刑務所から浮いてる女

こつりこつり。

無機質な金属の廊下にヒールの足音が響く。

犯罪者たちの騒ぐ声がうるさく、熟睡していた頭を起こす。




「紀兄。」

目の前でヒールの音が止んだと思えば、檻の外から聞こえたのは見知った妹の声だった。


重い腰を上げる。


刑務官に軽く頭を下げて、入ってきた唯一の肉親は記憶よりもずっと大人びていた。

どれぐらい会っていなかったか分からない。

妹のボブだった髪の毛は背中まで伸び茶色く輝いていて、化粧っ気もなかった顔はきれいに飾られていた。




「紫音。」

声を掛けるとゆっくりと弧を描く笑顔を浮かべるのは、記憶の中の妹だった。

「久しぶりだね。」

「おお。」

どっかりと床に腰を落とせば紫音も近くの椅子に腰を掛けた。

組まれた足元には高いヒール。
黒いタイツに黒いタイトなミニスカートを履いた#名前#は俺の顔を見据えながらまた笑顔を浮かべた。

茶色い髪は全身が黒に覆われた中で不自然に光っていて、思わず眼を反らす。



「元気そうでよかった。」

妹の声は昔からよく通る声だった。

「お前も元気そうじゃねえか。どこにいたが知らねえが、なぜ戻ってきた?」



質問に答えない妹に、逸らした目を再び交わす。


「早速だけど、本題に入るね。

 紀兄に会いに来た人がいるよね。私以外に。

 悪いんだけどさ、それダメだから。」


淡々と話しだした妹。

つい先日俺に会いに来たのは、あぶねえヤマだ。

それにこいつが首を突っ込んでいるのか??


「お前、どこま「全部知ってるよ。全部。」


微笑む紫音の目には俺の姿は映っていない。



「紀兄にはSWORDは落とせないよ、残念だけどね。達磨一家だけで満足してよ。」


「はあ??」

凄むような声も紫音には届いていないのか、目線を外しふらりと立ち上がる。


「でもここから出してもらえるんじゃ断れないよね。」


そういってひらりと手を振って出て行った。





再び騒ぎ始めた囚人の声は俺を遠くに切り離したようだ。


俺が思い出したのは、兄貴たちとの別れに一つも涙を零さなかった紫音の姿だった。