声をかける


「っ、あの!」

歩いてるはずなのに、走っているかぐらい早い彼に追いつくのは疲れる事だった。 
息切れしながら彼の服の裾を掴む私を、つい先ほど仲間になってくれた鴉が励ますようにカァ、と鳴いた。
ありがとう、私頑張る。

「っあんとき、助けてくれ・・・っ、ふぅ・・・ありがとう・・・」

だくだくと出る汗をぬぐいながら何とか彼にお礼を言うが、全く反応が返ってこない。
うーん何故かな?何か気に障ってしまったのだろうかと、やってしまったと思い彼を見ると、なんとそんなことはないというか、私に気づいているのだろうかこれ。

最初に見たぼんやりと霞んだ瞳は青い空を見上げ、流れる白い雲を追うばかり。
声が小さかったのだろうか?いやでも裾、裾ひっぱてるのだが。
困惑しながら彼を見ていると、空に向いていた目は突然こちらを向いた。

「君、何?僕これから行くところがあるんだけど。」

ピキリと、空気が凍った。

うっそまじで今の何も聞いてなかったの?本当に?
さすがにびっくりしてしまうんだけど。服の裾まで引っ張ってたのに?

目が飛び出さんばかりに開いてる上に、ぱかりと大口を開けたまま固まった私はさぞや滑稽だったのだろう。

今まで表情が変わらなかった彼は、クスリと唇の端を持ち上げた。

「腹の減った可哀想な鳥みたいな顔だね、女の子なら口ぐらい閉じた方がいいんじゃない?」

なんてことだ。

ぼんやりとはしていると思ったが、さてさてこれは近くで見ればまぁ整っているお顔だと思っていたところで。

「……、……。」

あまりと変わりように私の脳は処理するのを諦め、取り敢えず口だけは閉じた。

相当な阿呆面が直ったのかは見た人にしかわからないが、私が口を閉じたら、彼はまたスッと興味を失ったように元の表情に戻り、また歩き出そうとした。

「いやいやいや待って待って待って」

もしかして話が噛み合わない人なのか、これは強引に行った方がいいのか、うだうだとは考えていたが、思考を途中放棄した脳では何もわからなかった、ので。

「私は#dream_url#って言うの、あなたは?」

実直に、自己紹介を始めにした。

「……。」

少しだけ見開かれた目に謎の達成感を得ていたが、なんの反応もないことに嫌な動悸がした。

「…あ、あなたの名前は…」

なんですか、と言い終わる前に、彼は答えてくれた。

「…僕は、時透無一郎。」

話は終わりだと言わんばかりにまた歩みを再開した彼…、いや、時透君だったが、反応が貰えた事が何よりも嬉しかった。

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