突然の問いに、マフラーを持つ安室の手が静止する。

『誰が敵で、誰が味方か』

安室にとって、それは確かに重要であったけれど、それを彼女から訊かれるとは微塵も想定していなかった。


「意味がよくわからないのですが...」

マフラーを再度彼女の首に巻きつけながら、安室は困惑した表情を返す。これは、隣人安室として”作った”表情だったが、半分は本心でもあった。
しかし、目の前の彼女はこちらの困惑をよそに、目を伏せて呟く。

「赤井さんはもう、いないんです...」


赤井の名前を聞いて、安室は僅かに顔をしかめる。
それは、ただその名を聞いたからなのか、それが俯く彼女の口から発せられたものだったからなのかは判らないものの、いずれにせよ安室は明らかに不快感を覚えていた。

突然出てきた赤井の話題。
あのとき、彼女は赤井を”兄のようだ”と言った。
そしてその赤井は『もう、いない』――

彼女が何を謂わんとしているのか、不愉快ながらも安室が真意を窺っていると、顔を上げた彼女の瞳が、安室を捉える。



「...安室さん、貴方は何者?」




 
ゆらりゆらりと揺れる瞳。
不安定ながらも射るような視線に、安室は心臓を掴まれるような感覚に陥る。

駅のホームでも、交差点でも、彼女は確かに「赤井」の姿を見ているはずなのに。

なのに、
『赤井さんはもう、いないんです』
消えそうな声で、けれどはっきりとそう呟いた彼女は今、俺が何者かと訊いている。



...彼女は一体、何を知っている?

 
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