「なくしたのに気づいたのは今朝なんです、部屋中探したのに見つからなくて…」
「昨日までは確かにあった、と」
観念した高木刑事は頷いて、ありすに状況を話し始める。
「昨日の帰宅途中 "ぶっ殺してやる" という声が聞こえてここに来ると、男が二人喧嘩していて… 仲裁しようとも埒が明かなかったんで、警察手帳を見せて落ち着かせたんです。だからその時に落としたとしか思えなくて…」
それでこの辺りを探してたんですね。ありすは頷く。
「ちなみに、手帳を見せた後のふたりは?」
「すぐにトーンダウンしました。知人間の諍いのようでしたし、すぐに収まったので、そのまま注意だけで帰しちゃいました…」
「となると、記録なしですね。彼らが拾った可能性もあるかと思ったんですが…」
うーん、とありすは思案する。
こうなると高木刑事の記憶頼りになるかもしれないけど…
「喧嘩中にふたりは何か言ってませんでしたか?お互いの名前とか、特定の場所とか」
「ええと…」
ありすの問いかけに、高木刑事も考え込む様子を見せるが、すぐにそうだ!と顔を上げる。
「半崎だ!若いほうの男の名前は半崎、職業は演歌歌手、もうひとりのほうはマネージャーで、売れないのはお前のせいだ、貸した金とこれまでの時間を返せと半崎から一方的に詰られてました…」
「なるほど…」
売れない演歌歌手とマネージャー
ありがちなシチュエーションにありすは眉を顰める。
「ふたりの恰好は覚えてますか?洋服とか、鞄とか」
「半崎って男のほうはオレンジのシャツにベージュのパンツ、マネージャーのほうは黒のスーツで、鞄は…どうだったかな、揉みあってるときは持ってなかったと思うけど…」
記憶を辿る高木刑事に、靴はどうですか?とありすが訊くと。
ええと…と俯いたあと、高木刑事にの表情がぱっと明るくなる。
「神崎って男のほうはサンダルでした!」
「だとすると、少なくとも神崎って男は近くに住んでるかもしれないですね」
「ええ、そうですね!」
「あとはどうやって探すか、ですが…」
近所に住む、売れない演歌歌手の居場所を割り出す効率的な方法…
ありすが思考を巡らせていると。
「あれ、刑事さん!何してるんですか、こんなところで」
――尋ね人は、向こうから現れてくれたようだった。
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