「赤井さんは、組織にいた頃から面識があったんですよね?バーボンと」
「あぁ。何度か任務で一緒だったからな。なぜか彼に恨まれるようになってしまったが…」
「…恨まれる?」
予想外の展開にありすが思わず聞き返すと、
原因はわからないが…そう前置きして目の前の沖矢さんは口を開いた。
「当時、ある幹部がスパイだとばれたことがあった。日本の公安警察だった彼は、人気のない非常階段で、自分の携帯ごと心臓を撃ち抜き自殺したんだが…その直後に駆けつけた男がひとりいたんだよ。追っ手を振り切った彼の居場所は、その場に偶然居合わせた俺以外知るはずがなかったのに」
「それが…」
「バーボンだ。彼の立場からすると、公安から送り込まれたスパイがひとり自殺しただけにすぎない筈なのだが…どういう訳か、あれ以降俺に突っかかってくるようになった」
スパイを生け捕りにしなかったことに怒っているのだろうか?
ありすは思案する。が、すぐに思い直す。あの組織では裏切りや口封じなど日常茶飯事なのに、何をそんなに恨む必要があるのだろうか?
ただ、ありすはすぐに別の心当たりに辿り着く。
そのスパイの死が彼に大きな不利益をもたらしたのだとしたら、そしてそれが赤井さんの所為だと思われているのだとしたら…
想像に難くない、説明不足の赤井さんが招きそうなことだ。ありすは思わず溜息を漏らす。
「その自殺した公安とバーボンの関係は?」
「さぁ…特別親しい様子もなかったが、あの組織での人間関係なんてあってないようなものだからな」
裏で繋がっていたとしても、それを周囲に明らかにしないほうが色々と都合がよいのかもしれない。
…その場合、その ”親しい” が何を指しているのかが重要だが。
いずれにせよ、まずはできることからはじめるのが得策だ。
「…わかりました。調べてみます」
ありすは、”彼”を思い浮かべながら静かに答えた。
Fata Morgana
La homme aux cheveux de lin