大通りに面した焼肉店。全面ガラス張りの窓から店内を覗き込むと、その姿はすぐに見つかった。
”半崎”と名乗った彼は、宣言通りこの店でひとり食べ放題を満喫するつもりらしい。
テーブルの上に視線を向けると、並んでいるのはウーロン茶と肉の盛り合わせ。ほかの客へも同様に運ばれているのを見るに、最初の一皿は盛り合わせが提供されるようだ。
だが、ありすはすぐに異変に気付く。
…食べてない?
割り箸は割られておらず、たれの皿は真っ白なまま綺麗で、網の上には肉や野菜が乗せられているものの、いくつかは黒い煙が立ち昇っている。
当の本人はというと、時折ウーロン茶に手を伸ばし、トングで網の上のものをつついているだけ。
ありすは不審に思いつつ、先ほど神社で見た半崎の様子を思い返していた。
へらへらする人間によくあるのは3種類。特に意見もなく場合によってはどうでもいいと思っているか、本心を悟られたくないか、相手と同じ土俵に立ちたくないか――
自分で首を突っ込んでる時点で最初と最後の線は薄いとすると、何か隠し事があるということだろうか…
昨晩、言い争っていたふたり。
”酔いつぶれているに違いない”連絡の取れないマネージャー。
高木刑事に”1時”に会い、その後食べ放題へと執拗に誘っていた男。
これから2時間、ここで意味もなく肉を焼き続けるであろう男。
――探し物の正体を知っているかもしれない男。
いずれにせよ、確認しなければいけないみたい。
ありすは売れない演歌歌手の手掛かりを探して再び歩き出した。
******
「…大当たり」
老舗レコード店の入口には、外から見えるようにポスターの数々が並べられている。
先日デビューしたアイドル、実力派デュオに、今話題のシンガーソングライター…
そして幸運にも半崎のサイン付きポスターも。
自動ドアに導かれるまま店内に入ると、奥のカウンターには妙齢の女性が座っていた。
「すみません、このあたりにある半崎さんのお宅を探してて…」
「…半崎さん?」
「あ、ええと…」
入口のポスターを思い返す。
『天音次郎 薔薇の旅人』と書いてある中央で、半崎は微笑んでいた。
「ここでは、天音次郎、ですかね…?」
地域を挙げて応援してます、といったところだろうか。カウンター奥の壁には天音次郎とのツーショット写真も飾られている。
「ああ!次郎ちゃんね! でもアンタ…」
「いつもお世話になっております。事務の矢崎と申します。マネージャーが現場を離れられないとのことで、急遽忘れ物を取りに来たのですが、このあたりに詳しくなくて…」
…視界の隅ではポスターの中の矢崎栄吉が熱く歌っている。
どこの誰だといわんばかりの不審な視線にありすが微笑み、そして困った顔を覗かせると、目の前の女性は、あらそうなのね、と大きく頷いた。
「次郎ちゃんがこの近くに住んでるのは確かだけど、家まではわかんないわねぇ…あ、でも八百屋で買い物してるのはよく見かけるわよ。あの道の奥にある川上青果店」
視線の先には、老舗の商店が並ぶ小道。
ありすは女性にお礼を言うと、足早に店を後にした。
ALICE+