あれから結局寝付くことができず、ありすはいつもより早く大学へと向かっていた。

早朝の構内は人もまばらで、視線は意識せずともすれ違う人の姿を追っていて。
そんななか視界の隅に捉えた、茶髪の長身男性。その姿に、半ば確信めいたものを感じて、ありすは思わず駆け寄った。

「あ、あの!!」

振り返った姿はやはり先日構内で介抱してくれた彼。ありすは見つけられたことに思わず安堵する。


「先日は助けて頂きありがとうございました、えっと…」
「沖矢です。沖矢昴、以後お見知りおきを」
目の前の沖矢さんは小さく微笑む。

「私は如月と申します。先日はありがとうございました。おかげさまでだいぶ元気になりました」
ありすも微笑み返すと、沖矢さんは少し困ったような顔をして口を開く。

「その割にはまだ顔色が優れないようですが…」
「ええ、でも大丈夫です。私は私にできることに懸けてみようかと」



******



眠れずにいたありすが、ずっと考えていたこと。

『…赤井は、如月さんの何なのですか?』

あの時張り裂けそうな声で、安室さんは確かにそう言った。
赤井さんと私の関係を掴めていないからこその発言。
もしそれがフェイクじゃないとしたら、私がFBIだと知らないのだとしたら...

彼は私を組織に引き入れてくれるかもしれない。


この賭けをするには材料が全く不十分で、無謀だと批難されることなのも十分理解している。
ジェームズにもジョディにも、止められるだろう。
――もし、赤井さんがいたとしても。

だけど、進む方向も戻る道すらも解らず、ただここに立ち尽くす私にできることなんて他に無くて。
それで大切な人達の盾になれるのなら――

「如月さん…?」

目の前の沖矢さんは要点を得ないといった顔で眉を潜めたけれど。
「あ、そろそろ行かないと...」
ありすは笑顔でお礼を言うと、その場を足早に立ち去った。

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