安定だな

「仁和、お前3限なんで遅れてきてたんだよ」
「ていうか2、3限の間の休み時間、池園さんと屋上で密会してたって噂聞いたけど?」
「え!!?まじかよ池園さんと?!」
「何だったの?告白でもされた?」
「なにぃいい告白ぅ?!」

「落ち着け」

今日は麻婆茄子セットにしよう。注文して、タッチパネルを小牧に回した。

「何にしたの」
「麻婆茄子。もし池園さんに告られてたら今頃奴らから殺されてるぞ俺」
「たしかに」
「良かったー」

小牧はタッチパネルを操作しテーブルの横のケースにさっさと片付けている。あれ、朝霧の分は?
昼飯を注文することを忘れている朝霧は俺や小牧の言動に一喜一憂している。俺達のキャラ分担はいつもこんな感じである。

「で?なんだったの」
「そうだよ何お前池園さんに呼び出されてんだよ」
「んーーーー…じつはさ、…生徒会の書記にならないかって言われて」

向かい側に座る二人の整った顔を眺めながら本題をあげる。思った通り二人は目を見開いて、

「あ〜〜」
「あ、そっか、書記枠あいてたもんなあ〜」

………ん?

「…あれ、なんか思ってた反応とちょっと違うんですけど」

もっとこう、えー!お前なんかがー!っていうヤツ。普通来ると思うじゃん。
小牧は逆に驚いた俺の反応も分かっていたかのようにクスリと笑う。小牧はこういうちょっと臭わせるような笑い方が妙に似合う、気がする。

「いいんじゃないの、入れば?」
「いやいやいや、俺には無理!生徒会はだめ!」
「別に仁和たなら誰も文句言わないよ」
「仁和、今回のテスト池園さんより総合点良かったもんなあ」
「たまたまだって…」

そう、本当にたまたま、今回のテスト結果だけ良かった。いつもは6〜8位をうろついている俺が今回は2位。池園さんが3位だった。
毎回テスト勉強はそれなりに努力しているから、その結果だし、俺が容量いいとかそういうわけじゃない。容量いいっていったら、小牧だ。

「小牧、今回テスト勉強した?」
「んー、まあしたよ」
「んーにゃ、してねえよ。コイツいつも通り22時就寝だったぞー。いや、前日にちょろっと教科書開いてたか…?」
「…との同室者の証言がありますが?」
「教科書読んだもん」

小牧はテスト勉強をしない。で、テスト結果は狙ったかのようにいつも10位。授業をしっかり聞いているといっても、それだけだ。単純にすごい。

「おまえが書記すればいいじゃん。可愛いんだし」
「えー小牧はやだ」
「はぁ??朝霧ウザッ!まあでもやだよ。書類仕事とか嫌いだし注目もされたいわけじゃないし」
「…俺だっていやだ」

ウェイターが麻婆茄子セットを運んできた。小牧の前には山菜蕎麦、朝霧の前にBセットランチが置かれる。今日はハンバーグ。小牧がハンバーグが大好物な朝霧の分を(勝手に)頼んだんだな。いただきます。

「まあまあ、仁和ひまでしょ?他に立候補者いなかったらやってあげれば?書記いなくて忙しいって渡瀬泣いてたよ」
「本当に俺でいいのかよ…」
「どうせ信任投票あるしなー。仁和が書記なんていやだー!って奴らが多かったらどうせできねえしさ、やってみれば!俺は大丈夫だと思うけどな」
「えー…」

信任投票までなって落選ってダサすぎない?俺自分で人間偏差値55です!っていう程度にはナルシストなのに。まあこの学院の場合、立候補までが難しいから推薦貰ったら不信任になることは少ないかもだけど。生徒会の決定に楯突くことになるし。
小牧は少し長い横髪を片耳にかけながらこっちを見上げる。

「むしろなんでそんなに嫌なの?光栄なことだよ?」
「だってさー!…あれ?…なんで嫌だったんだっけ?」
「……………やれば」
「………うーん」
「池園さんを助けてやれ!」
「お前がやれよ」
「俺は無理だろ」
「そうだね、朝霧は無理でしょ」

確かに、朝霧は無理だな。朝霧は目の前にあるハンバーグに気づき一瞬首を傾げたあと、嬉しそうに頬張りはじめた。小牧は横目に呆れた目を向けている。いい夫婦だな、結婚すればいいのに。