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あ、と小さな声を出して柿崎の足が止まった。俺も気付いてはいたが、その背中に声をかけたのは弓場だった。
「柿崎、なんかイイモンでもあったか」
「ああ……悪い、なんでもないから気にするな」
行こう行こう、とさっさとその場所から遠ざかろうとする。すぐに小さくなったその場所には何も置かれていなかった。ただ壁に何かが貼ってあるだった。
俺はちらりと柿崎の人好きのする笑顔を見る。横顔でも真昼のカラッとした青空のようだった。呆然とした柿崎は珍しい。それを見かねた迅が生駒を伴って柿崎にまとわりつく。なんでもかかえてしまいそうだと思ったからだ。
「ザキさんさ〜そういう他人行儀なのやめなよ」
「せやで、俺らずっ友やん?」
「……いや、本当にしょうもないことを思い出しただけだって」
「話してみ」
「生駒っちの言う通りだよ。ザキさんの中ではどうでも良くてもおれたちにとっては大きい問題かもしれないじゃんか」
「本っ当にしょうもない話だぞ」
「柿崎ィ。そいつらのことまだわかってねェのか?面倒くせェことに、そう言うのが大好きな奴らだ」
柿崎は一瞬「嵐山」と俺にSOSを送る。でも心には素直でありたい。飾らずに入れる場所では、特に。
「俺も柿崎のしょうもない話が好きだぞ」
「おまえらさあ……」
勘弁してくれ、と小さくぼやいてから、柿崎は「フラれた」と白状した。
「……それってつまり、彼女がいたってことやん?このっ裏切り者が!ええい、今日いっぱいはモテ崎じゃモテ崎」
「違うわ!良い雰囲気だった子に友達でいよう、って言われただけだっての!」
「それでもモテ崎には十分じゃない?」
「テメーら、公道で騒ぐんじゃねェ!」
フラれた。
柿崎の見ていた場所を振り返る。一枚のポスターがあった。市街のちょっと大きな美術館の告知だ。期限は今月末。ひとつひとつ情報をさらっていく。ゴッホ展。光輝くような向日葵。ひとつひとつが瞬くように光っている。
解放された、というか抜け出してきた柿崎が俺の隣に戻ってくる。
「……えらい目にあった」
「柿崎はあの子と美術館にでも行ったのか?」
「あー……、そう、だな。アイツ絵がうまいしそう言うの好きだって言ってたから、一緒に……行くまでは良かったんだよなあ」
俺たちはまた歩き出した。いつもの迅や生駒や弓場の背中を眺める。それから少し先に向日葵畑があった。街から少し離れたところにある畑の中でもひときわ目立つ。今年も咲いたか。と俺は目を細める。いつもどおり見事な向日葵がそれぞれの方向を向いている。太陽を向いて咲く花ではなかったのか。
疑問が頭をもたげる。しかし、燃えるような夕方があったから少しだけわかった気がする。暇だっていくら太陽が好きだとしても、燃やされたいとは思わないだろう。

23.01.02