子どもの頃に幾度となく聞いたおとぎ話。
恵まれない境遇でも素直で優しく真っ直ぐに生きる女の子には、いつの日かどこからか王子様が現れて。そしてふたりはお城でいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
そのおはなしはいつも、幸せの模範を説いているようで...幼い私はいつも首を傾げていた。
綺麗なドレスも大きな家も素敵な結婚相手も
ただ家でじっと待ってなんていないで
自分で探しに行けばいいのに、と――
また、だ。
額に滲む汗を拭って、闇夜のなかありすは天井を仰ぐ。
ここ最近頻繁に夢を見るようになって、夜中に目覚める頻度も増えた。
夢の内容はいつも同じ、少女が泣いて追い縋る夢――幼い私が何もかも失ってひとりになった、あの日の夢。
結局、赤井さんはいなかった。
この事実はありすの傷を抉るには十分で。
夜中に目覚める回数も、屋上で安室さんの影を見た日を境に明らかに増えていた。
勘が鋭く、そして人懐っこさを纏った隣人。
彼の正体が何であれ、私は彼の明るさに、何気ない言葉に、行動に、救われていた。でも、
あの姿が全て虚像だったとしたら――
私はひとつ、またひとつと信じたものを失って、結局最後はひとりになるのだろうか。
希望のない世界――
暗闇に呑み込まれていくようで、
邪念を追い出すようにありすは強く目を閉じるけれど。
『赤井なんかのために死ぬな…!!』
静まりかえった屋上に響く、悲鳴にも似た声。
彼に試されたはずなのに。なのに、脳裏によぎるあの声を、ありすはどうしても疑いきれずにいた。