青ラバ屋


八田側の悩み


 八田壮真は悩んでいた。最近恋人になった春崎容についてである。春崎容は今まで他のDomから酷いプレイばかりさせられていた。春崎容の身体に付いた無数の傷を見て壮真は春崎容に優しくしたいと思った。それが最近、春崎容を泣かせたい願望が膨れ上がっている。悲しませたくないはずなのに、泣いている春崎容を見てみたい。そんな気持ちを壮真は蓋ひた隠しにしていた。
 壮真と春崎容は付き合ってからプレイ回数が増えた。セックスを含めたプレイをすることもしばしばある。
 今日もプレイをしようと壮真が声をかける。
「春崎さん、プレイしないか」
「プレイはしたいけど、壮真いつまでおれのこと名字にさん付けで呼ぶつもりなの?」
 春崎容が壮真に言う。壮真自身は名前呼びに変えるタイミングを見失っていたので容の言うことはありがたい。
「え、じゃあ……よ……容、さん」
「名前にさん付けは……ちょっと照れる。新婚さんみたいだから」
 容の言い方はかわいい。でも壮真は容よりずっと照れて恥ずかしい気持ちになった。新婚さんっぽいと言われるとそうかもしれない。ちなみにこの地域では男女やダイナミクスに関係なく婚姻が可能なので壮真と容も結婚できる。
「えっと、じゃあ、容……」
 呼び捨てすると容がニマニマと笑った。壮真は慣れない呼び方に恥ずかしさが消えない。容が言う。
「そう呼んで欲しかった。ありがと」
 恥ずかしかったが、容が嬉しそうなところを見ると壮真も気持ちが暖まる気がした。
 容を抱き締めたい。壮真は容を幸せにしたいと思っている。
「容……ハグしてくれ」
 壮真は容を呼んでコマンドを言った。容はきゅーっと壮真に抱きつく。
「あ、はは。いい子だな……かわいい」
 壮真は容を抱き締めかえしてその背中を撫でた。容が壮真に言う。
「褒められるの好き。撫でられるのも気持ちいい」
「コマンドは苦しくないか?」
「壮真のコマンドは重い分ちゃんと効いてる感じがして嬉しい。おれ達、相性が良いと思うよ」
 容は日頃から壮真にこのように伝えてくる。壮真は容の言葉が嬉しい。容に出会うまでは、コマンドを言った途端相手のSubが怖がったり、その子がSub dropに陥ったりすることが多かった。だから、ちゃんとプレイ出来て、相性が良いと言ってもらえるのはありがたいことだと壮真は思っている。
「壮真はコマンドを日本語で言うけれど大抵みんな英語使うよね。何かこだわりがあるの?」
「コマンドが効きすぎないように日本語で言ってるんだ」
「へぇ、そういうのあんのね」
「俺も原理はよくわからない」
 壮真には原理はわからないが相手からするとそこそこマシにはなるらしいから今後もこのままのつもりである。壮真は容に言う。
「セックス込みのプレイがしたいんだ。いいか?」
「うん、おれもしたい。洗浄してくる」
 容はそう返して壮真から離れた。何故かサムズアップしつつ風呂場へと向かっていく。
 壮真は「あの人時々テンションおかしくなるなぁ」とぼんやり思った後、コンドームやらローションやらの準備をして容を待った。
 しばらくして容が帰ってくる。
「容、準備できたか?」
 壮真が聞くと容はニコッと笑って頷いた。壮真が容の頭を撫でる。
「いい子だな」
 壮真がそう言った。それから容に服を脱ぐよう促す。
「容、服を脱いでくれ」
 その言葉に容は服を脱ぐ。上も下も全て脱ぎ終わると、容は壮真を見た。容が褒められるのを待っている。ここですぐに言葉を言わなければどうなる? ふと、壮真の頭の中にある気持ちがもたげてくる。容が泣くところが見たい……。壮真はすぐにその気持ちを奥底に追いやった。
「ちゃんと言うことを聞けたな。嬉しいよ」
「へへへ、おれも褒められるの嬉しい」
 容の顔がとろけるのを見ると壮真は苦しくなる。何故、満足出来ないんだろう。相手が喜べばそれで十分なはずなのに。
 壮真はベッドに容を横たえた。容の上半身の傷痕に手を這わせる。容は以前「傷痕を触られると感じてしまうから性感帯になっているんだろうね」と、壮真に言っていた、
「んん」
 容が声を上げた。壮真は聞く。
「痛い?」
「ちが、くて、あんまり触られるとちょっと、あっ、ああ、は」
 容が傷痕を撫でられて変な声を出す。壮真が傷痕を舐めた。
「あ、んん。……気持ちいい、から……あっあ」
「これは誰に付けられた傷痕なんだ? 言って」
 傷痕を一つ触りながら壮真が聞く。思わぬコマンドに容は狼狽えながら答えた。
「お、覚えてない……。何? なんか、怒ってる?」
「怒ってないよ。言ってくれて嬉しい。覚えてない傷ばっかりなのか?」
「前にプレイしてた人達のこと、あんまりちゃんと覚えてない……。あと名前言っても壮真はわかんないだろ?」
「ああ、確かにそうかもしれない。この痕は何なんだ? どうしたらこういう丸い痕が付く?」
「煙草、押し付けられて……」
「はぁ、痛そうだな……。頑張ったんだな」
 壮真は容の傷痕を撫でる。その度に容の身体が震えた。明らかに容は傷痕を撫でられて感じている。
「そ、ま、なんか……や、だっ。昔のこと、思い出したくな……ん」
 容が言う。壮真は容を大切にしたい。大切にしたいはずだ。
「うん、悪かった。気持ち良くなろうな」
 壮真はローションを手に垂らす。容の尻の穴に触れた。柔らかなそこは壮真の指を飲み込んで嬉しそうに波打つ。壮真は容の前立腺に触れた。
「あ、あっ、そ、ま……そこ、すき、ぃ!……ぁ、あ!」
 指で撫でる度に容が声を上げる。壮真が言う。
「気持ちいいところ、触っててやるからな」
 壮真の言葉に容が上擦った声を出す。
「ま、まって、イっちゃう……、や、あ」
「イってもいいよ。でも、出しちゃ駄目」
 壮真が容に言う。優しい言い方だが、明らかなコマンドだった。壮真は容を大切にしたかった。でも、こうやって苛めたくて仕方なかった。
「壮真の、コマンド、重いからぁ、射精、出来なくなっちゃ、あ、あっ」
 身体の方が勝手に従わされるのだろう。容が泣きそうな顔で壮真を見る。壮真は前立腺を丹念に撫で上げながら容の顔を見つめる。容が苦しそうに顔を歪めて、ドライオーガズムを迎えた。ヒクリヒクリと震えて、中で達する。
「あ、はぁ、はぁ」
「容、出さずにイけてお利口さんだな。もっと奥まで気持ち良くなろう」
 壮真がコンドームをつけると容の尻の穴に自分の性器をあてがった。ゆっくりと入れていくと容が身をよじる。
「だ、イったばっかだからぁ……!」
「まだ出しちゃ駄目だからな」
「なん、っ、あ、ああ!」
 ゆっくりと、容の好きなところに押し付けて、奥まで入ってく。容の中は柔らかくトロトロで気持ちいい。
 容が快感に顔を歪める。気持ち良すぎて苦しいらしい。泣きそうな顔をしている。
 何度も奥まで揺さぶって、容の中を堪能する。容が気持ち良さに涙を目に浮かべて壮真に懇願してくる。
「そ、ま……やだぁ、たすけて……ああ!」
 誰にこんな目に遇わせられているのかと言われたら間違いなく壮真になのだが、容が泣いてすがれるのは壮真だけだ。その事実が壮真のDom性の欲求を満たしていく。
「はぁ、容はかわいいなぁ。こんなに俺を満たしてくれるんだな。嬉しい。大好きだよ」
「壮真ぁ、おねが、ぁ……出したい……んん」
「ん、一緒にイこうな。そろそろ俺も出るから」
 壮真が大きく腰を使う。容の目から涙がこぼれる。
「出していいよ」
 壮真はそう言いながら言い様のない満足感の中で達した。容も射精する。
「いい子だな。ちゃんとできたな」
 壮真は容を褒めた。
 しばらく容はSub spaceに入ってぼんやりしていた。壮真は自分のやらかしに自己嫌悪を覚える。
 容に優しくしていたかったはずだった。ずっと辛い目に遭っていた容に優しくしてやれるはずだった。こんなことをするつもりはなかった。
 容がSub spaceから戻ってきて、壮真に目を向ける。
「意地悪だったなぁ」
 容が壮真にすり寄って言った。壮真は土下座する勢いで謝る。
「悪かった! こんなつもりじゃなくて、俺は、その、すまない!!」
「は? 別に責めてないけど?」
 容は壮真の様子にイラついたように言う。壮真は言った。
「本当は容に優しくしたいのに、酷くしてしまう。そんなつもりないのに……」
「いや、酷くしたいんでしょ?」
「う……そうです」
「おれは壮真になら酷くされたい」
「だ!」
 壮真は「誰にでもそう言ってるだろ!」と言いたかった。容は人がして欲しいことを先回りして考えて、自分の意思を考慮せず行動してしまうから。しかし、自分があんまりなことを言おうとしていると思ったら、そのセリフは声にならなかった。それでも壮真の気持ちを容は汲み取ったらしい。
「他の人なら「やりたいなら仕方ないか」くらいだけど、壮真に酷くされるの、おれ大好き」
 容が言う。それは本心にも思えるが、信じがたい言葉だった。欲しい言葉を貰って壮真は咀嚼しかねた。全部を受け入れてもらうような心地よさと恐ろしさ。
「〜〜。大切にしたい。しんどい」
 壮真は言った。容が笑って言う。
「大切にしてるだろうがよぉ。別に壮真そんなにエグい性癖してないよ。ちょっと意地悪したいだけでしょ? スカ○○とかフィ○トファッ○とか欠○とか好きな訳じゃないでしょ?」
 それはそれはおどろおどろしい言葉が容の口からまろびでる。
「あ、ああ〜。それは、そうだな!!」
 容の提示した特殊性癖を前にして、壮真は妙に元気付けられた。好きな子に意地悪したいってわりとありふれたことだと思えばそこそこ納得できる気がした。

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