それから暫くは、有希子さんと他愛のない話をしながら、赤井さんがキッチンで後片付けをしているのを眺めていた。
「なんか、変な感じです…」
「そうなの?」
「はい、赤井さんに紅茶淹れてもらう日が来るなんて、想像もしてませんでした」
ありすの言葉に、有希子さんはへぇーと意外そうな反応を示す。

「ありすちゃんの知ってる”彼”はどういう人だったの?」
「そうですね、いつもコーヒーを飲んでいて、食事とか健康とかには興味ないんだと思ってました…甘いものなんて特に。カフェに行った時も、私達がどのケーキを食べるのかを真剣に相談しているのを横目にブラックコーヒー飲んでましたし」
「イケメンがカフェでコーヒー、絵になりそうね」
「聞くところによると、ひとりでいると結構声掛けられてたみたいですよ?」
「…あら、ありすちゃんヤキモチ?」
いたずらっぽい笑みを浮かべる有希子さん。お茶目なところもかわいいなぁ、なんて年下ながら思ったりする。

「いえ、むしろ被害者です。私が10代の頃、赤井さんの当時のガールフレンドとも仲良くて、よく3人で遊びにつれていってくれていたんです。しかも赤井さんって変に面倒見いいから勉強とかも教えてもらったりご飯につれてってもらったりして。ただそれって、私のボーイフレンドとしてはいい気しないですよね。ってな訳で、仲良しのお兄さんとお姉さんが美男美女なおかげで、ボーイフレンドとしょっちゅう喧嘩してました」
そう言って肩をすくめると、ありすちゃんも大変ねと有希子さんは笑った。

「そういえば、有希子さんはいまどちらに住んでるんですか?」
「今は夫と一緒にロサンゼルスに住んでるの」
ロサンゼルスいいところですよね…と言ったところで、ありすはあることに気がつく。


「え、もしかして旦那様の工藤優作さんって、あの推理作家 Yusaku Kudo!?」

「あら、優作のこと知ってくれてるのね」
「知ってるもなにも、ナイトバロンシリーズは大人気の超名作ですよ!」
「うふふ、優作が聞いたらきっと喜ぶわ〜」

推理作家・工藤優作に、女優である工藤有希子、そして親戚の江戸川コナン…
考え込むありすが有希子さんの声で我に返ると、目の前に紅茶とスイートポテトが用意される。

「これもしかして、あの有名なスイートポテト?」
「ええ、運良く予約できたので、ありすに受け取りに行ってもらいました」


受け取りに行ってもらった——

それはつまり、
『偶然会った沖谷昴』『3枚の引き換えチケット』『忘れられたスマートフォン』
全てが仕組まれた ”おつかい” だった訳で。
ありすは抗議の視線を送るが、赤井さんはどこ吹く風といった様子。


一方、スイートポテトに夢中な有希子さんは、
「おいしーい♡ ありすちゃん、ありがとね!」
フォークを口に運ぶと満面の笑みを浮かべていた。

…とりあえず今は、有希子さんの笑顔に免じて見逃すことにする。


 
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