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ホグワーツへと出発する日の朝、オルガは屋敷を囲む森を歩いていた。森には様々な動物たちが住んでいる。彼らにお別れを告げるためにやって来たのだ。
オルガは動物と話せることができる。以前は魔法使いは皆動物と話せると思っていたが、アランには動物の声が聞こえていないようで、段々とその事実に気付くこととなった。何はともあれ、森にいる友達に別れの挨拶をしに来たのだ。ホグワーツに行くとなれば、少なくともクリスマス休暇まで戻ってこれないのだから。

<あれ、オルガだ!朝早くにどうしたの?>
鮮やかな羽を持つ鳥が話しかけてきた。他の人にはピチピチ、チュンチュンとしか聞こえないのだろう。
「おはよう。私、今日からホグワーツに行くの。だから、挨拶しにきたんだ」
<えー、そうなの!なんだか寂しくなっちゃうね…>
「でもクリスマスには戻ってくるから、その時にまた喋ろうね」
<うん!もちろんだよ!>

森を歩きまわって、他の動物たちにも挨拶を交わした。そして、最後に会ったのは大鷲だった。オルガは、この大鷲が産まれた頃から知っていて、大鷲は特別オルガに懐いていた。
<オルガだー!おはよー!>
「おはよう、鷲さん。今日も元気そうだね」
<うん、僕元気だよ!今日は朝からオルガに会えて嬉しい!>
こんなに喜んでくれてるところに水を差してしまうな…と申し訳なく思いながらも、オルガは告げる。
「私、今日からホグワーツに行くんだ。だから、その挨拶をしに来たの」
<え?僕もついていくから、挨拶なんかいらないよ!>
…あれ?会話が噛み合ってない気がする。そう思っていると、大鷲は続けて言った。
<オルガはふくろうを飼ってないでしょ?だから、僕がその代わりに付いていこうかなって!>

確かに、オルガはふくろうを飼っていない。でも、ペットの欄に鷲は書かれていなかったし、鷲に手紙の配達を任せるのは迷惑をかけるのでは?と感じた。
それを鷲に告げると、
<鷲もふくろうも同じ猛禽類だから、きっと大丈夫だよ!それに、オルガと離れる方が嫌だもん!>
そう言われてしまえば、断る理由はない。それに、いざとなったら隠れてもらえば問題ないだろう。鷲の言葉を嬉しく思いながら、オルガは「これからもよろしくね」と返した。

<ねぇオルガ!僕に名前つけて!>
「名前?」
<うん!君が呼んだらすぐに飛んでいくよ!>
「うーん、じゃあ、そうだなぁ…
ヒューイはどう?」
<うん!僕ヒューイ!いいね!>

森を出て屋敷に帰ってくると、アランが待っていた。
「あぁ、オルガ帰ってきたね。キングズ・クロス駅に行く前に少し話があるんだ」
「話って?」
「シュタイナーの魔法のこと」

シュタイナー家には代々、結界魔法が伝えられている。しかし、オルガにはまだ多くのことは教えられていない。両親が早くに亡くなったこともあるが、アランが意図的に話していなかったからだ。家にある結界魔法について書かれた本を読むことも、アランは反対した。

「アランに言われた通り、家にある本は勝手に読んでないよ?」
「うん、そうだね。約束を守ってくれて、ありがとう。そんなオルガに渡したいものがあるんだ」
「なあに?」

アランに手渡されたのは1冊の本だった。
「この本って、もしかして…」
「うん、そろそろオルガも知っていくべきだろうと思ってね」
それは、シュタイナー家の結界魔法に関する本だった。

「でも1つ約束してほしいんだ。ホグワーツでは、無闇矢鱈にシュタイナーの結界魔法を使わないこと」
オルガはアランの言葉にしっかりと頷いた。

「もし、分からないことがあったら手紙を書くんだよ。まぁ、いつでも手紙は大歓迎だけどね」
アランはパチっとウインクをしながら、そう言った。オルガは、兄のその様子にすこーしだけ呆れながらも、自分は茶目っ気のあるアランが大好きだと感じた。

「そうだ!手紙で思い出した!ホグワーツにはヒューイも連れて行くね」
「ヒューイ?」
「うん、この大鷲さん」
オルガはいつの間にか肩に乗っていたヒューイを指しながら、事情を説明した。
オルガが動物と話せることを知っていたアランは、これでオルガも寂しくないね、と笑った。

「さぁ、キングズ・クロス駅に行こうか」