人通りのない、夜更けの米花町。
静まり返った住宅街には、風で木々が揺れる音が響く。

工藤の表札を横目に玄関のドアを開錠し、薄暗い階段を2階へとゆっくりと昇ると、廊下に一筋の明かりが漏れているのに気付く。少し開いた扉、いつもと違う光景に首を傾げたとき。

「ありす、帰ったのか」

足音が聞こえていたのだろうか、部屋の中から声がした。
…呼ばれてる?

いつも通り自室へ向かおうとしていたありすが、暫し思案したのち声のする部屋へ顔を覗かせると。


「…バーボンが仕掛けてくる」

薄暗い部屋、パソコンの前。煌々と光るモニターに照らされたそこには、
バーボン・ロックを片手ににやりと笑う、赤井秀一がいた。



******



翌日、目覚めたありすが部屋の時計に目を遣ると、時刻はゆうに正午を過ぎていた。

目覚まし掛けていなかったとはいえ、流石に寝すぎたな…
ぼんやりとした頭のまま簡単に身支度を整え、1階へと降りるとき、ありすはキッチンから聞こえる軽やかな笑い声に気付いた。

そっか、今日は有希子さんが来る日だったんだ。

昨晩ウイスキーを傾けていた素顔の赤井を思い出し、ひとり納得する。
初めて会ったあの日と変わらず、有希子さんは”沖矢昴”の為にたびたび工藤邸へ来ているようだった。



「有希子さん、こんにちは」
「ありすちゃん、おはよう。昨日は子ども達が迷惑かけたみたいで…」

赤井さんから何か聞いているのだろうか、カウンターに座る有希子さんがありすの声に振り向くや否や口を開く。ありすが、私は特に何もしてないですから…と慌てて首を振ると、有希子さんは少しほっとしたようだった。

昨日は予期せぬことに巻き込まれはしたけれど、彼女達は自分自身で窮地から逃れたし、解決したのは彼。私がどこかで特別役立ったこともなかった気がする。
…そんなことを呑気に振り返れるのは、子ども達が無事だったからかもしれないけれど。
なんてありすが思考を巡らせていると。


「ありすさん、昼食にナポリタンはいかがですか?」

「え、あ… いただき、ます」

予想外の申し出に思わず立ち止まって目を見開いたありすの様子をさして気に留める様子もなく、目の前の”沖矢さん”は棚から皿を取り出して盛り付けをはじめた。とても手慣れた様子で。
いくら設定順守だとはいえ、中身が赤井さんだと理解してしまった以上、ナポリタンを作っていることにも、”ありすさん”と呼びかけられることにも違和感が拭えない。

慣れろってのに無理があるって…
ありすは苦笑いを浮かべてカウンターに腰かける。


その様子を紅茶片手に眺めていた有希子さんは、どこか楽しそうだった。


 
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