昼の夢は果実の香り


 人の縁とはこれまた奇なるものである。
 角がよれて薄っすらとコーヒーの染みがついた文庫本。古い辞書の間に挟んだままだった四葉のクローバー。いつかの蝉の抜け殻。あちこち、表面が剥げた肌触りの悪いバレーボール。小さい頃、夏に河原で拾った丸い石。俺のとっておきのモノたち。久しぶりに開けると首筋がやけにくすぐったくて困ってしまう。そうか、これぞいわゆる少年の日の思い出ってやつか。なんて教科書にあった小説のタイトルをなぞってしまうぐらいには、浮かれていたんだ。

21.0210