献盃


�G捕獲





「何か、無理を言って時間を作って貰ったかな?」

「い、いえ!別にそんな事、全く思ってませんよ!」

早速だが次の休日。
タマムシシティのカフェで待ち合わせをした。彼の服装はラフなもの。当の私は、友人の結婚式の準備の為に少し髪だけ髪をアップして、普段は決して履かないロングスカートを履いてみた。待ち合わせで会った途端、冒頭の事を尋ねられるのだが、決してそんな事はないと首を横に振ると。

「別に俺は、君が無理に会わなくても長老様に告げ口したりしないよ?」

「いや、本当にそんなんじゃないですから…!」

確かに長老様に報告はされたくはない事情もあるにはあるけれども……!
困っている博物館の職員達を救う為でも勿論あるが、私は私で貴方の誘いに乗りたかった気持ちもある訳だし。そう言おうとしたら、思いっきり満面の笑みで代弁してくれた。

「じゃあ、君も俺に会いたかったって事でいいのかな」

「は、はい、それで大丈夫です!」

「とにかくコイキングみたいに跳ねてりゃいいかなって?」

何故ワタルさんが知らないはずのコイキングネタをふられるのかとぎょっとしていると、今度はくくっと小さく笑いながら可笑しそうに肩を震わせてる。この人、私と同僚達とのあの話筒抜けだったんだ。
そうすると余計に恥ずかしさや居たたまれなさが邪魔して、真正面から彼の顔を見れなくなった。

「全部聞こえてたんですね、友人との話……」

「あはは。君のご友人、なかなか面白い人だったね。意地悪して悪かったよ」

いえ、此方こそ不躾な話しててすみません。
と謝る。端から聞いてて良い気持ちはしなかっただろう。現金な同僚達の思惑は全部筒抜けだったのだから、そりゃ私が嫌々このデートに来てるのではと根掘り葉掘り聞いてくるわけだ。

「ところで、どうして君がコイキングって言われてるの?」

馬鹿正直に貴方に釣られやすいからですよとは言えず、何となくで濁して答える。

「…さぁ。私がコイキングに似てるからでは?」

「?……そうかな?」

私の顔をまじまじと見てどこか釈然としないようなワタルさんだったが敢えてそこはスルーした。
カフェではお互い軽く珈琲を飲んで、今日はお目当ての処へ向かう。そこはカフェから5分もしない処。

「君は確か、タマムシデパートに行きたいって言ってたね?」

「ええ。その友人が1週間後に結婚式挙げるんで。フォーマルドレスをレンタルしたくて」

「1週間後って……あぁ、そうか」

いや、その反応はご尤もなんです。え、1週間後に結婚式あるのにまだドレスも用意してなかったのか?と準備不足を指摘されそうになったけれども、私の諸々の事情を察してくれた彼は勝手に納得してくれて助かった。

「お察しの通りです。私がロケット団に拉致られたのが3ヶ月半前ですから、用意する暇もなく」

「なるほど!楽しみだなぁ。確か白は控えないといけないんだっけ」

よくご存知で。
結婚式、実は私は人生初めての出席だ。フォーマルドレスの色だの、ご祝儀の包み方だの、色々調べてはいる。デート中にする事ではないと思うけど、何せ今日の休日を逃したら次の休日が結婚式なので、どうしても今日選ばせて貰おうと彼には前もって伝えておいた。
一人でぱっぱと選んでしまおうとも思ったが、彼はどうも一緒に行動したいのか、デパートのレディースフロアまでついてくる。

「私は試着で時間がかかりますし、その間他のフロア見てて大丈夫ですよ?」

「やだよ。綺麗なドレス着た君を見れるんだろう?それも俺が一番に」

まるで当たり前の事だと言うように彼は伝えてくれる。
何だかプテラの洞窟以降、堰を切ったかのように好意の嵐をぶつけてくる気がする。しかし残念ながら恋愛経験が乏しすぎる私は顔が紅くなってばっかりで、可愛く嬉しいの一言も言えずもどもどと口を濁すしかなくて。はぁ、恋愛経験値の差が凄い。

「いや……それは、その」

「似合うだろうなぁ。だから今日は髪もアップにしてるんだ?」

「えと……まぁ、はい」

この人は言ってて恥ずかしくないんだろうか!?
結局此方は何も言えぬまま、その灰色の瞳に細められて微笑ましく見られていた。



□□□□□



「ご友人のお色直しは知ってるのかい?」

「黄色とベージュって言ってました」

「ほう。じゃあ、被らないようにしたほうがいいね」

そう言えば、新婦のお色直しにも被らないようにするのがマナーだとか。つまり、白、黄色、ベージュを控えて他の色の服を物色してみる。流石タマムシデパート、種類が豊富な上にお洒落なドレスばかりで圧倒されてしまう。なるべく時間をかけないように、ぱっぱっとお目当てを二〜三着持って店員さんに一声かけた。
試着する時、できるだけ急いでワタルさんを待たせないように気を遣ってしまう。うう、だから別のフロアで時間潰しててって言ったのに。
おずおずと試着したものを見せてみる。

「ど、どうですかね」

「グリーンか!いいね、爽やかな感じが合ってる」

「ありがとうございます。あぁ、でも最初着たブルーも捨てがたいなぁ……うーん」

落ち着いた色としてはグリーンもブルーも差し障りもなく、デザインもフラワー刺繍がそれとなくあって私の好みのものであった。最終的にはこのどちらかにするかな、と迷っていると。

「これとかどうかな?」

何処からか引っ張ってきたのか、暗めの赤色のドレスを目の前に持って来られる。流石、何だか私よりセンスのいいドレスをチョイスするところが育ちの良さを感じる。当の本人は全く自覚はないだろうけど。

「ワインレッドって言うのかな?赤と言っても案外落ち着いているだろ?少し華やかさがあっていいじゃないか」

「ええ、確かに。じゃあ試着してみますね」

試着室に再び入ってグリーンの服を脱ぎ、ワタルさんが選んでくれたワインレッドを身につける。ふと鏡の前の自分を見ると、別にただそれだけの事なのに、突然かぁっと恥ずかしくなってきたのは何故だろう。そう言えば男の人が女性に洋服を贈る意味を長年付き合いのある友人から聞いた事があって思い出してきた。

いや、このフォーマルドレスは私がレンタルする訳だし!

関係ない、関係ないと脳内に言い聞かせながらいそいそと試着室から覗くと、私に気づいた彼は少し瞳を大きく開いた後、終始嬉しそうな顔して満足気に褒めてくれたのである。

「!…可愛いな。うん、凄く可愛い。綺麗だ」

「そ、そうですか?(なんか……)」

他の色とはあからさまに反応が違う。彼にとっては刺さった色らしく、何度もまじまじと見られては、可愛いだの綺麗だのと連呼されてしまう。どストレートにそこまで言われてしまったら、このドレスにしようかなと傾いてしまって。
あぁもう、私はこの人に振り回されっぱなしだ。ちょっと悔しくて、変な方向に拗ねてみる。

「そんなに褒めたって何にも出てきませんよ。私、跳ねるしか出来ないんですから」

ちょうどコイキング色に近いドレスを着てるのだ。ちょっとふざけてぱくぱくと口を動かすマネをしてみる。

「?……じゃあ、跳ねてみてくれ」

「え?…あー、……こんな感じですかね?」

まさか本当に跳ねてみてくれと言われるとは思わず、目が点になってしまう。が、ワタルさんは大真面目な顔して言うものだから、何だかその圧に敗けて小さくだがコイキングのようにジャンプすると。
口元を手で押さえて、笑いを堪える彼。

「っ…くく!」

「馬鹿にしてます?」

「いやいや!素直に聞くから、可愛くてつい……!」

余程可笑しかったらしく、初めて顔が綻んで笑った彼の姿を見たかもしれない。眉を下げて心底に楽しそうにしてる彼を見て、内心どきどきとしてる自分がいるのを隠せなかった。


□□□□□


「今日は本当にありがとうございます。ドレスまで一緒に選んで貰ってしまって」

「いや、此方こそ。俺の我儘に付き合って貰って悪かったね」

デパートの屋上で、少し喉が渇いたので最近開店したらしいタピオカ屋さんに目を向けると、私の思惑に気づいたのか彼に奢って貰ってしまった。近くのベンチに座り、今日のお礼を言うとワタルさんからも労いの言葉をかけられる。

不意に会話が途切れてしまい、何か話題がないかと周りをキョロキョロ。子どもが自販機近くでソーダを飲んでたり、女性がポケギアで連絡を取っていたり。
あ、そう言えばカイリューは?流石にデートにカイリューはお供してはいなかったが、ここなら屋上だし、是非カイリューと触れ合わせて欲しいですと頼もうとした時だった。

視線の先には私を見据えて真剣な顔をしたワタルさんがいた。

「プテラの洞窟で、言いそびれた事を言ってもいいかい?」

「え……!」

あ、えっと。
心の準備が。なんて言える訳もなく。どっどっと血液が速く流れるのを感じたのも束の間。


「君に一目惚れしたんだ。好きだ、付き合って欲しい」

「……ワタルさん」

真っ直ぐな瞳で、堂々と口にしてくれたその言葉が嬉しくて、幸せすぎて天にも昇りそうだった。何となく以前から好意を示されていたとはいえ、こうして面と向かって改めて言われると、またずしりと心に重く想いが溢れる。
な、何というか。素直に私も好きです!って答えるのが急に小っ恥ずかしくなって。捻くれた答えになってしまう。ごめんなさい、許してほしい。

「わ、私でいいんですか?コイキングですよ?」

「?……俺はコイキング大好きだけど」

本人には何も問題ないよ?とさらっと流されてしまって。
違う。たぶん、全然意味が違うので急いで弁明する。

「そうじゃなくて!えっと、あの……跳ねるしかできない、すぐ人に釣られやすい、世界一情けない女だけどいいんですか?って聞いてるんですが」


何か、自分で言ってて哀しくなってきた。そもそも友人が私をコイキングって評してるのは釣られやすい部分のみでは?とも思ったけど、研究一筋の私が女性として経験値高いかと問われればそうでもなくて。彼にはもっと相応しい、バトルが強いトレーナーとか、ドラゴン使いにも詳しい人とか、探さなくても言い寄ってくる女性とかいっぱいいるだろうになって。

それでも、ワタルさんは真剣に、1ミリ足りとも笑わず答えてくれた。

「うん。君がいいと思ったんだよ、他でもなく」

「っ……」

「それに、自分のこと卑下してコイキングだと喩えるけれど、どうしてそう思うんだ?」

「だって。初めて出会った時だって、コイキング並みに釣られやすいって思ったはずです!……まんまと私は悪のボスに絆されてましたし」

無謀にも敵のボスに絆されて、「サカキ様」なんて恋してた黒歴史を見られている身としては、流石に凛々しいギャラドスと称するには無理がある。言いにくい話ではあったけどワタルさんにぶっちゃけると、彼も思い出したのか、目があまり笑ってなかった。

「あぁ、あれは見てて気持ちがいいものではなかったね」

一瞬だけ。
すーっと彼に纏わりつく雰囲気が冷たくなった気がしたものの。でもまた、元に戻ったようで。

「何にせよ、俺はリトがいいんだ。だからその、返事を聞かせて欲しいのだけれど」

こんな私でもいいと言ってくれて、ここまで言われちゃったら私も何も言えなくなってしまい、観念して思いきって頭を下げた。

「よ、よろしくお願いします」

「あぁ、嬉しいよ!よろしくな……で」

ずい、と座ってたベンチで、更に近くに寄られてびっくりする。ここまで近くまで近づいたのは、所長の件で抱き締められて以来だった。いったい何事かと思いきや。

「君は俺の事、どう思ってるんだ?」

「え?……そりゃお付き合いしたいなって」

思っていますが……。と答えようとしたけれども、ワタルさんはじっと見つめてきたまま動かない。その代わり、灰色の瞳孔が少し広がって刺すような視線が痛く、バトルだったら逃げるを選択しても逃げられない!と表示されそう。
つまり、彼にとってはお望みの答えではないらしく。
言うまで帰さないぞ、とでも言うような無言のプレッシャーを浴びてしまって、何となく彼が欲している言葉が分かってしまう。多分、そういうことだよね?

「お、お付き合いしたいって思うほど、私は……ワタルさんの事、好きです」

「良かった。俺だけがそう思ってるんじゃないかと思った」

私の答えに安堵したのか、ホッと穏やかに笑ってくれる。そう言えば、確かに私から気持ちを言葉にした事は一度もなかったな。
ちゃんとそういう事は確認してくれるほど、誠実さを絵に描いたような男性だと分かるたび思う。

本当に、初めて出会った時とはまるで別人みたい、って。

やっぱり、あの時の怖いワタルさんは私が夢でも見た幻だったんだろうか。ギャップがありすぎて未だにそこの部分は釈然としないんだけど、今は形を潜めているならそれで良いんだろう。

すると、少し目を伏せて遠くを向く彼はボソッと言葉を洩らした。

「でも、まだ足りないな」

「え?足りませんか?……えーっと」

好きな人と好きな人が結ばれました、ってこれ、凄く奇跡的な事だと思うけれども。まだ何かが“足りない”とまで言われて、これ以上ここでどうやって好意を伝えれば?と自問自答する。
いや、そもそも初対面で濃厚キスを噛まされた仲ではあるんですが。

「あぁ。俺は欲張りなんだ。わかるだろ?」

「っ!……」

ちら、と流し目でやけに悟った顔して視線を映される。その眼は確か、見たことがあった。よく見たらそれは熱っぽくて、食べてやろうとするような、あの時と同じ。
まるで俺の正体は知ってるよな?とも言いたげなそれのお陰で、一気に鼓動が速くなって緊張感が走る。

前言撤回だ、この人、やっぱりーーーー。


「なんてね、冗談だよ」



すぐにいつも通りにこりと笑って、体よく誤魔化されてしまった。


捕獲�G
(囚われた下衆)

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