「どうぞ」

目の前に置かれたカップを手に取ると、華やかで芳醇な香りが鼻の奥へと抜けてゆく。
いい香り...ありすが呟くと、向かいに座った沖矢さんも、本当に良い香りですねと目を細める。
口に含んだ紅茶の爽やかなコクと苦味に思わず笑顔になると、沖矢さんはよかったと微笑んだ。

「沖矢さんに淹れていただいた紅茶、とても美味しいです」
「私は如月さんの笑顔を見れて安心しました。なんだか最近お忙しいようでしたので」
「...私、そんなふうに見えていましたか」
まだまだですね、苦笑をしてありすは目を伏せる。


カップの水面がゆらゆらと揺れて、それはまるで私の心を映しているようで。

赤井さんはいない——
その事実に向き合うたびに、胸がざわざわして、上手く息ができなくなる。

わたしは、ひとりだ。





「...そんな顔をするな」

静寂を破る低い声に、ありすは驚いて顔をあげる。それは、もう二度と聞くことができないはずの声。



それからのことは正直あまり覚えていない。
ただ、首元にある沖矢さんの手が大きく動くと——

「ありす、お前はこちら側の人間だ」



次の瞬間、沖矢さんの顔を剥いだ赤井さんがそこにいた。







変わるはずのない結末
揺れる水面は記憶を纏って


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