ありすは、毛利小五郎と娘の蘭と共に、阿笠博士の家に到着していた。
「ささ、毛利君!この推理ゲームじゃ。蘭君もここに座っていてくれ。えっと…」
「如月ありすさんよ。東都大学の大学院生」
灰原哀の紹介を受けて、ありすは「はじめまして」と会釈する。

「そうじゃったか、哀君とはどこで?」
「前回ちょっとした事件に、コナン君達少年探偵団と巻き込まれちゃって、そのご縁で」
「あぁ、コナン君じゃったか…」
そういうと、阿笠博士は何か悟ったような顏をした。


ちょっと私ケーキ屋さんに電話してきますね。とその場を離れたありすは、ヘッドセットの短縮ダイアルで、赤井さんに連絡をする。

「…ありすか」
「はい、ひとまず毛利小五郎と娘を米花町2丁目の阿笠博士の家に移しました。博士と灰原哀さんが焦って迎えに来たので、事情はある程度把握していると判断しました。コナン君の指示のようです」
「了解。この回線はそのまま繋いでおこう」
「わかりました」



******



リビングに戻ると、毛利探偵がモニターの前で頬杖をついてコントローラーを操作をしていた。
「何でこの名探偵・毛利小五郎が博士の家でゲームしなきゃいけないんすかねぇ…」
「まあいいじゃないか!ちょうど仕事も終わった頃だったんじゃろ?それにそれはワシの自信作の推理ゲーム!まずは君に試してほしくてのぉ」

阿笠博士の言葉を聞き流しながら、毛利探偵はポチポチとAボタンを押していく。
「でもよく事件が起こるゲームね、この拳銃で撃たれた事件で3件目」
娘さんは多少呆れたような様子で画面を見つめている。
「いいんじゃねーか?本当に人が死ぬわけじゃないし、そのつらい気持ちがプレイヤーに伝われば、ちったー意味もある。まあ拳銃や殺人なんて、ゲームやドラマの中だけに留めてほしいもんだ。本当に人を亡くした悲しみは、ゲームやドラマどころじゃねぇからな…」

ありすは思わず息を呑む。
正直、事務所での毛利探偵を観察していても、どうして名探偵としてちやほやされているのか疑問だった。けれど、もしかしたら彼が求められているところはそんな単純な事ではないのかもしれない…

上着の裾をそっと掴むと、ポケットに入れた拳銃が胸元で揺れる。
彼らのそれとは反するとしても、この任務は私の正義であり、その時には引き金を引くことに躊躇はないけれど――

だけどできれば。この人たちの前では見せたくないな。とありすは心の隅で思った。



******



ありすがケーキ屋が臨時休業だったと告げると。阿笠博士はショートケーキならあるんじゃが、と言ってくれた。
「飲み物は紅茶でいいかのぉ…」
「じゃあ私にも、お手伝いさせてください」
「それじゃあお願いしよう。こっちじゃ」


紅茶の準備をしながら、ありすは阿笠博士について質問してみる。
「阿笠博士は、推理ゲームを作るお仕事をされているんですか…?」
「そうじゃなぁ、ゲームもじゃが、ちょっとした発明品をつくっておるかのぉ」
「発明品ですか?」
あの発信機と盗聴器はこの博士の用意したものなのだろうか…ありすは思案する。

「最近だとハサミとかが人気じゃったのぅ、切るときにチョッキンと音がするんじゃ」
「…あのくだらない発明品ね」
いつのまにかキッチンに来ていた少女がばっさりと切り捨てると、阿笠博士は、そんな哀君…とすこしかなしそうな表情を浮かべた。


ケーキと紅茶を用意し3人でリビングへ戻ると、そこにはリモコンを握る娘さんの姿が。
「ん?…毛利君は?」
「お父さんなら、もうすぐ競馬のメインレースだからって、さっき家に帰ったよ」

血の気が引くというのは、こういうことだろうか。表情筋が引き攣るのを口角を上げて隠す。
「…ちょっとお手洗い借りていいですか?」
ありすは強張った笑顔で、博士にそう問いかけた。


 ******


「…ありす、どうした」
「あ、あのっ。目を離した隙に、毛利小五郎が事務所に戻ると出て行ったようで、これから追います!」
「いや待て… 大丈夫だ、毛利小五郎の姿はこちらで確認した。だが娘はどこにいる?」
「彼女はまだ、阿笠博士の家に」
「であれば、娘の護衛を続けてくれ。父親のほうはこっちで対応する」


通話を終えると、ありすは深く息を吐く。
まだ目はギラギラと冴え、心臓は大きく鳴り響いていた。

赤井さんの監視下に入ったと聞いて安心した。しかし、毛利小五郎の帰宅は完全にありすのミスで、その間彼が無傷でいたというのはただの幸運でしかない。



******



リビングに戻ると、博士が誰かと電話をしているようで耳を澄ます。

――蘭君はまだいるんじゃが、毛利君はちょっと目を離した隙に…もう一度探偵事務所に行って彼を呼び戻そうか?
――何かあったのか!?
――お、おい…

阿笠博士は途中で電話を切られたようで。静かに受話器を置く。

「コナン君、ですか…」
「あ、いや、まぁ…」

阿笠博士は、背後から声を掛けられ驚いてから、うかない顏で口籠る。
遂に組織が発信機に気付いてしまったのだろうか、そうだとしても…


「遂にやつらが気づいたか」

ヘッドセットから聞こえる赤井の声に緊張感が高まる。
ありすは胸ポケットの重みを確認して――

「…さぁ、阿笠博士もケーキ食べましょ!」

私にできることはただ、自分の今の任務を遂行すること。

 
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