太一



小さな煌めき



 春秋組合同合宿から帰ってきて、お土産を配ったり留守番組に合宿の思い出話をしたり、一通り騒ぎ終わって風呂に入って出てきた時のことだった。
 俺は一人だけヤトさんに呼び出された。
 な、なんか叱られる!?
 今まで出かけてたんだから心当たりは……たぶん、ない! はず……ってちょっとビビってたんだけど、用件はお叱りじゃなかったみたいだ。
 俺を迎えてくれたヤトさんの表情は明るかった。

「遊園地のバイトッスか?」
「そう。知り合いがヒーローショーやってるんだけど、バイトが二人やめたらしくてな」
 しかも急な話だったから代役が見つからなくて困ってるんだって。
 先日の公演でヒーローものをやったことだし、合宿の日程ともうまいことずれてたんで秋組が帰ったら代役を出そうと思ってたらしい。
「明日一日を切り抜ければシフト変えてなんとかなるらしいから、頼めるか?」
「俺っちはいいッスよ!」
 ヒーローショーっていうと顔は見えないけど、着ぐるみよりはマシだし。何より目立つし、カッコイイ!

 と、心の中で密かに喜んでたらヤトさんは言いにくそうに付け加えた。
「十座にグリーン役を頼んでる。太一には雑魚Aをやってもらいたい。ちなみにアテレコだからどっちも台詞は無し」
「え、雑魚Aッスか……」
 なんかGOD座時代を思い出させられるような、あんまり嬉しくない響きの役名を聞いて一気にテンションが下がる。
 雑魚Aっていったら、ぱらぱらっと出てきてヒーローたちにちょちょっとやられちゃう役だよな。まだしも怪人の方がよかったかなぁ。

 あからさまに反応する俺を見かねてヤトさんは更に補足した。
「言っとくが、雑魚Aの方がおいしいぞ。客席の子供を連れ去る役だし、舞台に出っぱなしだからな」
 ヒーロー側はピンチになるまで出てこない。そしてグリーンは、ずっと舞台にいるけど基本的にレッドの添え物だし必殺技のシーンくらいしか見せ場がない。
 そう言われると今度は、十座サンを差し置いて自分がそんな役やっていいのかな? って思う。悩むところだった。
 どっちかっていうならそりゃあヒーローがやりたいけど、台詞なしで顔が見えないなら似たようなもんだし、それに……。

 俺の葛藤を察したのか、ヤトさんが苦笑した。
「十座は念願のヒーロー役を体験できる。ちょうどいいと思ったんだけどな?」
 そうなんだ。十座サンは前回の演目が決まる前にも「ヒーローをやりたい」って言ってた。
 だからやっぱ、グリーンは十座サンにやってもらった方がいいと俺も思う。
「それに、太一は学んだばっかりの殺陣を活かせるだろ」
「ヤトさん……!」
 その言葉にはちょっと感激してしまった。

 せっかく合宿で殺陣の稽古をしたのに、俺はじゃんけんに負けて姫役をやったから修行の成果を発揮できなかった。
 そんな風なことをこっそり愚痴ったの、覚えててくれたんだ。
「時代劇の殺陣とヒーローショーはだいぶ勝手が違うけど。それでも動きや掛け合いの勉強にはなるよ」
 ちょうど二人空きが出たところに、ヤトさんは俺と十座サンを選んでくれたんだ。他の誰でもなく。

 メインは怪人とレッド、それから観客の子供たちと絡むお姉さん。俺や十座サンの出番は全体的に見ると少なめだ。
 でもこれくらいなら、ヤトさんが預かってた台本と明日の調整だけでなんとかなりそう。
 アテレコってのが慣れなくて不安だけど、ヤトさんが言うには音声の方でも多少のずれはフォローしてくれるっていうし。
 肝心の殺陣も、俺がやる雑魚Aと対決するのは十座サンのグリーンになってる。
 あとで十座サンと一緒に稽古場に行って、ちょっと息を合わせておこう。

 ホンに目を通しながら芝居の流れを確認してたら、ヤトさんが言う。
「相手が子供だから楽勝、なんて思うなよ」
「合宿でも子供たくさんいたッスよ! 普段のお客さんよりは見る目も甘いんじゃ……?」
「まさか。あいつらは金払って芝居を観に来る“観客”じゃないんだ。退屈だと思ったら芝居中でも平気で『ママ帰るー!』だからな」
 あまりにも真剣に言うもんだから俺もまたビビってしまう。途中で帰られるのは精神的にキツいッス。

「ヤトさん、もしかしてこのバイトやったことあるんスか?」
「ご明察ー。学生時代に俺もやったよ。一人が『つまんない!』って言い出してさ、あとはブーイング大合唱だった」
 想像してみる。子供たちの「つまんなーい!」大合唱。それでもなんとか芝居を続けようと踏ん張る俺たち。
 誰も芝居なんか見てない大騒ぎの中で……。地獄絵図だった。

「う、うわあ……なんか俺っち怖くなってきたッス……」
「トラウマになりかけたよ」
「もしかして、だから俺っちと十座サンに頼んだとか?」
「……いや、二人のためを思ってのことだ」
「なんか変な間があった!」
 自分で行ってもいいバイトを譲ってくれるなんて、ほんとヤトさんって劇団員想い! と思ってたのに。
 俺っちの純粋なソンケーを返してほしいッス。

 とはいえ、ヒーローショーに出るってのは、やっぱり楽しみだった。たとえ名無しの雑魚Aでも見せ場はあるし。
 吹っ飛びかたがうまければ盛り上がるとヤトさんも励ましてくれる。
「あそこはグッズ展開もしてるから。デザインが結構いいんだよな。怪人派のちびっこもいるし、しっかり目立てば雑魚Aでも声援もらえるかもしれないぞ」
「マジッスか! やる気出てきた!」
 更にやる気を引き出すべくヤトさんが遊園地のパンフを見せてくれた。そこには十座サンがやるグリーンも、俺がやる雑魚Aも映ってた。

「え!? なんか、思ってたのと違う。カッコイイ」
「だろ。全身タイツじゃなくて衣装が結構凝ってるんだよな。マントとかヒラヒラしてるし、ここのショーは子供以上に女性受けがいい」
「モテモテじゃないッスかー!」
「だから太一に頼もうと思ったんだよ」
「てへへ、光栄ッス!」
 十座サンや万チャンほどじゃないけど、俺も結構アクションこなしてきたし。
 女性受けがいい役だからってのは置いといても、ヤトさんが「俺ならできる」と思ってくれたなら、期待に応えたい。

 それからヤトさんはいくつかヒーローもののアクション指導をしてくれた。
「やられ役って難しいんだよな。そこが下手だと説得力がなくなって一気に白ける。でも俺は、太一なら経験も豊富だしうまくやれると思ってる」
「ヤトさん……」
「十座と息を合わせて頑張ってくれよ。俺も三時からの部は観に行くつもりだから」
「うッス! かっこよくやられて目立っちゃうッスよ」

 ヤトさんって、人を乗せるのがうまいんだよな。さらっと褒めてくれるからこっちも「よーし、いっちょ頑張るか!」って気持ちになる。
 いい気分で始めた芝居ならそのまま、いい気分で終われるんだ。自分のこと、やれるだけやりきったって感じがする。
 名前のない雑魚役なんて嫌だ、もっと俺を見てほしいって思ってたのに。
 雑魚Aだって他にない輝きを持ってるんだって、最近は思ってる。
 ヤトさんがくれた舞台で、それを目一杯輝かせてくるんだ!



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