3

今回は煙突飛行ではなく、アランによる付添い姿くらましで、キングズ・クロス駅に降り立った。オルガにしてみれば、煙突飛行よりも姿くらましのの方がずっと快適である。

9と4分の3番線へ向かうために柱の前まで来た。話には聞いていたが、どう見てもぶつかったら痛そうな壁である。少し怖気付いていると、アランが声を掛けてきた。
「大丈夫だよ、オルガ。ぶつかったりしないから」
アランは優しい微笑みをオルガに向けて言った。オルガは覚悟を決めて、柱へと走った。

目を開けると、たくさんの人と紅色の蒸気機関車があった。驚いて辺りを見回していると、後からやってきたアランに背を押された。
「ここまで来れば邪魔じゃあないかな」
そう言ってアランはオルガに向き直った。

オルガの前でしゃがんで目線を合わせてくれるアランを前にして、オルガは何を言えばいいのか分からなかった。両親が亡くなってから、兄は私を育ててくれた。兄とずっと2人で歩んできた。ホグワーツに行くと離ればなれになるということを、オルガはここに来てやっと実感する。

「アラン、手紙書くからね。お仕事、無理しちゃ駄目だよ」
「おや、心配してくれるのかい?」
アランはくすくすと笑いながら、返事をする。
「オルガも、あんまり根を詰めすぎちゃ駄目だよ。友達と一緒に過ごす時間も大切にね。」
アランは優しく抱き締めてくれる。オルガは、何故だか鼻の奥がつんっとなって涙が溢れそうになるのを耐えた。その様子を見たアランは、眉尻を下げ困ったような顔で笑って、オルガの頬にキスを落とした。
「オルガ、僕にもしてくれる?」
自分の頬を指しながら言ったアランに、オルガも同じようにキスをした。
「いってらっしゃい、オルガ」
「いってきます」

列車に乗り込んで誰もいないコンパートメントを確保したオルガは、窓から乗り出してアランに手を振った。

列車が動きだして、オルガは肩に乗せていたヒューイを相手に喋っていた。
「ねぇ、ヒューイ。アランは友達を大切にって言ってたけど、私友達ができたとしても、アランとか森にいる友達を優先しちゃいそうな気がするんだ。友達なんて私につくれるのかなぁ」
<オルガ、僕たちのこと大好きだもんね!僕もオルガと一緒の時間が減るのは悲しいけど、ヒトは素敵なオルガをほっとかないんしゃないかな?>
「嬉しいこと言ってくれるね、ヒューイは」
オルガは、ホグワーツへの入学を、面倒臭がりで内気なところを直す良い機会だと捉えようと思った。

列車が動きだして少し時間が経った頃、コンパートメントをノックする音がした。オルガが返事をして、扉を開け此方を覗きこんだのは、こげ茶色の髪に綺麗に透き通ったグレーの目をした男の子だった。
「ごめん、ここ空いてるかな?他はどこもいっぱいで…」
「…うん、どうぞ入って」

早速他の子と喋る機会が訪れてしまった。内心びくびくしながらも、オルガは話しかけようと決意を固める。男の子が席に座ってから、オルガは口を開いた。
「あの、」「ねぇ、」
2人は驚いて同時に目を丸くさせる。どうやら、同時に声を発したようで、しかも2人とも緊張しているのが丸わかりの声をしていた。
「ふふふっ、あははは」
オルガはなんだか面白く感じて、声をあげて笑ってしまった。すると、男の子も緊張がどこかに行ってしまったようで、同じように笑い始めた。
笑いが落ち着いてから、2人は自己紹介をした。
「私、オルガ・シュタイナー。今年ホグワーツに入学するの。」
「僕、アルバート・クロフト。僕も今年入学なんだ。」
緊張が抜けた2人は握手も交わし、お喋りを始めた。アルバートは、両親とも魔法使いで小さい頃から魔法に触れて育ってきたらしい。オルガの両親が亡くなっていることを知ると、アルバートは申し訳なさそうな顔をしたけれど、オルガは彼の優しさを知った。
「オルガは入りたい寮はあるの?」
「うーん、特にないんだよね。アルは?」
(アルというニックネーム呼びをすることになった)
「僕もそうなんだよね。でもオルガが同じ寮なら嬉しいな」
オルガはびっくりした。どの寮でも良いし、アルと一緒なら嬉しいと考えていたから。
「私もそう思ってた。似た者同士だね」

その後は車内販売のお菓子を一緒に食べたり、ヒューイの紹介をしたりした。
そうやって過ごしているところに、ノックの音が響いた。扉が開くと、そこにいたのは栗色のふわふわした髪の女の子だった。
「ねぇ、ヒキガエルを見なかった?ネビルのヒキガエルが逃げたの」
オルガとアルは顔を見合わせ、コンパートメントを見回したが、ヒキガエルは何処にもいない。
「ごめんなさい、心当たりがないわ」
オルガがそう返すと、女の子はオルガの方を見ると同時に、目を見開いてぎょっとした。オルガがそれを不思議に思っていると、女の子はつかつかとオルガに近寄ってきた。
「あ、あなた、これはふくろうじゃあないでしょう!?」
オルガは、女の子が何故そんなに驚いているのか、やっと理解した。
「許可されているペットは、猫かふくろうかヒキガエルかネズミだけのはずよ!」
「え、あの、うん、でも…」
「ホグワーツに着いたらすぐに、先生に言わなきゃ駄目なんだから!分かった!?」
女の子のあまりの剣幕に驚きながら、反射でコクコク頷くと女の子はコンパートメントから出ていった。

「すごい勢いだったね…」
「うん…ねぇ、アル。アルもヒューイを連れていちゃ駄目だと思う?」
オルガはやっぱり駄目なのかと不安になって、アルに尋ねた。
「え?僕はいいと思うよ。同じ猛禽類だし。何か悪さをしたなら追い出されても文句は言えないかもしれないけど」
オルガはそれを聞いて安堵した。
「それに、僕、オルガともヒューイとも友達になりたいんだ。だから追い出されちゃったら困る」
アルが照れたようにそう言って、オルガは心がポカポカと暖かくなった。
「うん、私もアルと友達になりたい」

----------------------------------------------------
少し補足。

「でもヒューイ大きいから、見つかりやすいね」
「うん…あ!そうだ!動物を小さくできる呪文が本に載っていたの!ヒューイ、試していい?」
<オルガの魔法の腕は信用してるから!ばっちこーい!>

「すごい….!本当に小さくなった!オルガは魔法が上手なんだね!」

というご都合展開で、ヒューイは小さくなり、日常的に肩に乗っていても周囲の目が気にならなくなりました。、