はんりょ(我愛羅side)
「風影様も、そろそろご伴侶を考えられてはいかがですかな」
「……」
アカデミーでの視察を終え、帰り際にナマリに言われた言葉に俺は内心絶句した。
伴侶という言葉がわからないほど、俺も幼くはない。
「俺にはまだ必要ない」
「そうは申しますが、忍の結婚平均年齢は年々上がって来ております。これは里の未来の繁栄を決めるゆゆしき問題ですぞ。テマリ様は木の葉の忍と婚約を結ばれております。カンクロウ様も有力な忍。ご結婚もそう難しくはございません。問題は我愛羅様です。ご縁にも寄るでしょうが、風影という重き責任を問う地位におられるうちは自ら積極的に声を上げなければ、巡り来るものではないのです。しかし!風影様を慕う若いくノ一ならいくらでもおります。今からなら余裕で見つかりますから、一度で良いのでご縁談などを考えられてはいかがで……んむっ? 風影様?」
ナマリの長い話を終える前に、俺は気配を消してその場を離れた。それ以上聞いていたら朝になってしまう。
伴侶……か。
俺は園庭で遊ぶアカデミーの子供たちを眺めていた。俺の存在に気づいた彼らたちは、恥ずかしそうに手を振っている。こちらが振り返せば、嬉しそうにはしゃいでいるのが見えた。
里の未来なら、いくらでも考えていられる。
けれど、俺個人としてはどうだろう。
自分の未来について考えることは難しい。
何が幸せで、何が必要なのか。
いつも答えを考えているが、どれが正解なのか、なかなか見えて来ない。
いずれは俺も、大切な人を見つけて、あんな子供を授かり、家庭を……家族を持つようになるのだろうか。
俺はふいと目を逸らして、帰路へと戻る。
伴侶についてはあまり心が動かないが、自分の家族には多少なりとも憧れがある。
血を分けた唯一の肉親。
血の繋がりがなくとも、心の繋がりの深い人間。
「……」
今の自分には、できる気がしない。
換えの聞かない大切なものが出来た時、自分がどうなってしまうだろうか。わからないから、俺は……少しだけ不安だ。
……。
今は、里を守ることだけを考えよう。
俺は顔を上げて歩を進める。
風影室の前まで行くと、扉の前に二人立っているのが見えた。
名前子と、警備で見かけたことのある青年が楽しそうに話している。一言二言、交わして行くうちに、彼女の表情が見たことも無い笑顔に変わっていき俺は面食らった。
……あんな顔もするのか。
名前子とは、二人で話し合う機会が幾度かあった。実績はあるのに、控えめで自信のなさそうな忍だ。
秘書まで上ったのは、『不純な動機』とやらがあったからだそうだが……。
若いくノ一の考えることといえば、恋愛だろうか。俺には到底ピンと来ない話だが。
それでも、誰かを想って数多くの依頼をこなしてきたのだとすれば、それほどに想われる相手は幸せなのだろう。
そしてそんな相手がいること、誰かを心の底から想うことができるということが……。
今の俺には、少し羨ましい。
もしかすれば、目の前にいる警備の男が『そう』なのかもしれない。
そう考えると、心に蜘蛛の巣を張られたような気持ちになって、俺は二人の前をすり抜けていった。