彼女を助けたい
ただそれだけで手を差し伸べたが——

あの日以来、彼女は忽然と姿を消してしまった。



自宅に戻りシャワーを浴びた安室は、濡れた髪も気にせずソファーへ深く腰掛けた。目の前のテーブルには持ち帰ったばかりの茶封筒が置かれている。安室は意を決してそれに手を伸ばすと、中から数枚に渡る報告書を取り出した。

逢坂珠理 
南坏戸中学、米花高校を卒業後、東都音大ピアノ科に進学
在学中はフレンチレストラン「メゾン・ド・リュンヌ」でピアニストとして働く

安室はテーブルの隅に置かれた写真を一瞥する。

幼い自分の隣にいるのは、ピアノの側に佇む、如月ありすにそっくりの女性——

報告書に記載された彼女の経歴は、19年前に姉が大学生だったという如月ありすの証言とも一致する。彼女の苗字が如月でないことは気になったものの、その他の内容にも不審点はなく、安室は予備情報のつもりで目を通していた。

…その一文に辿りつくまでは。

逢坂珠理と父親は、19年前の東都大火災で焼死


この情報を使って、如月ありす、そしてその先にいる赤井秀一に近づくつもりでいた安室は、目論見が外れたことを知り溜息を漏らした。けれどすぐに、いくつもの矛盾に説明がつくかもしれないと思い返す。

母親の旧姓が如月で、この事件後に母親がアメリカ人と再婚した場合、その子どもは特別養子縁組の申請をして米国籍を取得することができた筈だ。そうなると、日本に残る親戚に何か情報を聞き出せるかもしれない。


安室は望みを持って再び報告書に向かうが、そこには予想を裏切る内容が記されていた。



母親は23年前に病死。
そして、逢坂珠理に兄弟はいない。


 
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