ムリムリ

突然だが、俺は、全体的に自分の偏差値は55だと思っている。まあ、ナルシストだと思った奴はそう思ってくれていていい。仕方ない。
でも、突出して自分をイケメンだとか優秀だとか思ってないってことも“55”っていう数字から察してほしい。
普通よりはまあまあ優良な方。勉強然り運動然り容姿然り、周囲からの評価も偏差値55くらいだろう。つまり微妙に自己評価が高い。それが俺。まあ、あくまで全て自己評価だ思い上がっている可能性も大いにある。そんな普通よりはちょっとだけ充実した俺の高校生活2年目のある日。

「え、俺が書記?」
「そう、お願いしたいなーって。あ、仁和くん僕のこと分かる?」

そういって自分を指差し首を傾けるのは我が聖架総合学院の生徒会庶務、池園さん。同じく2年で、たしか7組だったはず。

「いやいや、花ぞ…池園さんでしょ、分かるよ」
「あ、ほんと?よかったあ、クラス遠いし会ったことないから分からないかなって思ったよ〜!」
「生徒会庶務してるよね?それに池園さん美人だし俺らのクラスでもよく騒がれてる」

池園さんはどこかふんわりとした独特の雰囲気を纏っていて、先の細いえらい美人さんである。むさ苦しい男子校で数少ない癒やし要因である彼には『俺の花園』っていう非公式ファンクラブもあったはず。本人は認めていないらしい。そんな有名人な彼を俺が知らない訳も理由もない。ちなみに俺の所属する2組はおそらく俺の花園率が高い。

「えっ…そ、そかな。ありがと…」

…たしかにこれは可愛い。俺の花園感あるわ。
風に乗ってふんわりと甘い匂いが届く。頬を少し染めて目を泳がせる動作は、明らかに照れ隠しのそれだ。美人だとか可愛いとか、言われ慣れているはずの言葉にいちいち初な反応する姿は俺が小学校のとき好きだったマリコちゃんにそっくりだわ。

「あっ…ていうか、仁和くん!書記の話は」
「あー、ちょっと、考えさせてほしい」
「そう、だよね…いきなり言ってびっくりさせちゃってごめんね。僕達生徒会も結構悩んだ結果なんだ…、良い方向で考えてくれたらうれしいな。」

「でも無理はしないでね」といって小走りで屋上から出て行く池園さんの後ろ姿を眺める。
パタン…とドアの閉まる音を確認して息を吐いた。

「はー〜〜っ…すげー緊張した」

当たり前だ。
俺は自称人間偏差値55の一般男子だ。正直過大評価してる自信もある。それがあんな、男なのに野郎のファンが集うくらいの美人(おれてきに顔面偏差値は65くらい?)の子に呼び出されるとか非日常だ。しかも内容も非日常だ。

「俺が、生徒会役員て…」

んな阿呆な。ぜったい無理。
生徒会っていったら顔面偏差値65以上、成績は学年トップ揃いの超有能、この聖学のアイドル集団だ。池園さんが居ても浮かない、むしろ居て当然だが、俺が生徒会はギャグでしかない。
俺は、こうして偏差値50の世界でちょっとした優越感に浸っている方が性に合ってる。
キーンコーンカーン…

「あ、やばい、授業」