沖矢さんの注意がメモに向かないよう、ありすはできるだけ自然に手帳へと挟む。

「沖矢さん、いらしてたんですね」
「ええ。帰宅前にここのコーヒーをと思いまして」
「美味しいですからね、ここのお店」

身に纏う柔らかな雰囲気は相変わらずで、何気ない会話のなか、沖矢さんは暫く視線を留めたのち目を細めて微笑んだ。

「如月さんはやはりミルクティーなのですね」
意図を汲み取れずにありすがキョトンとすると、沖矢さんはいえ、と首を振る。
「深い意味はありません、単純にお似合いだなと思いまして」
そう言うと、あ、と沖矢さんは何かを思い出したかのように小脇に抱えた小包を隣の椅子に置き、ジャケットの内ポケットから、ありすに何かを差し出した。

「スイートポテトお好きですか?予約するまでは良かったものの、急な来客で引き換えに行けそうにないので...もしご興味があればですが」
沖矢さんの手には『l'oiseau bleu スイートポテト引換券 』と書かれたチケットが3枚。
ロワゾブルーのスイートポテト!とありすが口走ると、沖矢さんはええ、と残念そうに頷いた。
ロワゾブルーとはこのあたりでも有名な人気洋菓子店で、1年に1ヶ月間だけ数量限定で販売されるスイートポテトは3ヶ月前から予約しないと食べられないことで有名だ。

「でも、いいんですか...?」
この街に疎いありすですらその貴重さが判るだけに、受け取るのを憚られていると。
「むしろ貰って戴けると助かります」
折角なのに、勿体ないですからと沖矢さんは肩を竦めて微笑んだ。

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