あの事件からしばらく経った。
あの日のことを、1日たりとも忘れる日はなかったけれど
新しい色の口紅を買ってみたり、
ショーウィンドウのワンピースに一目ぼれしたり。
そうやって、少しずつ、少しずつ、
自分の足で立とうとしていた。――赤井さんがいなくなっても。
日曜日の昼過ぎ、ありすは米花百貨店にいた。
お気に入りの靴で出掛けて、無くなりかけのアロマオイルを購入し、ウィンドウショッピングを楽しみ、本屋に寄って目当ての新作を手に入れる。
そうやってひと通りの用事を終えて、ありすが帰路についたとき。
米花百貨店前の交差点。休日の人混みのなか――
すれ違いざまに肩がぶつかったのは、紛れもなく、
『赤井秀一』だった。
******
「…赤井さん!?」
横断歩道の真ん中、ありすは咄嗟に振り返り、その姿を探す。
視線の先、少し離れたそこには、横断歩道を渡り終えた、その姿があった。
「あ、赤井さん!!」
ドクドクと鼓動が全身に響き渡り、体温が急激に上がったように感じて。
ありすは弾けるようにその場から走りだす。
「待っ...て!」
後ろ姿を追うが、休日の人混みに逆らって進むのは容易ではなく。
「ご、ごめんなさい、すみません!」
近づいたと思ったら、すぐに引き離される。
「…赤井さん、赤井さん!!」
人の波をかき分け横断歩道を渡り終え、あと少しでその背中に追いつく――
そう思ったところで、すれ違いざまによろめいたお婆さんがぶつかってしまった。
「あ、だ、大丈夫ですか!?」
ありすがその体を支えるとお婆さんは、ごめんねぇ、最近足が悪くて…と言って杖を握り直す。
「…お怪我は?」
「えぇ、あなたのお陰で転ばずにすんだわ。ありがとね」
そう言ってニコリと笑ったお婆さんを確認してすぐに、ありすは視線を戻す。
――けれど。どんなに見渡しても、目の前の雑踏にはもう、赤井の姿はなかった。
******
「ありすさん、どうしたの?」
背後から声を掛けられて我に返る。
振り返れば、いつのまにか傾く夕日が眩しくて――思わず目を逸らした先に、サッカーボールを抱えたコナン君がいた。
「探し物?一緒に探そうか?」
「え、どうして…」
困惑するありすに、コナン君が笑いかける。
「さっきからずっと、この辺をうろうろしてるみたいだったから」
さっきからずっと――そう言われてありすは冷静になる。
あれからどの位経ったのだろう、夕日が傾くまで探していたなんて正直気付かなかった。
だとすれば、きっともう、ここでは見つからない。
「ありがとう、でも大丈夫。知り合いとすれ違ったと思ったんだけど、気のせいだったみたいだから…
ほら、もうこんな時間。帰らなきゃ」
「…いいの?」
よくはない、けどどうすることもできないから...
ありすが心の声に蓋をするように口をつぐむと、コナン君が心配そうにこちらを窺う。
彼はどうしてこうも勘がいいのだろうか。ありすは苦笑いを抑えて微笑みかけた。
「ええ、コナン君も一緒に帰りましょ」
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