「待て、この時間は関係者以外立ち入り禁止だ」


夜11時を回った頃、病院関係者通用口に近づく不審な人間に気づき、警備担当の男が呼び止める。
「この先に行くには、そのキャップを外して、IDを見せて貰おうか」


すると、その人物は暫く間を置き、こういうとき不便よね...と呟いて

「残念ながら、あなたが望むような身分証は持ち合わせてないの。その代わりに...
ジョディ・スターリングを呼んでくれない?」



******



「何!?ジョディ君を呼べと言う不審者が関係者通用口に来ているだと!?」

警備中のメンバーからの報告で、ジョディ、そしてコナンがの視線がジェイムズへと集まる。
張りつめた空気のなかで、ジョディのポケットの中にある携帯電話が震えはじめた。液晶画面は普段なら絶対に掛かってこないはずの相手、ありす。ジョディは何事かと驚いて、迷わず通話ボタンを押した。

「ありす、どうしたの?」
『ジョディ、悪いけど通用口まで迎えに来てくれない?ほら、私FBI手帳なくて止められちゃった』
「じゃあ、通用口で私を呼んでた人って」
『ああ、それ私』
そういうことなのね、ジョディからは安堵の表情が漏れる。
「でもあなたも参加して大丈夫なの?」
『まぁ、赤井さんに呼び出されたし、一応目立たないようにはするつもりだから』
「そう、わかったわ。そこで待っていて」
『お願いしまーす』

「ジョディ先生、どうしたの?」
ジョディは電話を切ると、じっと見つめていたコナンの問いかけに笑顔を見せる。
「私を呼んでた人物、どうやら私達の仲間だったみたい。ジェイムズ、ありすを迎えに行ってきます」
「あぁ、ありす君だったか。頼んだよ」
納得したジェイムズと、要領を得ない顔のコナン君を残してジョディは部屋を離れた。



******



通用口から少し離れた位置で待っていると、小走りでジョディがやってくるのが見えて、ありすは手を振って近づく。
「ジョディ、久しぶりね」
ジョディは声のほうに振り向くと、眼鏡をかけてキャップを被るありすに驚いたようだった。

「ありす!髪の毛切ったの?それに視力だって悪くなかったはず...」
「髪の毛は帽子にしまってるだけ。眼鏡は、ちょっとした変装?」
「ええ…そうね、ありすはそのほうがいいかもしれないわ」
ジョディはぎこちなく微笑むと、これまでのことを説明するわ。とありすを院内へと招き入れた。


ジョディによると、頸椎捻挫で入院していた楠田陸道が組織に繋がっていることが判明。警戒していたFBIはナースステーションで楠田が入院患者一覧を撮影する現場を目撃する。一般市民への被害を懸念して楠田を確保しようとしたところ逃走され、楠田は車内で拳銃自殺。これにより組織への定期連絡が途絶え、明日にでも組織が乗り込んでくるかもしれないということだった。

ジョディがありすを連れて病院の一室へと入ると、部屋の中にはジェイムズの姿があった。
「ジェイムズ、ありすを連れてきました」
「遅くなりましてすみません」
「いや、赤井君があえて呼ばなかったんだろう。これから頼むよ」
ありすはジェイムズを前に詫びる。出迎えたジェイムズの厳しい顏は、今の状況を表していた。

「ねぇジョディ、院内の把握したいんだけど、ちょっと散策してきてもいい?それとついでに水無怜奈の居場所も確認しておきたいんだけど」
「そうね。ジェイムズ、ありすを病室に案内したらすぐ戻るので、そのあとに打ち合わせの続きを」
「ああ、そうしよう」

水無怜奈の病室をの場所を知らせると、ジョディはすぐに先程の部屋へと戻っていった。ひとり残されたありすはそのまま院内を進む。しばらく歩き回り全体を確認したところで、廊下の奥からジョディの声がした。

「ありす、作戦会議よ」



******



部屋にはジェイムズの指示でFBIが集合していた。警備中の人間を覗いてざっと20人といったところだろうか、どうやら前に立っているジェイムズとジョディが作戦の説明をするらしい。ありすはすこし離れた位置からそれを聞くことにした。

「患者を運ぶストレッチャーと、それを乗せられる車を3台ずつ用意した。最悪の場合、これを使って組織を攪乱しつつ、水無怜奈を連れこの病院から脱出する。まあ、できる事なら使いたくはない策だがな…」

ジェイムズに続けて、何か質問は?とジョディが問いかけると、細身のFBIが手を上げる。
「連絡方法なんですが…携帯電話や無線はダメなんですよね?」
「えぇ。ここは病院、医療機器に支障をきたすそれらの使用は極力避けて。それに携帯は盗聴されやすいしね。何かあったら各ブロックごとに決めたリーダーに口頭で伝え、リーダーは屋外に出て、駐車場で待機しているジェイムズに無線で連絡し指示を仰ぐように!」

「まどろっこしくありませんか?そんな伝言ゲームのような真似をしていたら、奴らに大事な油あげを盗られてしまうのがオチ。用意が出来ているのなら、いっその事今すぐに彼女を移動させた方が…」
体格がよく目つきが悪い男が口を開く。ありすには彼が一瞬笑みを浮かべたような気がして、その姿を注視するが、その眼はもうジェイムズをじっと見つめるだけだった。

「いや、これはあくまでも最終手段。組織に水無怜奈の病室を知られていないこの状況で、こちらから動くのは危険だよ。組織はこの病院から出て来る車を目を皿のようにして見張っているはずだし、楠田という男が熱を感知する赤外線サーモグラフィーを隠し持っていたことを踏まえると、その車に乗った人数で我々FBIの車だと気づかれて狙い撃ちに遭う可能性が高い。そうなれば、組織の銃弾をかい潜って逃げねばならなくなるからな…」

「しかし緊急時にすぐに連絡が取れないというのは…」
ジェイムズの言葉に声のトーンが下がるものの、男はどこか納得がいっていない様子。
「もちろん、その場合は直接私の無線に連絡してくれ!その判断は君たちに任せるよ。まあ組織としても拳銃やマシンガンをひっさげて派手に乗り込んで来やしないだろう…その存在を世間に知られたくないだろうしな…」

「えぇ。影のように忍び寄り、霧のように消え失せる――それが奴らの常套手段ですからね」

ちょうど部屋に入ってきたのだろうか、向こうの方で扉を閉めた赤井さん…の傍にコナン君の姿があり、ありすは思わず、え、と呟く。
「ちょっとどこにいたの?作戦会議終わっちゃうわよ!?」
赤井たちの姿を見つけたジョディがふたりへと食い下がった。
「問題はない。その3台のストレッチャーと駐車場に待機している3台のバンで大体の策は読める…あまりいい策とはいえんが予想はしていたよ、なあボウヤ」
「うん!」
「なによ2人共偉そーに!大体コナン君はそろそろ家に帰んなきゃいけないんじゃないの?」
「大丈夫だよ!今晩は博士の家に泊まるって言ってあるし…ちゃんと仮眠も取ったしね!」
「――ったく…」

ニコニコとするコナンとすまし顔の赤井に、ジョディは呆れ顔を浮かべたところで、作戦会議は終わりとなった。

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