「こちらは工藤有希子さん、ここの家主である工藤優作氏の奥様だ。そして彼女が如月ありす、先程話した”事故に巻き込んでしまった”古くからの知り合いです」
「ありすちゃん、はじめまして」
そう告げると、ありすよりも年上であろうその女性はかわいらしい笑顔を見せた。先程の印象とは異なる人懐っこい笑顔。敵意は向けられていないようで、ありすは内心ほっとする。
しかしその一方で、ありすはまだふたりの関係をまだ掴めないでいた。
「よかったらお隣にどうぞ、このお茶とっても美味しいのよ!」
「じゃあ、あたたかいのを淹れなおしますね」
ポットを持った赤井さんが背を向けると、有希子さんは再びこちらへと視線を向ける。
「で、ありすちゃんは、お仕事とか何をしているの?」
「えっと、東都大学で学生をやってます」
「東都大学?それなら”沖矢さん”と一緒なのね」
”沖矢さん”と一緒――
その問いになんと答えるべきかわからず言葉に窮していると、
「えぇ、信頼できると予めわかっている人間が近くにいるほうが、なにかと都合がよかったので」
赤井さんがカップを温めていたお湯を捨てながら返答する。
ふたりが沖矢さんの話を普通にしているということは、有希子さんは”赤井さん”と”沖矢さん”のことを知っている『こちら側』の人間ということなのだろうか。
そして、信頼できると予めわかっている人間――赤井さんは最初から、私と関係を構築する為に”沖谷昴”として近づいてきたのだろうか。
そこまで考えて、思い出してしまったことがある…
”沖矢昴”と初めて会ったとき、私は彼の前で赤井さんがいないと言って泣いたのだ。
気まずい。なんならあの時に全て言ってくれればよかったのにと怒りさえ湧いてくる。
このことだけじゃない、赤井さんを問い詰めたい事は沢山ある。なんだったら来葉峠の件もまだ十分に納得できる説明を聞いていないし、説明されたとしても言いたいことはまだ山ほどある。
だけど素性のわからない有希子さんがいる手前、迂闊に喋ることができず…
ありすは行き場のない怒りを紛らわせようと深呼吸をして、能面のような素顔に笑顔を貼り付ける。
私に必要な情報、まずはこの二人の関係性を明らかにすることからはじめよう。
ありすは気を取り直して顔を上げた。
「赤井さんは有希子さんと旦那様と一緒にここに…?」
私はここに、沖矢昴の自宅として呼び出された。よくわからないけれど『こちら側』の有希子さん達と一緒に住まわせてもらっているということなのだろうか?
「いや、お2人は今海外で生活されているので、空いていたこの工藤邸に住ませてもらっているんだ。有希子さんの親戚にあたるコナン君の紹介でな。そして、こうして毎週”沖谷昴”になるのを手助けしてもらっている」
「ええっ、じゃああの変装は有希子さんが!?」
「そう、ちょっとした特技なの♡」
すごいでしょ、と無邪気に笑った有希子さんの笑顔がコナン君のそれと重なって、ありすは言葉を失う。
赤井さんの隣に佇む笑顔の少年――
ここまで全てが彼の筋書き通りなのだろうかと思うと、それだけで眩暈がした。
FIXERの仰せのままに
2人の作戦を合わせただけだよ