17合言葉※
Red Shoesで程よく酔った帰り。
“友達”を卒業して、やっと晴れて“恋人”にはなった。だが生憎、帰る家が未だに一緒である。
バタンと閉まった玄関の扉。人感センサーの明かりがしばらく灯っていたが、時間が来ると暗闇になってしまう。靴を脱いで振り向き、お構い無しに彼女をぎゅっと抱き締めると困った声色で驚きはしたものの、そっと自分の背中に手を添えてくれていた。
「……さ、サカズキさん」
「すまん。こちとら、えらい辛抱堪らんかったけェ」
これは割と、本気で、言葉の通り辛抱堪らなかった。好いた女との数週間の同棲生活、何度押し倒しそうになったか。素面ではなく、若干酒も入って、情けなくも雰囲気に助けを求めている。
抱きしめ合うだけでも、ベルにとっては奇跡で、自分だけに心を開いてくれており、これ以上を望むは罰当たりな気もするが。
好きだからこそ。もう少し触れ合っていたい。
と思いきや、するりと腕の中から彼女は抜けていってしまう。そして暗闇な廊下の電気を点け、少し微笑んで「お風呂入りましょ?」と促された。
内心がっかりしながらも、まぁ“恋人”になったのだからそう焦る必要もないか、と何とか落ち着かせる。
しかしだ。
お互い交互に風呂に入った後、ソファで寛いでいたベルの方から徐ろに俺に近づいて抱き締めてきたのである。
今度こそこの好機を逃すまいと彼女をがっちりホールドして、視線を絡み合わせる。そしてずっと近づきそうで近づかなかった唇をゆっくりと重ね合わせた。
「ん……」
「……」
ゆっくりと、丁寧に。
ベルを怖がらせないようにする事が一番だ。例えストーカーが逮捕されたとはいえ、心理的なショックやトラウマは一朝一夕で完治するものではない。俺は恐怖の対象になるのは御免だ。
だが。内心では舌も挿れたい。柔らかく、小さいその唇の中を犯してみたい。控えめではあるが、自分の舌を少し強めに彼女の唇に押すと、3回ぐらいして彼女の口に隙ができた。すかさず舌を挿れると、お互いの粘膜同士が重なり微量の快感が背筋を通った。
「ん、んん……っふ」
「っ……」
ゆっくりと彼女をソファに押し倒して、この深いキスを堪能する。舌と舌が絡み、柔らかいその感触が何とも気持ちいい。
あぁ、好きだ。妄想の中で何度口付けを交わした事か。
既にこの愛撫だけで自身が膨らんでいて、ベルの足の付け根に主張してしまっているくらい、興奮している。流石にここまで来てしまってお預けは、そろそろ限界だと感じたので正直に彼女に今の気持ちを伝える事にした。
「のう、ベル」
「…は…い?」
唇をやっと離すと、はぁ、と頬を紅くして荒い呼吸をしている上に、とろんとした視線。滾らせるその恍惚な表情を更に求めたくて、単刀直入に懇願した。
「抱いてもええか?」
男と女である以上、多分これを生涯避けては通れないのだろう。だから彼女と出会った時も、自分の恋心を隠すつもりはなかった。
とはいえ、もしかしたら怖がられて拒まれるのでは?という心配も全くなかった訳ではなく。
「はい……あ、でも。私……」
恥ずかしがりながらも、何処か不安そうに視線を逸らす。肯定しながらも戸惑っている様子もあって、ベルが何とか紡ごうとする言葉をゆっくりと待つ。
そして、か細い声で彼女は答えてくれた。
「う、上手く、出来るか……わかんない……です」
恐らく、経験がないのか。
あったとしても、ストーカーに出会った大学時代より前かもしれん。どちらにせよ、何となく予想は出来ていたから驚きもしなかった。
別に構わない、と伝えて額にキスを落とす。そりゃ欲ばかりを問えば最後までしたいのは山々だが、ベルを怖がらせてまでしたい訳じゃない、ただ。
もっと、ベルに近づきたい。触れたい。
ただそれだけだった。
「本当に怖かったらよ、何か合言葉言うてくれ。絶対止めるけェ」
意思疎通は確実にしたかった。自分も今、素面ではない上に好きな女にようやっと触れて柄にもなく興奮している。正常な判断が出来てない状況で、間違いは犯したくない。
「合言葉……じゃ、“ストップ”……とか?」
「あぁ。できるとこまでで、ええけェ……遠慮せんで言ってくれ」
「……はい」
軽いキスを交わして、ソファから立ち上がる。お互い無言ではあったが、寝室に移動しようとしている事は暗黙の了解であった。
□□□□□
ベッドに二人で入って、もう一度熱い口付けを交わす。今度は口付けだけでなく、パジャマの上から彼女の胸に触れる。最初は戸惑ってはいたものの、ゆるりと揉みしだくと受け入れてくれたようだ。
「ん、んんっ……はっ…」
「……」
「はぁっ……はぁ、サカズキさん……」
結構、揉み応えがある……と邪な心を抑えつつも、パジャマのボタンを上から外そうとすると、そっと自分の手を阻まれる。
「ん」
「怖いか?」
優しく聞くと、ううんと首を横に振る。視線を逸らされるが、たぶん羞恥心と若干の恐怖ですぐには割り切れないのであろう。もだもだとはしているが、心底嫌がってるようには見えない。おずおずと言葉を紡ぐ、ベルの様子にまた胸を掴まれる。
「だ、い…じょぶ……怖くない、です」
言霊を得てパジャマをゆっくり脱がせば、夢で何度も想像したベルの肢体が顕になってときめく。色が白く、ゆたかな胸。そそられる情欲は想像以上で、恥ずかしがる彼女の表情が更に煽る。
「綺麗な肌、しとるの」
「い……っ」
あぁ、かぶりつきたい。
大人気ないが堪らなくなって彼女の首筋に強めに噛みつき、ふくらみを収めるピンクの下着の上からまた双丘を揉みしだく。吸い付くような肌質がクセになって、少しがっついてしまったような気がする。だが、やめられない。罪悪感が残るため、怖がられないかも心配もして、もう一度彼女の耳元で念を押しておいた。
「止めたいなら言うてくれよ……」
優しく優しく、それでも一応前には進む。
一言ベルが“ストップ”と言えば、すぐさま辞められる理性ぐらいはある。だがそうでないなら、此方は遠慮なく進めさせて貰いたい。
彼女の背中に手を回して、きつく縛る華美な下着を取っ払えば控えめに立つ頂。包むように揉んで頂をわざと主張させ、口を近づけようとすると先が読めたのか目を背けて力弱く拒む。
「ひぁ。だめぇっ……」
「本当か?」
舌で触れるか触れないかの距離で遊びつつ、次第に優しく食むと自分の頭を抱える力が強くなり、快感に耐えうる喘ぎが部屋中に響き渡る。味なんてしないはずなのに、何故かベルの一部だと思うとこんなにも美味いと思うのか。少し強めに吸えば。
「ふ、あぁっ……っん!」
「ええ子じゃ」
反対側の頂も舐る。吸い付くたび、びくびくと震える彼女は紅潮して、あまりにも快感が気持ちいいのか息を荒げて少々涙目すらになっていた。
そろそろ、音を上げて“ストップ”と言うかと思えば。
「ん、んんっ!え……っち」
小さな声ではあったがはっきりと煽られる。あぁ、こんなに好いている女が曝け出す乳房に情欲を唆られて何が悪い?むしろ開き直って、ベルにこんなにも欲情してると彼女の太腿に隆起している自身を擦り付けて問う。
「嫌いか?俺が助平だと」
「う、ううん……」
首を横に振ったので、優しくキスを落とす。
しばらく胸の愛撫も堪能したところで、鳩尾や腹にキスを降りさせパジャマのズボンを下ろそうとした時だった。
「うっ!」
「………」
咄嗟にパジャマのズボンを掴んで拒まれる。まぁ本番はこれからと言う所でもあるが、あの男を怖がっていたベルにとってはかなり上出来ではなかろうか。逸る心を隠しは出来んが(下半身も)、そろそろお開きにしようかと口にすると。
彼女は強情にも止めたくないと言う。
「ベル、無理はせんでも」
「嫌です。まっ、まだ、合言葉言ってませんもん……!」
「……」
必死に止めるなと言うてくれる事は大変有り難いが、ベルに自分の気持ちを押し殺してまで受け入れて欲しいとは思わなんだ。止めるんだったら早い方が此方も有り難いが、さて、どうしたものか。
取り敢えずは自分も服を脱ぐかとYシャツを脱ぎ上半身裸になったところで、ベルからおずおずと提案される。
「あ、あの。私からサカズキさんに触ってもいいですか?」
「おん……?」
まさか彼女から触ってくれるとは。意外と積極的に動いてくれる事に感謝しつつ、出来そうか?と聞けば自信はなさそうだが、それでもしたいという意思は伝わった。
「……私からなら、ちょっと怖くないかも」
「なるほど」
確かに。彼女から触れてくれれば加減もできるし、何処そこを触られる恐怖感も抑えられるだろう。ゆっくりで構わないから、自分なりのペースで俺を好きにすりゃいい。
ただ、されてばかりじゃ焦れったくもあるが、まぁそこは致し方あるまい。
此方もスーツを脱いで下半身も下着だけになると、ベルから仰向けで押し倒されて腰に乗られた。既に怒張しているそこに跨がられ、少し頬を染めて怯んだ彼女の反応が可愛らしく、また唆る。下から眺める少し揺れる乳房は眼福ものだ。
「サカズキさん……すごく、いい体してますよね……」
ちゅ、とこの間の頬にキスされた時と同じく、擽ったくなるような軽いキスが降ってくる。俺の上半身の事を言ってるんだろうが、ベルもなかなかだ、と伝えるのはやめにした。
ちゅ、ちゅと啄むように顔から首、胸にかけてキスをしてくれると、またおずおずと自分の右手を取られて胸に宛てられる。
「……むね、触って……?」
「こうか?」
恥ずかしそうに伝えるのが何ともまぁ。
ご希望通り片方の柔らかな胸の形を変え、蕾を摘むと甘い声。
「ふぁっ、あぁん……ん、ん」
えろい。
下から見上げる胸の質量だったり、ベルの悩ましい表情だったり。
片方触るともう片方も触りたくなるのは性なのか。自然と左手を彼女の片方の胸にやり、願望を伝えてみた。
「かたっぽも触りてェ……な」
「はぅ……うん、どうぞ」
「キス」
ーーーしまった。
ベルに主導権を渡して大人しくするつもりが、つい。だが彼女は俺の指示通り、片方の胸も差し出し、深いキスを受け入れる。
しかもこのキスがとても熱くてやめられない。そして、もぞもぞとベルの腰が揺らめいて、自分の盛り上がった股間に擦り付けているのを見落としはしなかった。きっと、ベルも俺もこの擦り付けは気持ち良い。
「んぁっ、んんっ……」
隙を見てズボンの隙間から手を伸ばし、中指でベルのパンツの上から芯をなぞった。今までで一番甲高い声を出したので、刺激が強かったのであろう。
「ぅあっ、ん!もっ……!」
少し湿っていた事が嬉しく、強弱をつけて擦り付けを往復すると次第に彼女は力無く俺の胸に倒れてきてしまった。倒れてきてしまったお陰で自分が手を動かせなくなり、片方の手だけで彼女の背中に回し、つい溢れる。
「愛い……」
「凄い。変な感じ」
一息吐くベルが恥ずかしさ半分、不思議そうな感想を半分を溢す。他人に与えられる快感、それも彼女がずっと怖がっていたはずの“男”に与えられる経験を俺がさせていると思うと、言い様のない征服欲に掻き立てられる。
晴れて“恋人”になったのだから当然かもしれないが。
「下、脱がせるぞ」
「ふ……う、ん」
もはやベルから触れてもらう作戦は何処へ行ったやら。
段々と俺は欲求に素直に溺れていく。彼女が合言葉を頑なに伝えないのをいい事に、雰囲気に任せ彼女の感じる表情や言葉を“怖がっていない証拠”だと都合のいいように解釈しながら。
好きな気持ちを押し付けて、性欲も相まって、早く、早く、早く。裸になったベルと一つになりたい。そんな気持ちばっかりで。
「う」
「怖いか?」
パンツを下ろさせ生まれたままの姿にするとベルはまた不安そうな顔をしている。はた、と初心に戻って念の為にも続行するかどうかを彼女に委ねるも。
一生懸命、彼女は言うのだ。大丈夫、俺なら怖くないと。
「だ、大丈夫ですから!さ、サカズキさんなら……怖くないからっ」
「……わぁった」
ーーーほら。
きっと、大丈夫だ。ベルも自分を欲している。健気な彼女は拒みはしない。
若干震える彼女を再度抱き締めつつ、態勢を変えて茂みをやんわりと触る。掻き分けて中心をなぞるも固く閉じられてる割れ目。
「ん」
「……(あんまり、か)」
緊張感もあるのだろう。下着の上からなぞった時は少し濡れてはいたが、脱がすとそこまで。中に指を一本挿れようとするものの、痛がる声に変わってなかなか挿れるも難しい。第一、身体の強張り様が強い上に、濡れないのも相まって。
こうなれば。
「舐めてェ」
「えっ……あっ!」
問答無用に左右に足を拡げさせて、ベルの痴態を目の前に顕にした。咄嗟に恥部を隠そうとする手が伸びてきたが、払いのける。じっくりと見つめると、少しだけひくつかせてるそこに息を吹きかける。
上部にある蕾を舌でなぞると、びくりと彼女の身体が震えた。
「は……ぅ……!あぁ!」
「止めんぞ」
まだ頑なに“ストップ”とは言わないのか。なかなか強情だと思いきや、今更“ストップ”と言われても止められる自信は……正直ない。
「だ、めっ……頭、おかしくっ……!」
「なったらええ」
もう俺は既におかしくなっている。好いた女の羞恥な部分を舐って、はち切れんばかりの雄を持て余す。早く繋がってみたい気持ちが焦り、彼女のNOを聞いて聞かぬふりをする。
一方の彼女も、羞恥心と快感の波に襲われ恍惚とした表情を惜しげもなく晒し。
段々と濡れ始めたそこに気をよくした俺は、ベルの反応を愉しむ間もなく舌の動きを速めて先を急いでしまう。
「いぁっ!だめぇっ!あっ、あっ……!」
あぁ、可愛い。
軽くイッた彼女は少し放心していた。その間に、左右に股を拡げさせ避妊具を装着して、彼女の入り口にモノを宛てがう。どうしてもぐぐっと両足を閉じようとするので抑えつけるものの。
「サカズキ、さん………こ、こわ……い」
「できるだけ力入れん事っちゃ」
強張る身体からなかなか力が出ていかない。彼女の頬を撫で深いキスをしてみる。
「うっ……くぅっ……!」
それでも力の入れ具合が尋常ではない。俺の話はちゃんと聞いているのだろうが、彼女は身体に言う事を聞かせてくれない。焦る気持ちを今一度抑えて、忠告する。
「力を入れるな。よう息をせえ、余計に痛むぞ」
「ふぅっ……はっ、ふぅ……」
少し大袈裟に息遣いをする彼女。若干加減が緩んだが、局部をベルの奥に進めようとすると、やはり亀のように身体が頑なまま。
「っ、硬い、の……」
分かりきってはいたが、奥に進もうとしても押し返される。自身の先端がやっと入ったような気がしても、そこから先へが中々進まない。硬さも維持したまま、少し強引に先に進むかと思った時だった。
下からの悲痛な声に時は止まった。
「い"っ!い"だっ……!む、り……!」
「!…」
酔いが醒めたように、目を見開いた。
何をしてるんだ俺は。とハッとしても時既に遅く。
ずっとベルを見ていたはずというのに、今日初めて彼女が心底辛そうにしている顔にやっと気づくとは。単に膣を拡げられる痛さで歪められた表情ではない。何処か怯えて、でも言いにくそうな目をしている。
冷水をぶっかけられたの如く、のぼせ上がった頭を停止させる。
「ここまでじゃ」
「え……」
「ええから。俺は無理矢理しとうはない、合言葉が合言葉でなくなっちょるぞ」
「!……」
既に限界なんだろうと暗に伝えれば、図星だったのかホッとしたのか、彼女の両目から大粒の涙が溢れる。いかん、やっぱり無理をさせてしまっていた。
どんなにベルと肌を触れ合うのが嬉しがっていたからって、何度か快楽に負けて彼女の気持ちを見て見ぬふりしていた事に罪悪感が募る。
「ご、ごめん……なさいぃ……!」
「いや、謝るんは此方の方じゃ。すまんかった……」
素直に頭を下げる。すると、彼女も頭を下げながら泣き続けるので余計に罪悪感は重く伸し掛かった。
「いや。私がっ……合言葉、言わない……からっ!うわあぁん!」
それは違う。
彼女は心底俺を受け入れようと頑張ってくれていた。俺はその健気さと優しさに甘えていただけなのだ。
「泣くな。もう十分じゃ、何も急いで今日せないかん訳でもなかろう?」
嗚咽を漏らしながら泣き出す彼女を抱き締め、一緒に布団に入った。
お互い至らぬ点を謝り合ったものの。
最後まで出来なかった事より、ここまでベルが俺を一心に受け入れてくれた事だけは素直に喜びたいと思う。そう彼女にも伝えるが、どうにも情けなく申し訳ないという気持ちをつらつらと述べられて、気にするなと一言慰める。
それにだ。
こうやって好きな女と裸のまま一緒に抱き合って寝入る幸せは、身体を交えるよりも代え難いもの。泣き続ける彼女にキスを落とし、ただその温かいぬくもりを抱き締めつついつの間にか俺達は眠ってしまっていた。
合言葉。
(もっと俺が気遣ってやればよかった)
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