えた瞳でティアを見下ろすルビア。その瞳の強さに気おされたティアが縋るようにルークへと視線を移す。
 しかしルビアの言葉をうっとりとしながら受け止めたルークもまた、ティアを置いてルビアの肩を抱きよせ、幸せそうに言葉を紡いだ。

「ルビアはオレのことを愛してくれてる。オレの全てを受け止めて、オレのことだけを見てくれる。厳しいことも言うしオレを叱る事だってあるけど、全部オレのためだって解る。オレを利用するだけだったお前達とは違う。凄く嬉しかったよ。だって今のままのオレで良いって言ってくれたんだ。イオン以外、そんな事言ってくれる奴なんて居なかった。みんなみんな、オレを否定するばかりだった……だからオレは、オレだけを見てくれるルビアを愛するって決めた。オレの妻としてずっと傍に居て欲しいって今では心の底から思ってるよ」

 愛情を煮詰めたようなどろりとした声を信じたくなくて、ティアは何度も首を横に振っていた。
 ルークは自分を見てなどいない。そんなこと、信じたくなかった。

「ルビアに色々教わって一時はお前達を憎みもしたけど、オレたちにはキムラスカを支える義務がある。だから昔のことだしお前達に構ってる暇は無いって忘れようと思ったんだけど……ルビアがどうしても許せないって言うからさ。でも安心しろよ。既にジェイドとガイ、それにアニスとナタリアは処刑された。後はティアだけだ」

 一体何を安心しろというのか。
 ルークは朗らかに笑うものの、絶対零度の視線でティアを見下しながら傍にあったベルを鳴らした。

「わ、私は貴方が好きなの! ずっとずっと見守ってきたじゃない!貴方だって私のこと……!」
「オレ、ティアが好きだなんて言った覚えはないぜ? ガイやアニスは勘違いしてたけどな。お前に向けてたのは見捨てられるかもしれないって言う恐怖だけだ。いつでも見限れるなんて脅し文句吐いて、じっと観察して、大人しくなった人間に好きだなんて言える女、誰が惚れるかよ」

 予想だにしてなかったルークの言葉にティアは目を見開き、顔から血の気が引いていく。
 その瞳には涙が浮かびはじめていたが、入ってきた警備兵に再度猿轡を付けられ言葉すら奪われる。

 それでも何か呻き続けているのは、ルークへ縋る言葉なのか。
 しかしルークは既にティアへの興味を失っていて、檻を運び出していく警備兵を横目に微笑みを浮かべながらルビアを抱き寄せていた。

「ルビア……愛してる。これからもずっと、ずっとずっとオレの隣に居てくれ」
「勿論です。このルビア、いついかなる時でもルーク様のお傍に居ります。ずっとずっとお傍に置いて下さいませ……」

 しなだれかかるルビアに、ルークは情熱的な口付けを落とした。そのままルークの頭に腕を回すルビアを横抱きにして、ルークはベッドへと歩み寄る。
 子供を作る。それもまた公務の一つだが、ルークにとってはルビアと一つになれる至福の時間だ。

「お前の愛って、結構歪だよな……」
「ふふ、こんな妻は嫌ですか?」
「いや……心の底から愛してる。つまりオレも歪ってことだ」
「では丁度良いではありませんか。お慕いしております、ルーク様……」
「あぁ……愛してるよ、ルビア」

 ルビアをベッドに降ろし、そのままシーツの海に溺れる二人。屍を積み上げ歪んだ愛に身を包んだ二人だが、それでももう後戻りはできない。
 これもまた愛の形の一つなのだろう。快楽に融けていく思考の底で、ルークはそっとサヨナラを告げた。


 END.


 以下、あとがきというか解説というか、言い訳です。

 ルークに一目ぼれしたヤンデレ夢主がルークを愛しまくって、それに溺れたルークが仲間を断罪して国をのっとる。という話だったのですがどうも解りづらい……。
 描写は省かれていますが、ルークは皇族としての教育を受ける際に、夢主に貴方の仲間たちは非常識の塊、おかしかったんだよと教えられています。むしろ洗脳の上書きに近い勢いです。

 その上で押せ押せで愛されまくったルークは"夢主>>>>>>かつての仲間"となったので、夢主の我侭も相まって断罪となりました。なのでかつての仲間を裁く罪悪感や恐怖など微塵も無いです。
 全てはルークの心を掌握したい、独占したいという夢主の思惑通りです。だからマルクトに借りを作ってパダミヤ大陸掌握というのも、断罪ついでに手柄を立てルークの地位を確立させる意味もあります。

 今回は厳しめメインに書いたのでヤンデレっぷりが発揮されていないのが心残り。
 長くなり過ぎないようにと駆け足気味でしたし、ジェイドは悟っちゃってるからほぼ断罪シーン無し、アニスにいたっては登場すらしていない(笑)
 次はヤンデレメインで書いてみたいですね。

 そして最後のルークのサヨナラですが、誰に向けて言っているのか。かつての仲間達か、今まで犠牲になってきた人々か、はたまた今までの自分か。それは読んでいる皆様のご想像にお任せします。
 拙い文章を読んで頂きありがとうございました。


2014.10.14
2024.08.22 ちょっと手直し


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