「あー!あなた、昨日の喧嘩の…!!」

高木刑事が駆け寄ると、男はへらへらっと笑いかける。
「いやぁ、昨日はご迷惑をおかけしましたー」

ってことは、この人が噂の演歌歌手…


「半崎さん、あなたここで昨日拾いませんでした?僕の落とし物…」
「いいえ、俺は何も、多分マネージャーも拾ってませんねぇ」
「…はあ、そうですか」

ハイテンションな半崎を、早くも高木刑事は持て余し気味だ。

「落とし物ですか、俺も一緒に探しましょう!」
「ああ、いや、いいですよ、そこまでしていただかなくても…」
「恩返しがしたいんですよ、昨日は刑事さんのおかげですぐマネージャーと仲直りできましてね。で、今日は一緒に昼飯を食おうって話になったんですが、アパートで待ってたのに来ないんですよー。酒好きだからマネージャーまた朝から家で酔いつぶれてんじゃないかなぁ。参っちゃいますよね、ほんとに、はっはっはー」

よく喋るなぁ…ありすは呆れ顔で遠くからふたりの様子を見つめる。


「何度電話しても出ないんですよ、マネージャー!ってことは、間違いなく酔いつぶれてますね、家で」
「…えーと、待ってても来ないなら、あなたから訪ねていけばいいんじゃないですか?」
「だって、マネージャーの家までは車を飛ばしても1時間半もかかるんですよ!もう、めんどくさくってー」

高木刑事からはもう、面倒感が漏れ出ている。
ご愁傷様です、ありすが視線を逸らしたとき、ふと気づく。…半崎のズボンの裾が濡れてる。


「ところで、今何時ですか?刑事さん」
「はぁ…1時ですよ、ちょうど1時!」
「えぇー!もう1時!?急いで見つけなきゃー!」
「もう手伝ってもらわなくて結構ですから!」

終始軽薄でわざとらしい男の言動と、余裕がない高木刑事の噛み合っていない様子に、安っぽい劇を見せられている気分だ。

「でも、ならあの店で昼飯をおごらせてください。2時間2000円食い放題!探し物はその後でもいいじゃないですか、ね!」
「ありがたいですが、結構です!!」
「そうですか?そんな遠慮しなくていいのにー」

半崎はちらりと視線を向けるが、高木刑事の視線が冷ややかなものであることを察すると。
「よおし、2時間、限界まで食うぞー!では刑事さん、また」
そう言って、店のほうへと消えていった。

高木刑事はというと。あの二人が拾ったんじゃないとすると、まだこのへんのどこかに…!そう呟いて再び生垣の下を覗き込んでいる。


人を穿った目で見てしまうのは、職業柄どうしようもないことなのだろうか…
でも、気になってしまったものはしょうがない。とありすはすぐに開き直る。


あの男には不自然な点がいくつもある。

探し物をしているのを知っているのにも関わらず、高木刑事を食べ放題に誘う。
そして訊いてもいないマネージャーとの約束についてベラベラと喋ったあと、取って付けたように時間を訊く。

――高木刑事にこの ”1時の出来事” を認識させるかのように。

そもそも、手伝おうとする割には、探し物の特徴を一切聞いてこなかった。
こういう場合に考えられるのは2つ。探し物が心底どうでもいいか、探し物が "何か" 知っているか。



「…高木刑事、ちょっと向こうのほう探してきますね」

屈んだ後ろ姿に声をかけると、ありすは男の背中を追った。






三年烏

意地の縞目も ほつれがち

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