ありすが紅茶を淹れていると、玄関の鍵が開く音がして程なく、帰宅した沖矢がキッチンへと現れた。
お帰りなさい、そう声を掛けてカウンター席へと促すと、沖矢はジャケットを脱いでありすの向かいへと腰掛けた。
「博士と彼女に会えたみたいですね。どこにいたんですか?」
「ああ、小学校近くの廃ビルに閉じ込められていましたよ」
「廃ビルに閉じ込められてた…?何があったんですか?」
予想外の答えにありすは困惑の表情を浮かべる。
「どうやら博士が身代金目的で誘拐され、帰宅途中の彼らも巻き込まれたようです」
帰宅途中の”彼ら”…つまりはコナン君達も一緒だったということだろう。でも、
「どうして廃ビルとわかったんですか?」
ありすは腑に落ちないといった様子で聞き返す。
「バッジ型の発信機つきトランシーバと、メガネ型の受信機——博士の発明品ですよ。子どもたちは普段からそのバッジを携帯しており、受信機はコナン君がかけているメガネの他に、阿笠邸に予備が保管されている…つまりそのメガネさえ手に入れば、あとは辿っていくだけ」
思っていたよりずっと少年探偵団が江戸川コナンを筆頭に組織化されていて驚く。けれど、それ以上にありすは阿笠博士の発明品に好奇心をそそられていた。
「バッジ型のトランシーバーにメガネ型の受信機…随分便利そうなものを作っているんですね」
本人は、推理ゲームや音のするハサミを発明したと言っていたが、水無怜奈についた盗聴器といい、沖矢昴の変声機といい、阿笠博士はとてつもない技術の持ち主なのかもしれない。そうなってくるとますますその受信機が気になってくる。
「…沖矢さん、その予備メガネはどうしたんですか?」
どのような機構になっているのか、長時間掛けられる重さになっているのか、UIはどのように設計されているのか―— 疑問は尽きないが、今回は実物を触ってみたいという単純な興味だった。
「勿論、帰宅する際に返しましたよ。もしかして分解しようとか考えました?」
「…そこまで言ってません」
ありすが不服そうな顔を浮かべて目を逸らすと、私の信用問題に関わりますので。と言って目の前の男は小さく笑った。
通信機の話がひと段落したところで、ありすはふと気になることがあった。
「…沖矢さんは、毎日こんなことしてるんですか?」
彼女が無事に帰宅することを確認し、場合によっては探しに行く。
それはまるで彼女を陰から護衛しているようで。
「ええ、彼との約束ですから」
目の前の沖矢さんは、何事もないかのようにそう答えた。
******
あのあと沖矢さんは唐突にカレーを作りはじめたかと思いきや、作り終わるとすぐに用事があると出かけていった。
ひとりの夕食。
ありすの目の前には、昼間有希子さんが作ってくれていた肉じゃが。
「いただきます…」
じゃがいもを口に運ぶと甘さがいっぱいに広がり…そして思い出すのは安室さんの顔。
安室透は組織の人間——
赤井さんからその事実を聞かされてもなお、心のどこかで疑っている自分に呆れてしまう。
彼が組織の人間であることを、他でもない私が当てにしていたのに、
なのに、この場に及んで誰かに否定して欲しかったのだろうか。
私は、彼が”白”であればと望んでいたのだろうか。
ambivalent feeling
彼との約束