もう少しだけ
 初めて我愛羅に抱きしめられた日の事を覚えている。

「我愛羅……も、もうそろそろ、離してくれる?」

 最初は彼の両腕に包まれて嬉しくて、温かくて、幸せな気持ちになっていた。そして我愛羅も同じ気持ちであることを、言葉を伝えなくとも伝わっているのがわかっていた。

 だけど、時間が経つにつれて段々と気恥ずかしくなってきた私は、我愛羅を見上げて懇願したのだ。

「……嫌だ」
「ええー……も、もう十分抱きしめたでしょ……ん、」

 しかし彼はまだ物足りないようで、私の首元にすり寄るように顔を埋めてくる。彼の息遣いや、唇の感触が直に伝わってきてくすぐったくて、照れくさい。

 私は体をよじるように身をすくめるも、私が逃げることを我愛羅は許してくれない。背中に伸びた片腕は腰の周りにするりと回され、もう片方の手は私の後頭部を撫でるように添えられる。
 次に口づけをされれば、私は彼から逃げられない気がした。

「もう少しだけ」
「……もう」

 そんな彼を、私はくらくらしながらも許してしまう。だけどどこまで許していいのかわからない。
 戸惑いつつも自分も彼の背に腕を伸ばすと、我愛羅がそっと瞳を開いて私をぼんやりと見つめた。

「……ダメだな。名前子を抱きしめていると、自分が自分じゃなくなりそうだ」
「そうなの?」
「ああ、まるで、」
「?」

 「麻薬みたいだ」と彼が言ったので笑って、風影様が麻薬を扱ってたら大問題だねと笑い合った。
 目が合えばお互い困ったようにキスを交わして、「あと五分だけにしておこう」と決めた。

end
あとがき

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