ジェイムズの車のすぐ傍までくると、ありすは静かに立ち止まった。右手には爆弾、左手には車の鍵。ありすは振り返らずに問いかける。
「質問していいかしら。貴方、名前は?」
「アンドレ・キャメル、ですよ」
アンドレ・キャメル——ありすは小さく復唱して、その名前を確認する。
「この渋滞の中、30分以内で処分する案はある?」
「勿論、少なくとも3つは」
「…わかったわ、運転手は貴方よ」
ありすはそう告げると振り返り、キャメルに鍵を渡して助手席へと乗り込んだ。
******
「おっと、この道じゃなかったか…」
残り15分といったところでありす達を乗せた車は渋滞に捕まっていた。
「おっと、って…」
ありすが眉間に皺を寄せたとき――
「…しっかり持っててくださいよ」
キャメルはアクセルを踏み込むと、車体を大きく揺らしながら縁石を乗り越え、逆方向へと走り始めた。
「残り15分よ、どこへ行くつもり?」
「要は、人がいないところならいいんですよね?」
「…そうね」
訊きたいことは色々あるけれど、まずは、時間内にこのオモチャを処理することが先決。
ありすは揺れる車内で小さな箱を握りしめ、新たな廃棄場所候補を考え始めた。
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『ありす、そっちはうまくいったかね?そろそろ爆発の時間だが…』
「今、キャメル捜査官と廃棄できる場所へ、あわっ…」
爆発5分前、ジェイムズからの電話を受けるが、車は相変わらず路側帯に乗り上げたり、道沿いのものを撥ね飛ばしたりしながら市街地を進んでいた。
そして遂には首都高に入って…
「残り1分…え、屋根開けるの!?」
困惑するありすの手元…爆弾へとキャメルの手が伸びる。
この先は、そういうことか――
「ハンドル、おねがいしますよ…」
「…了解」
トンネルが終わり視界が開けると、海側に面したキャメルが爆弾を海中へと投げ込む。
数秒後、大きな音と共に水柱が立ち上ったことを確認すると、キャメルは再びハンドルを握りしめた。
『なんだね、今の音は!』
「...只今、爆弾処理完了しました」
ジェイムズの問いかけに、ありすはほっとして答える。
『おぉ、ありす、よくやった』
「いえ。私ではなくキャメル捜査官、彼の運転技術のおかげです。…それよりそちらは?」
『赤井君とコナン君が、組織がやろうとしている事の糸口を見つけてくれたよ。どうやら組織は宅配業者を使って私の他にも届け物をしているようだ…私の時と同じく依頼主を楠田にし、大勢の患者に見舞いの品を装った花や果物や玩具を手当たり次第にな…』
手当たり次第。その言葉にありすは思わず目を見開く。
「その届け物の中身ってまさか…」
『あぁ、今赤井君に調べてもらっているが、ひょっとすると…』
******
「キャメル捜査官、できるだけ早く戻れる?それと…またドライブする心の準備をしておいたほうがいいかも」
ありすはジェイムズとの通話を終えると、溜息をついて告げた。
「楠田からの荷物が、患者に手当たり次第に届いているみたいだから」
「もしかして、それらにも爆弾が…」
「まだわからないけど、その可能性もありそうよね…」
量によっては、貴方と私と赤井さん?間に合うならいいけど…とありすが呟くと、キャメルも考えるところがあるのだろう。眉間の皺が深くなる。
「あと、赤井さんの”運転に自信がある捜査官”って、貴方の事よね?」
不意を突かれたのか、キャメルからは、え、あぁ…といった曖昧な返事が返ってくる。
赤井さんから何を言われてるのか知らないけど、一応御膳立てはしたからね…ありすは心の中で呟いた。
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