大和さんはなんでも
1
おれは無口だからしてほしいことくらいはちゃんと言うようにと言われた。言いさえすれば大和さんは大抵応えてくれる。
「すき…………で、す」
取って付けたような丁寧語。思いは口に出すようにしているから言葉にした気持ち。それが実るとは本当は思っていなかった。大和さんはなんでも叶えてくれる、できる範囲で。
だから、そこはできない領分だと思っていた。
「俺のことが好きなのか」
驚くでもなくおれの頭をぐしゃぐしゃ撫で続けながら大和さんは言う。おれの頭を撫でているのは撫でてほしいと言ったからで、撫でてもらっている最中におれが好意を伝えたという状況である。
「俺も静(せい)くんが好きだよ」
了承と同意。それらがうれしい。でも大和さんの気持ちはおれのそれとは違うと思う。そう思うと、その差異が気になって、願望がより明確に言語化される。
「……付き合ってほしい」
付き合うって同じ好意を与えあうことだとおれは思っている。実際そういう意味ではないかもしれないけれど、おれは大和さんに同じように好きになってほしい。
「うん、付き合おう。……一つ断りを入れておくと、俺は静くんが好きだけれど、それに性欲は伴わないんだ。努力はするけれど早急にそういうことがしたいなら静くんが男側をやってほしい」
この人のこういうところが身も蓋もないと思う。でもおれがまだ言いきれていない願望ってそもそもそれだ。「好き」も「付き合いたい」も本心だけれど結局段階を踏んでちゃんとした手続きのもと嫌がられずにこの人と「そういうこと」がしたい。
大和さんはおれのことをそういう目で見ていない。それは痛いほどわかる。だから大和さんは現状から少しずつ努力をして、おれに合わせようとしてくれている。
その在り方はよくないんじゃないかと思う。不健康だと感じる。
「無理はしてほしくない」
おれは言った。元から無理筋の話をしておいて今さらだと自分でも思っている。大和さんはおれを撫でながら笑みをつくって答えた。
「静くんがそばにいてくれると嬉しいんだ」
その笑みは仄暗かった。
2
大和さんとは従兄弟同士。おれが大学受験の時に大和さんが家庭教師をしてくれたのがきっかけで仲良くなった。高校ではバスケばっかりやっていて頭が悪かったおれは、その時大和さんに褒められたくてほとんど初めて勉強を頑張ったのを覚えている。大和さんの教え方がよかったらしく結局おれは三段階ほど志望校のランクを上げて合格した。
大和さんはその頃からおれのことを気に入ってくれておれも大和さんに懐きに懐いた。
ふと、受験勉強中に、大和さんはセックスの時、どんな顔をするんだろう、と思った。そう思ってから、大和さんのことを考えてオナニーするようになるまでそんなに時間はかからなかった。その身体はどんな形をしていて、性器は、中は、どんな風になっているんだろう。
大和さんの形をおれはまだ知らない。シュレディンガーの猫とかコペンハーゲン解釈とか言い方は好きに選べるが、観測しないうちは様々な在り方があるということだ。おれは観測したいと思っている、大和さんの形を。でも、ちゃんと大和さんに好きになってもらわないとそういうことをしたらいけないとも考えている。
「静くん、おうちデートしようか」
大和さんと付き合うことができたおれは、休みの日に大和さんの部屋に行ったらそう言われた。おうちデートって何するといいんだろう。大和さんを眺めていると彼は言う。
「いつもとあんまり変わらないよ。サブスクで映画とか見るだけ」
確かにいつも二人でいる時はそんな感じ……かもしれない。
お互い大学の課題をやるか、ご飯を作るか、どちらかが見始めた動画をいつの間にか一緒に見ているか。
今回新鮮なのは予め一緒に見ることを設定している点だけだ。
大和さんのベッドに二人で座る。スマホで映画を探す大和さんを隣から眺めた。今までもこういう風に隣同士で何かをしたことはあったけれど、その特別さが急に増したように思う。
「何か見たいのはあるかな」
大和さんの優しい声。こちらを意識しつつ、スマホを操作する横顔。薄めのその唇。
大和さんがチラリとこちらを見て、それからスマホに視線を戻す。彼が指で画面をスワイプしながら口を開いた。
「……キスしたいのか?」
「へぁっっ!???」
変な声が出た。大和さんがあんまりなこと言うから。
「唇見てたから、そうかと思った」
大和さんがこちらを見る。画面を撫でていた手でおれのこめかみから側頭部にかけてを撫でられた。もう片方の手はベッドにスマホを置くのに動いて、それからおれの頬を触る。
「キスするか」
大和さんが優しく言う。キスできるならしたい! でも、大和さんはおれのこと大きくて人懐こい犬かなんかだとしか思ってない。浮かれて暴走しておれがオオカミになっちゃって大和さんから「やっぱり無理だ」なんて言われたらきっと立ち直れない。
「自分からするのが恥ずかしいなら俺からするよ」
大和さんが両頬をその両手で挟み込む。顔が近づいてくる。
どうしよう。ちゅーしてしまう。
思わず大和さんの口を自分の手で遮ってしまった。大和さんはゆっくりと顔を引く。
「嫌だったかな?」
頬を挟んでいた両手も離れる。
おれは大変な間違いをしてしまったのでは? という気持ちにもなる。おれだって大和さんとちゅーしたかったけど???
でもこんなことでこちらに気のない大和さんの神経をすり減らすのは避けたかった。大和さんは年上としてリードする気があるみたいだけれどおれだって相応に場数は踏んでいるわけで。女の子だったらがっつくとすぐ逃げてしまう。大和さんは男の人だけれど、大和さんを絶対に逃がさないという気概がおれにはあるんだ。そのためには簡単にがっつくのは駄目なんだ。
「静くんは前より頭でっかちになったな」
おれが断腸の思いでキスを拒んだことを読み取ってか、大和さんが笑って言う。おれは聞く。
「前の方がよかった?」
「前の静くんから変わったらがっかりするだろうなと思ってたけど、案外可愛いから今の静くんも結構気に入ってしまった」
困ったような笑顔。大和さんに頭を撫でられる。
大学受験の勉強で、大和さんが家庭教師をしてくれて以降、知ることや考えることが増えた。言葉をたくさん頭に詰めたら、元々あった勘が鈍ってしまった自覚がある。
「静くんこんな可愛くてどうするんだ?」
大和さんがおれを撫でながら言う。そこそこ雑にわしゃわしゃと頭から頬にかけてを撫でられて嬉しくなってしまう。大和さんはたぶんおれのこと大きなわんこだと思っているし、おれも自分のこと犬みたいだと思うことがある。
「撫でられるの嬉しい?」
大和さんに優しく聞かれて思わずにやけてしまう。大和さんに撫でてもらうのが嬉しい。撫でること自体は大学受験の時、勉強を頑張った時によくやってもらっていたことだ。
「映画見る気分じゃなくなったな」
背中まで大きく撫でながら大和さんが言った。
3
「おうちデート」から一週間ほど経っていた。その間も大和さんの部屋にお邪魔したりおれの部屋に大和さんが来たりしていた。おれ達は同じ学生向け賃貸に住んでいるので行き来がお手軽にできる。
それは夜だった。大和さんのバイトが終わったあたりの時間に彼から連絡があった。
「そっちに行ってもいいかな」
「どうぞ」
と返信した。
そして大和さんが今、目の前にいる。ベッドに横になった風呂上がりのおれの上に大和さんが乗っかっておれを眺めている。大和さんが言う。
「静くん、俺を抱けるか?」
久しぶりに頭の中で警報が鳴るような直感が働いた。本当はそういうことをしてはいけないけれど、今、それをしないといけない。しないとこの関係は負ける。勝ち負けじゃないけど、でも、この関係を負けさせたくない。
「抱きたい、です」
大和さんは、ははと笑っておれの上から退いた。そして言う。
「風呂入ってくる」
大和さんがおれの部屋の風呂に入る。
おれには大和さんが自棄になっているように見えた。自棄になって抱かれたがっているようだった。本当なら抱かない方がいい。でも、今抱かないと大和さんを繋ぎ止められない。そんな気がした。
風呂から上がった大和さんはおれのベッドに横たわる。おれは大和さんの唇にキスした。何度も口を触れ合わせる。大和さんが口を開けたのでそこに舌を入れる。
大和さんとキスしながら大和さんの身体を触る。手で上から下へ撫でていく。首筋を撫でて胸を触る。乳首に触れるが特に気持ちよくもなさそうなのでそのまま手を下に撫で下ろしていく。お腹を触って、大和さんのちんちんを撫でる。
大和さんは別に乗り気じゃないんだろう。触れてみたそこはピクリとも反応しない。
唇を離して大和さんに言う。
「大和さん、潤滑剤ない……。大和さんの髭剃りジェル使っていい?」
「うん。うん、かまわないよ」
うちにいることも多いので大和さんは自分の髭剃りジェルをうちにも置いている。
髭剃りジェルを手につける。もう片方の手で大和さんの片方の膝裏を持ち上げた。おれの肩に大和さんの膝をかけさせる。
大和さんの尻穴のしわを撫でてジェルを馴染ませるように指を動かす。大和さんのお尻の穴に指を入れる。一本目はあっさり入った。二本目を入れる。あっさりとまではいかないが奥まで入れられた。中を撫でる。大和さんの眉間にしわが寄る。
気持ちよくはなさそう。おれは聞く。
「気持ちいいとこある?」
「わからな……い。すま、ない……」
いつか大和さんがお尻で気持ちよくなってくれるといいけれど、今は抱くという工程をこなすことが大切だ。指の抜き差しをゆっくり繰り返して、徐々にもう一本、指を足そうと試みる。大和さんのちんちんは萎えているけれどおれはその姿を見られるだけで喜びもひとしおだった。ずっと、大和さんの性器も中の様子も知りたかったのだ。
指をもう一本足す。ゆっくりとそこに入れていく。抵抗感はさほどない。
「はい、ったか?」
大和さんが聞く。おれは答える。
「指、三本入った……」
「ははは……、ん」
大和さんが笑って、それから苦しそうな顔をした。指を中で動かしたからだ。
「痛い?」
「う、平気、だ」
痛いか、もしくは苦しいんだろう。余計なことをしてしまった。おれは早く終わらせてやりたかった。
「大和さん、いれたい」
「ん……うん、きてくれ」
大和さんのもう片膝も肩に乗せて、おれは自分のちんちんにゴムをつけると大和さんのお尻を拓いた。
大和さんはお尻の穴に入れられている間、苦しそうにしていた。おれは少しは大和さんも気持ちよくならないかと頑張ったが大和さんの身体はいい反応を示さなかった。結局セックスしたという実績を重視すべく一人で達した。
それから交互にシャワーを浴びて、来客用の布団を床に敷く。ベッドの方を大和さんに貸すと大和さんは大人しくそこに横たわった。
「何かあった?」
言葉足らずな聞き方をしてしまう。大和さんが自棄になってセックスに誘った理由が知りたかったのだけれど伝わるか。
「ないしょ」
大和さんがいつになくかわいい言い方をする。ベッドの側に座って大和さんを見つめると大和さんがおれの頭を撫でた。
「取るに足らないことだよ。どうかしてた」
大和さんが言う。口調は軽快で、気持ちは落ち着いたように思えた。おれの頭を撫でて大和さんが言う。
「静くん、髪の毛ちょっと濡れてるな」
さっきシャワーを浴びた時にお湯が飛んだのだろう。大和さんが起き上がってドライヤーを持ってくる。
「ちょっと乾かそう」
そう言うとドライヤーのスイッチを入れておれの頭を乾かし始めた。さっきまでケツにちんちん入れられてたのにサッと起きられるのは腰、というか体幹が強いからなのかなぁ。
4
大和さんは本家の長男で、もともと文武両道という印象の人だった。
噂では、高校時代は成績優秀で学年トップだったとか、剣道部に入っていて主将だったとか、生徒会長をしていたとか、大学では二年生の終わり頃には必要単位以上を取得していたとか、三年生の始めには有名企業への内定が決まり就職活動を終えていたとか、四年生の今は卒論に向き合っているが教授顔負けの難題を扱っているとか。噂がどこまで本当かはわからない。そもそもおれと大和さんは通う学校が違うのでお盆とかに本家に行かないと大和さんの高校時代や大学での噂は耳に入らない。
つまり、この夏、お盆に本家にお邪魔したのでそういう噂をたくさん聞いたのだ。大和さん本人は大人達に囲まれていてなんだか遠い存在に思えた。
だから大学に戻って自分の部屋や大和さんの部屋に帰ってからちょっと安心してしまった。なんでもできるエリート様なんて色眼鏡で大和さんを見てしまったら多分こんなに近寄れなかった。
おれの受験期から今まで、大和さんは甘やかしてくれるおにいさんで、付き合って恋人という立場にもなった。
ベッドの端に座った大和さんに抱きつく。ベッドの上に乗って後ろからである。お風呂に入ったばかりの大和さんからはせっけんの香りがする。
「あはは、よしよし」
大和さんが振り返っておれの顎をワシャワシャ撫でた。ワシャワシャ撫でられるような毛はないので首や顎あたりをざっくばらんに五指が触れる。その撫で方は犬や猫にやるものだけれど、まあおれは犬みたいなものだから。
おれは攻めあぐねている。大和さんとセックスがしたい。前に大和さんとセックスした時、大和さんはイけなかった。その印象を引きずりすぎるといよいよセックスができなくなる気がする。もしやるなら、次は大和さんも気持ちいいセックスを。そう思うととてつもなくハードルが高いように感じた。
高いハードルは分解するといい。つまりセックスよりハードルの低いものからやっていくといい。オナニーを手伝うとか。
大和さんの腰に手を沿わせると大和さんはおれの顎から手を離して言う。
「どうした?」
「触りたい」
「かまわないけれど、洗浄はしないと……」
「ちんちん触りたいだけ」
「ああ、なるほど」
大和さんはおれに触られて勃つかわからない。でも別に勃たなくてもオナニーを手伝ってみたという実績ができる。大和さんのズボンに手を突っ込むと大和さんが言った。
「脱いだ方がやりやすいだろ。脱ぐから、ちょっと待ってくれ」
大和さんがズボンと下着を脱ぐ。おれは大和さんを背中側から抱きしめる体勢のままその性器に触れた。
亀頭を撫でて柔く竿を握る。ゆっくりと動かすと徐々に大和さんのちんちんが芯を持ち始めた。
「う、ん……もうちょっと早く、こすってくれ」
大和さんに言われて若干速度を上げた。大和さんのちんちんがちゃんと反応して、固くなっている。
「……は……ぁ、気持ちい……」
大和さんの声。ちゃんと感じているのがわかって嬉しい。
「あ……ぁ、……っ、は……、あ」
ずっとここを触っていてあげたい。気持ちよくなってほしい。
そう思いながらそこを扱き続けているとそのうち大和さんの腰がわずかに動き始めた。触り方に合わせて腰が前後に振れる。
大和さんがそれを自覚してか、少し恥ずかしそうに声をあげた。
「う、ぁ……まっ、」
「イきそう?」
「イ、く……っ」
ティッシュを取って精液を受ける。大和さんの身体がビクリビクリと震えた。
「……ぁ、はぁ、はぁ」
大和さんの息が荒い。おれの手で大和さんがイけたことが嬉しい。
ティッシュでちんちんを拭いて、大和さんの背後から退く。ティッシュをゴミ箱に捨てると手を洗おうと水場に向かった。大和さんがズボンを穿いてついてくる。
大和さん、こっちに用事があるのか。手を洗って大和さんを眺めると彼もおれを見ていた。
「今一人でベッドにいたら寝そうだからついてきただけだよ」
大和さんが弁解するように言う。何の弁解かわからないけれど寝てていいのに。
水に濡れた手を拭いて、大和さんに抱きつく。大和さんの首筋に顔をうずめて言い様のない愛しさを噛み締める。
大和さんはおれの背中に手を回してポンポンと優しく叩いた。子どもをあやすような手つきだ。
大和さんがおれの股間に気付く。あんなになってた大和さん相手に勃っちゃうのは仕方ない。仕方ないけどおもむろに触らないでほしい。
「俺が抜こうか」
大和さんが言う。そう言う気もしたし、実はちょっと期待していた自分に気付く。浅ましい。いや別にいいだろ、大和さんからは実際提案されたのだから。
おれが頷くと大和さんはよしよしと頭を撫でてからおれのズボンと下着を下げる。
竿を持たれて優しく動かされる。
「あ、は、っ……あ」
玉まで触られてしまう。
「気持ちいいなぁ、静くん」
大和さんの声が優しい。ずっと大和さんのを触りながら興奮してたから、三こすり半くらいだった。いや五こすりくらいはしたかも。
「うぅっ」
大和さんが精液を手で受ける。大和さんは言った。
「ちゃんとイけて偉いな」
それはオナニーをする時に妄想の中で大和さんに一番言わせていたセリフである。おれは思わず言ってしまった。
「現実……?」
5
この間、大和さんのオナニーを手伝った。最後にはおれのもしてもらっていたけれど、大和さんはおれの手でしっかりイけていた。この調子で、セックスでちゃんとイかせられるようにならないだろうか。
大和さんと初めてアナルセックスした時、大和さんのお尻は大和さん自身が前々から拡張していたのか、思ったよりあっさり入った。でも、気持ちいいところはわからないみたいだった。お尻の穴でイくのって難しそうだよな。
大和さんがうちに来ている。お互い風呂上がりで後は寝るだけという状態だった。二人でベッドの上に座っている。おれの頭を撫でながら大和さんが言った。
「信頼関係があると、こういうふれあいでオキシトシンが出るらしい」
オキシトシンは幸福物質。信頼関係がある人と見つめあったり触れ合ったりすると出る。犬と人間でも見つめあって出ると聞いたことがある。大和さんが優しく笑って言う。
「撫でられている側より、撫でている側の方がより多くオキシトシンが出るらしいよ。こうやって俺は幸せにしてもらっているんだなぁ」
大和さんがワシャワシャおれを撫で続ける。いつもより視線が柔らかい。
こう言うと身も蓋もないけれど「はぁー? セックスしてぇ!」と思った。いつだって大和さんとしたいけれどこんな甘い雰囲気でおれの情緒や股間がどうにかならないわけがない。
「大和さん」
「どうした?」
「セックスしたくなった……」
「あっはっは、しよう。準備しておいてよかった」
大和さんが笑って言った。どうやら尻の準備をしていたらしい。
大和さんをベッドに優しく押し倒す。倒れ込んだ大和さんに覆い被さってキスした。前にセックスした時にキスして、その後も何回かキスしていたから、大和さんとのキス自体はそこそこ慣れてきた。大和さんの口の中の気持ちいいところは多少わかるし、大和さんもおれがどこをどうされたいかわかっていると思う。
大和さんの上顎を口の中から舌で撫でる。
「ぅ……」
口と口の隙間から小さく声が漏れた。大和さんの声。キスしながら部屋着を捲り上げる。どうせ大和さんは乳首で感じないのは知っているけれど触らないのも味気なくて乳首を撫でた。キスしていた口を離すと大和さんが言う。
「乳首、触るの好きか?」
「うん」
「へぇ、じゃあ感じるようになるといいな」
他人事みたいに大和さんが言う。でもこの人、いつの間にか尻穴の拡張をしてたくらいだししれっと乳首開発くらいしそうだなぁ。
乳首を撫で回してある程度満足したのでそこから手を離して大和さんのちんちんを触った。ちゃんと触ると芯を持ち始める。ゆるゆると扱くと大和さんが自分の口を片手で覆った。声を出すのが恥ずかしいのか。いや、ここ、賃貸の壁がわりと薄いことについて、この間のオナニーの後に気付いたのかも。おれに聞かれるのが恥ずかしいというより、ご近所さんへの配慮なんだろう。おれとしては扱きながら先っちょをグリグリすると我慢できない様子で大和さんの吐息が漏れるので、これはこれでアリだなあと思う。
「……っ、ん……ぅ……待、て……あっ」
制止の声に手を止める。大和さんが荒く息をしながら言った。
「あんまりそこばっかりいじると、すぐイくからやめてほしい。ちゃんと洗浄したんだからケツ穴触ってくれ」
確かに、ちゃんと洗浄したのならお尻の穴を触らないともったいない。おれが起き上がると大和さんが四つん這いに体勢を変える。おれはこの間のセックスの後に買ったアナル用ジェルを手に出して大和さんのお尻を触った。穴を指で拓く。前より指がすんなり入った。腹側にある前立腺を刺激すると気持ちいいらしいけれど、どのあたりだろう。やんわりと指を動かす。
「んんっ」
「痛い?」
「……違、っ、あ……っ……!」
大和さんが声が漏れないように口を押さえる。ちんちんは萎えていないようだ。気持ちいいのか。さっき触ったのどこだ? そう思いながらもう一度指で内壁を撫でる。それらしいところを見つけて触り続けると、大和さんが悶えるように身体をくねらせた。
気持ちいいのなら大和さんがイけるまでずっとここを撫で続けてやりたいくらいだけれど、おれの方が限界だった。さっきから普段見られないエッチな大和さんがたくさん見られて、我慢しきれない。
「大和さん、入れていい?」
「ん、……おいで」
大和さんの吐息混じりの声がたまらない。急いでゴムを着けると大和さんのお尻の穴におれのちんちんを入れていった。ぬかるんだそこにズブズブとちんちんがはまっていく。前よりも中が柔らかい。
あんまり乱暴にならないように動いたつもりだった。
「……ん……ふ、ぅ……ぐっ、……ん」
大和さんのふさいだ口からわずかに漏れる気持ちよさと苦しさをないまぜにしたような吐息がたまらなかった。大和さんの顔を見たくておれは後ろから大和さんを覗き込む。片手で口を押さえて、苦しそうに眉間にしわを寄せるくせに時折どうしようもなく淡く暗く、嬉しそうに笑うのが印象的だ。押さえ損ねた口の端が上がって、耐えきれないように笑みを作る。その顔をしばらく見ていたが、おれは限界が近くて覗き込むのをやめた。我慢しきれず腰を大きく動かす。ガツガツ動いて、奥に入れ込むようにしておれが達する。イった時にブルッと震えた。大和さんの中から自分のちんちんが出ていく。
余韻で自分の息が荒いのがわかる。大和さんはイき損ねたのかちんちんが元気だ。大和さんが自分で扱いたらすぐに射精した。おれは言う。
「おれがイかせたかった」
「また今度な。……俺は静くんがおれの上で一生懸命腰を動かしてるのが見られるだけで満足だけれど、そのうちイけたらそれも楽しいだろうな」
笑い方が仄かに暗い。この人は時々そういう笑い方をする。この人はおれが付き合いたかったから付き合って、おれがセックスしたかったからおれのためにお尻の穴を開発した。そうやっておれに捧げるだけ捧げ続けてしまうのだろうか。そして、おれがそんな大和さんからもう離れられないと思っていることを知ったらまたその仄暗い笑みを浮かべるんだろうか。
もうおれは逃げられないし離れられないんだろうな、この人から。
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