「だとしても女性が取るには危ない。如月さんはここで待っていてください」
安室さんが微笑み、そして遠ざかると、ありすの身体を冷たい風が纏う。
その瞬間、寂しさを覚えたのは、きっとこの寒さのせいに違いない。うん、きっとそうだとありすは自分自身を納得させる。
こういうこと躊躇なくさらりとやってのける安室さんはさすがだなと思う一方で、赤井さんの真反対の優しさも思い出される。
ぎこちなく差し出されるあの掌は、いつも優しかった。
フェンスを簡単に乗り越えると、ストールを丁寧に拾い上げる。ありすがその姿をただじっと見つめていると、戻ってきた安室さんは優しい表情で、ストールを差し出す。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ありすはそれを受け取ろうと、手を伸ばした時――
夜を照らす月を雲が隠し、あたりは暗闇に包まれて。
目の前にいる安室さんの姿が影に隠れたとき、ありすの脳裏に衝撃が走る。
記憶と重なる、赤井さんの影。
全てが、繋がった。
昼間の違和感は、煙草の匂いがしなかったため。
そして、赤井さんの事を「赤井なんか」と言い放つ目の前の人の匂いは、昼間すれ違った
『赤井さん』と同じ――
あまい香り
これはきっと偶然なんかじゃない