車内に流れるラジオは、洋楽にあわせて男性がしっとりと語りかけていて、時刻はもう深夜近くであることを改めて認識させられる。仕事を終えた安室は、愛車のRX-7で帰路についていた。
いつもの角を曲がり薄暗い駐車場に入ると、慣れた手つきで車を停める。そのまま降車すると、人気のない駐車場で右手に掴んだコンビニの袋が足音にあわせてカサカサと音をたてた。


いつもの日常。よくある光景。
このあとは乗り込んだエレベーターが開き、目の前には自宅へと続く見慣れた廊下、のはずだった。

視線の先には、廊下の角でうずくまる女性。

「...如月、さん?」


近寄るほどに彼女であることが確信へと変わる。しかし、その姿は一向に動くことはなくて、安室は覗き込むようにして様子を伺う。

「如月さん...?」

肩を控えめに叩くと、ゆっくりとその姿が動いて。けれど、顔を上げた彼女の瞳はどこか虚ろで、頬はひどく赤みを帯びていた。
安室はとっさに頬へと手を伸ばそうとするが、容易く触れてしまっていいものかと、一瞬、躊躇してしまう。

しかし、これは看病だと自分に言い聞かせ、宙に彷徨う手を控えめに伸ばすと、触れた頬は驚くほどに冷たく、おでこは尋常じゃない程に熱い。
コンクリートの廊下は底冷えする寒さで、とてもじゃないが、こんなに弱っている人が居て良い場所とは思えない。

「如月さん、どうしてこんな寒いところに...」

少しでも暖かくと、安室は自分のマフラーを解き、彼女の首元へ巻こうとしたとき。




「...安室さんは、わたしの味方、ですか?」
 
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