Love me@※
職場の飲み会の帰りに偶然帰る方向が同じだった。会の一番最後に参加したこのサカズキ君は、外れくじで華金の仕事の事後処理を任されたらしく出席が遅くなったという。大して食べるのも飲むのも満足に出来なかっただろうに。まぁ後輩が通る道でもあるかと思い、駅までの道のりを歩きながらぼんやりと見つめていた時。
不意に名前を背後から呼ばれたので振り返ると、何と言われただろう。驚きが勝ってしまったのではっきりとは憶えてはいないが、いわゆる男女としての交際を申し込まれていた。
「お断りします」
「……」
酔いはそこまで回っていない。
別にパートナーがいる訳でもなく、かと言ってパートナーが欲しい訳でもない。ただ、男女の付き合いとなると必ずその先があって、私は“その先”の存在に疲れ果てていた頃だった。
きっぱりと交際は断ったのだが、彼はどうも納得いかない様子である。
「理由を聞いてもええですか?」
「私、歳下はタイプじゃないの。それに」
とはいえ、確かサカズキ君とはせいぜい2歳差ぐらい。仕事柄実力主義な職場なので、彼とは同じ階級だし何なら彼の方が優秀とまである。私に敬語を遣ってくれているのはあくまで先輩としてだろう。いや、まぁそれはいい。
歳の差というよりは、先程も思考を巡らせていた“その先”の問題。素面だと伝えるのはどうも恥ずかしかったが、今は二人だけしかいないし少し酔いもある。正直に交際は出来ない理由を言葉で伝える事にした。
「セックスが苦手。アレが入んないし、全く濡れない、もう苦痛でしかない。……どう?君も女性と付き合う上ではそれじゃ困るでしょ?」
内容が内容だけに、恥ずかしさを隠す為に悪戯っぽく上目遣いで視線を送るも、私の意とは反して真剣な眼差しは変わらず、彼は堂々と答える。
「構いませんが」
うーん、いやぁ、と濁される訳でもなく即答されたので少し怯む。え?迷いもしないで性行為が難航してしまう相手でも構わないと?
予想だにしなかった反応の為に頭の中は混乱状態。あれ、どうしよう。嘘でも彼氏がいるからと言って断った方が良かったのか。
暫く反応に困っていると、先程とは打って変わり、彼はぽりぽりと頬を掻きつつ言いにくそうに言葉を溢した。
「歳は変えられんけェあれですが、身体の付き合いは無理強いはせんです。一緒にいてくれりゃ、それで」
素朴な解答に少しきゅんとする。あぁ、これがきっと若さなのね、とおばさんの擦れた心を癒された気がする。たかだか2歳差、されど2歳差。恋愛に対して若干ピュアな面が垣間見えてなぜかほっと安心。
付き合い始めれば現実的に渇く欲に耐えられなくなって相手が浮気する未来が見える私には、サカズキ君はとかく勿体ない男なのだろう。
「はぁ……最初はね、皆そう言うのよ。サカズキ君」
そう言って時が経てばヤレる女に靡くのが男なのよ、と伝えると「男の何を知っとるんですか」ときっぱり言い返される。珍しく彼は不機嫌ながら、その発言には不服だと返されたがそんな反応も可愛いく見える。
うん、そう。
今夜の告白は気の所為か気の迷いだったと自覚してくれればそれで御の字。上手く先輩として、今日の出来事を忘れるよう彼を丸め込めれば良かったものの。
□□□□□
ーーーしかしまぁ、どうして一緒に家に帰って来たんだろう。むしろ私が丸め込まれた。恐ろしいよ、この子。
結局、交際には発展しなかったはずなのに私は自分のベッドで押し倒されている。勿論サカズキ君に。
硬派な彼にしては展開が早い気がする。というか、既に交際を断られているのに押しに押しまくるその肉食度には正直驚いた。いや、草食男子とは程遠そうな処にいる顔はしているけども。
「積極的だね、意外と」
「付き合うんが怖いんなら俺を練習台にでも使うてつかあさい。最後まではしませんけェ」
「君に何もメリットなくない?」
お付き合いもダメ、エッチも最後まではダメ。そんな女と一緒にいたいとは、何とも風変わりな男だ。
どういった話の流れで一緒に家に帰ってきたのか最早思い出す間もなく、彼はスーツのジャケットやネクタイ、Yシャツに手をかけ近くに放っていく。その様が妙に格好良くて、正直見惚れていた。
この子、古風なんだけど顔は男前なんだよなぁ。
以前他の部署の子がカッコイイと噂してたのを聞いた事があって、確かになるほど。密かに女子にモテるタイプなんだろうなぁと思う。
「いいカラダしてるね」
「……」
「あっ」
褒め言葉を贈ったが、当の本人は気にする様子もなく。間髪入れずにキスをされて押し黙る。早速舌を入れて来るかと思いきやそうでもなく、既に乱れていた服を器用に脱がされ少し性急に下着まで取り上げられてしまう。
裸になった上半身、せめて胸の頂を隠す為に腕を組むもそれすら許してくれず手を抑えつけられる。内心うわぁ、野獣だ……と感心していると軽いキスが終わってしまった。
「舌、触れても?」
「…あ、うん。だいじょぶ…」
本当はディープキスもあまり好きじゃない。ベロベロと唾液同士が混ざり合うのも不快だし、自分の息が臭くないかとか、余計な心配をしてしまって集中できないのだが。
きっと野獣のようなキスされるのかと思ったのだが、案外舌の絡め具合もあっさりとしたもので。ちろ、と申し訳程度に舌を出せば絡められるも口内奥まで無理に侵食して来なかった。
「ふふ。気遣ってくれてるんだね、優しい」
「ほうですか……」
たぶん、本当ならもっと蕩けそうなキスをしてきそうな感じするけど敢えてしなかったのだろうか?否定も肯定もしない所がサカズキ君らしい。
場数慣れしてるような軟派な男ではないのは見ての通りだが、どうしてか自信満々に見えるのが憎い。
あまり感じないカラダだと最初から伝えてあるので目一杯体中に愛撫の嵐でもされるのかと思いきや、彼は案外あっさりしていた。唇だけで首筋を辿ると、その大きな掌で胸の膨らみをやんわりと揉まれる。
唯一胸だけは、感じる部位。ただ、それが下への濡れやすさにはなかなか直結しないものだった。
「んっ……んん」
「痛うないですか」
「う……っん、はぁっ」
揉みつつ、先端を人差し指で少し捏ねられたり掠ったり。あんまり力を入れて触られないので助かる。素直に気持ち良くて、自然と喘ぎが漏れて快感に浸ってしまう。耳元で彼の呼吸する息遣いも相まって、興奮が高まっていた処だった。
「あぅっ!……だ、だめっ」
いきなりきゅ、と両方の頂を摘まれてしまって身を固くする。快感が下腹部にダイレクトに伝わった気はするが、どうだろう?今の。もぞ、と無意識に太腿を擦り寄せると、片方の彼の手がゆるりと太腿を撫でてきて……。
そろそろとサカズキ君の指がパンツの上から割れ目をなぞる。残念だが、それだけでどうしようもなく申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
だって、だいたい答えが分かってしまうから。
「ね?全然濡れないでしょ?私……」
「……」
見事濡れていないこの状態を見て幻滅すればいい。
たいてい、下着が少しでも濡れれば御の字らしいが生憎私の身体は砂漠のまま。キスも胸の愛撫も無駄でしたと言うようなこんなカラダ、誰が愛してくれるのだろう。
自虐的に伝える私をじっと見て、彼は何も言わない。ええ、そうですねとか、そんな事ないですよとか一切声かけもない。そして、1秒、2秒と時が経っても沈黙は続く。
何よ、何なの。何か言ってよと言いたくなる。
段々と自分が恥ずかしくなってきて身を縮ませて固くなると、再びぴんっと胸の頂を摘まれた。
「ふっ……んぅ!」
そしてまた、キスを交わす。最初にした時よりも彼は遠慮はせず、それこそ野獣のような深いキスをされて何だか思考停止してしまう。言葉を紡いではくれないものの、彼なりの慰めがこれであるのだろうか。
「う、んッ……」
もう、胸だけは弱いんだってば。
固く尖った乳首に触れられながら、私より大きな体に包まれる幸福感に浸る。好意を持っていると言われて、物好きな子だと思いながらも私はサカズキ君の風変わりな性格に助けられてるのだった。
胸の愛撫を一頻り終わった後、今度はパンツの中に手を入れられ茂みを掻き分けられる。相変わらず濡れた瑞々しい音がしないまま、陰核に触れられたり腟口を探られたりして身構える。
そのうち、異物感がしてサカズキ君にストップをかけた。
「あ。指は中に挿れないで」
「?…苦手ですか」
指を拒む時点で前の彼氏には随分不快な顔をされた。だって腟内の良い所も攻められないし、指を拒むのなら必然的に舌か性器を直接挿れるしかなく、楽しみも半減するのだろう。
「うん。痛くてイヤ」
だが自分でも挿れた事のない場所をぐりぐりと穿られるのは不快感と恐怖感でいっぱいで、いくらきちんと清潔に切っていても男性の指は太くて痛いもんは痛い。
サカズキ君にはもう、包み隠さずに伝えていた。付き合ってる訳でもないし、練習台に使えと言うなら隠す必要もない。苦手な事ははっきりとしといた方が、彼も諦め易くなるのでは?とも思うし、あれは嫌、これは嫌という私の我儘さにも早めに呆れてくれた方が助かるのである。
指も挿れてくれるなと言われた彼は、当然選択肢が減ってしまった為に最終的にはぐっと私の両太腿を左右に拡げた。あぁ、またこの格好を男の前でするのちょっとしんどい……。
「……ねぇ、あんまり。……見ないでよ」
女の身体の全て、と言ってもいい。
大股開いて男に見せるこんな格好。つくづく私はセックスに向かない人間かもしれない。羞恥心は勿論のこと、屈辱感というか背徳感というか。何度したってこの行為は慣れないものだ。
左右に開かれたのは太腿だけでなく、更には秘肉まで指で拡げられる。つまり、男根を受け入れるその穴までご丁寧に拡げられて見つめられるのである。何か弄られるのであればまだマシだが、ただじぃっと見つめられるだけ。何秒経った頃か、彼の熱い視線がもはや私にとっては限界が近かった。
「ねぇっ、サカズキ君……!」
もういや!待って、耐えられない……。
恥ずかしさで涙が出そう。足を少しバタつかせたのに気づいた故か、其処に向いていた視線がやっと私に向けられた。
「ベルさん」
「な、なにっ……?」
「一人ではするんか?」
「!?……いっ」
一気に背筋から頭のてっぺんに熱が走る。
予想外の質問にまともに彼の顔が見れない。本人は至って真面目に聞いてきたからこそ余計に。
別に私は性欲が全くない訳ではない。むしろ不感症でなければ決まったパートナーと定期的にしたいというくらいは性欲はある。しかし生憎、現在はそんな相手はいない。
つまり彼の仰る通りパートナーとも玄人ともしないのであれば、欲を発散させるには一人で慰めるしか方法はない訳で。
……ええい、もうヤケクソだ。
「そりゃ、一人でするのが一番楽じゃん!」
君だってそうでしょ!?と問いたい。根拠?そんなもの分からない。ただ、一人でするよりも気持ち良いセックスをした事ないからか、それが至高と決めつけるくらい許して欲しい。
一人で焦る私と、一人冷静な顔で此方を見つめてくる彼。返ってきた答えは下世話な話でも何でもなく至って普通に、解決策を提案してきただけ。
「あんまりし過ぎるのも不感症の原因ですけェ。俺がいいと言うまで暫くはせんでおくんない」
「〜〜っ……!」
何故そんな事知っているのか。
いや、男性だってあまり自慰に耽すぎるとイけなくなってしまうと聞いた事はあるけど……!その類のアドバイスなのか何なのか。私だって不感症の原因改善くらい既に調べた事ぐらいあるし、自慰のし過ぎはよくない事ぐらい分かってる。
ただ。
パートナーが欲しいと思えなかったし、そもそもセックスが苦手だった。誰かとするのがこんなにも億劫でなければ自慰に必要以上に耽る事もないのに。
どうせ感じないし濡れないもん、と拗ねて砂漠の股を閉じようとした。が、また阻まれる。太腿の付け根を抑えられて彼の目の前で恥部を拡げられるこの羞恥プレイは、いつになったら終わってくれるのか。
「……ね、何もしないの?」
いてもたっても居られなくてついに尋ねる。しかし、私のその質問にただ鼻で嗤う彼がその日一番印象的だったかもしれない。少し間をおいて、薄目で見つめられたのが、妙に色っぽく映ったのは気の所為か。
「?……何かして欲しいんですかィ?あんた、行為は苦痛でしかないんじゃろ?」
「っ………」
何これ、拷問?
確かに告白を断った時に行為が苦痛でしかないと言った憶えはあるけど。全く触りません、見てるだけです、はあんまりだと思う。そりゃ、あれは触ってはダメ、これはダメと色々と注文をつけた私の自業自得と言えばそうだが。
触って欲しい時に触られないと言うのは、何とも辛いものだと思い知らされる。
「ん……っ」
ーーーあぁ、ダメ。
やっぱりちょっと、何でもいいから触って欲しい。アソコに刺激が欲しい。指でも舌でもいいから、快感が欲しくて苦しく、首を横に倒して目を逸らす。私からは見えないが、アソコがひくひくと物欲しそうにしている気がする。それすら彼は、私に伝えてくれもしない。
そう言えば、サカズキ君はこの状況で全く興奮しないのだろうか。
一瞬だけ脳裏を過った疑問に従い、再び彼の身体に視線を移した時だった。徐ろに散らばった自分の服を取って、その鍛えられた身体に身に付け始めているのである。
「え?……やめるの?」
「ええ。また来る時連絡します、ほいじゃあ」
まさかこんな所で帰るのか?と信じられない気持ちでいっぱいだったが、私達は恋人同士でも何でもない。家に引き留める義理もないと言われれば確かにそうである。
彼は最後まで致さない約束をきちんと守り、途中までであったが私の不感症改善の練習台として付き合ってくれた事には……変わりないのだが。
「あ、うん……」
呆気なく終わるその行為に物足りなさを思い知らされる。せっかく身体が火照ってき出したというところで、この渾身のお預け。
相変わらず彼処は濡れてはいないが、穴が空く程見つめられた秘部が熱く、じんじんとする。股をする寄せつつ、自分の手でようやっと其処を触った所で待ち侘びた快感が押し寄せたがどうも物足りないのだ。
丁寧にバタンと玄関のドアが閉まった。サカズキ君の残り香だけが寝室に残る。
「(……また、シたいな)」
恋人でもなく、かといってセフレでもないこの関係を一体何と表現(あらわ)すのだろう。
Love me。
(俺を/私を愛して)
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