その後、綾瀬は遊作と別れ学校を出た。

「あー、緊張した」
(まさかお礼が言いたかっただなんてね。律儀というかなんというか、まぁ見るのはちょっとアレだとは思ったけど)
「(あはは…でも本当によかった)」
(うん。私も安心したよ)
「(ありがとう斗亜。私が悪いこと考えないように色々言ってくれて)」
(当然!だって綾瀬が辛いなんて嫌だもん。それに、綾瀬の代わりに私が表に出るのは嫌だし)
「(それは、勉強が嫌とか)」
(イエス!)
「(えぇ…)」
(まぁまぁ。でも、同じクラスに知り合いが増えてよかったね)
「(あんまり話せるかわからないけどね)」
(でも、知り合いが増えるのは良いことだよ!ま、とりあえず事件は解決したし家に帰って好きなことしよ)
「(…そうだね。今日から安心して生活できそうだよ)」

綾瀬は立ち止まって空を見上げる。
夕方の空は、空色と橙色が混ざった柔らかい色をしていた。

「(よしっ早く帰って本の続きを読もう)」

そう思うと、綾瀬は帰路についた。

((綾瀬、私が表に出るのが嫌なのは勉強が嫌いなのもあるけどさ、この体は元々綾瀬のものだよ。だから、私が出てくるべきじゃないんだよ))

斗亜の思いには気が付かないまま。


*****

綾瀬が教室から出た後、遊作は息をついた。

「(やっと終わった…)」

その表情はかなり疲れ切ったものだった。
草薙に言われたあの日から数日、遊作は綾瀬にお礼を言うタイミングを図っていた。
しかし、彼自身がそこまで人に話しかけることに慣れていないため今日までずっと引きずってしまっていた。
時には、草薙に「礼は言った」と嘘をつけば良いのかもしれないとも思った。
そこには、今更お礼を言って彼女が覚えているかわからないという思いもあった。
だが、遊作はそれをしなかった。
草薙に嘘はつきたくなかったし、綾瀬にもあの時何も言わずに対応してしまったことに多少悪気を感じていたからだ。

「(まさか、怖がられていたなんてな)」

綾瀬の言葉を思い出す。
自分がタイミングを探していた事が彼女に不安を抱かせてしまっていたとは思ってもいなかった。
遊作自身は不安を与えるつもりなど毛頭なかったのだが、悪いことをしてしまったなと感じた。

「とりあえず、草薙さんに報告しないとな」

誰もいない教室で、遊作は小さく呟いた。
ふと、彼女が忘れた本のことを思い出した。
見つけたのも手に取ったのも完全に偶然だったが、そのおかげで彼女と話すきっかけになった本。
それは、同じ年の女子が読むにはかなり意外な内容だった。

「(最近の女子はああいった分野も読むのか…いや、アイツだけか)」

あのような本を読んでいれば、以前呟いていた言葉にも納得がいく。
遊作は、自分と同じ分野に興味を持っている彼女に少しだけ親近感に似た感覚がわくのを感じた。


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