43



「リオ、恋人は……いないの知ってるが、好きなやついるのか?」
 深刻な顔で何を言うのかと思えばラバキンさんはそんなことを聞いてきた。求める答えが分かりきっているのに尋ねる意味はあるんだろうか。彼はたぶん、私に迷っていてほしいんだと思う。
「いますよ」
「なっ、いるのかよ!?」
「いますよ」
 念を押すように肯定の言葉を繰り返す。私としては「相手は誰だ」と聞いてほしかったんだけれども彼はなぜか妙に納得してしまう。
「だから口説かれても断ってんのか……」
「え? 口説かれた覚えなんてないですけど」
「そりゃリオに自覚がないだけだろうよ。ちょっと誘っても何もないみたいに受け流しちまうんだろ?」
 だってちょっとした誘いなんてそもそも口説くうちに入らないのだ。私が望んでいるのは一生を共に過ごす人。家族になりたいと思える相手。ひとときの恋人なら最初から必要としていない。そういう意味なら確かに私はあらゆる誘いを突っぱねているかもしれない。
「年頃の男どもの間じゃあ評判になってるらしいぜ。宿の娘は難攻不落だって」
「宿の娘なら、エリンのことじゃないんですか?」
「エリンちゃんは今いねぇだろ。宿で働くようになってからお前の顔見る機会が増えて、人気が出ちゃってんだよ」
「出ちゃってるんですか」
「そうだ。俺の気持ち分かるか? 嬉しいし誇らしいけどすっげぇ嫌なんだよおお!!」
「はあ……」
 分からなくはない、と思う。私だってラバキンさんが若い女の子たちの間で噂になっていたら少し嫌な気持ちになるもの。そういうことはきっとないだろうけれど。
 以前の私は家と支部の往復を繰り返す毎日だった。協会がグレイリッジからいなくなってしまったので勤め先が変わり、外出先も幅広くなって人付き合いが増えてきている。確かに昔と比べたら同年代の男の人と関わる機会は多いかもしれない。世間的な自分の評価というものを考えたことはなかったけれど、この若者の少ない寂れた町なら私でも恋人にと求める声はあるのだろう。
「……なあリオ、その好きなやつ、ってのは」
「ラバキンさんです」
「や、やっぱそうか。そういう意味じゃねぇんだがな」
「同じですよ」
 私が誰かに恋をしたりされたりしてラバキンさんが家から出て行ってしまうことを考えたら、その方が嫌だもの。宿での仕事にしたって当座の生活のためにやってるだけのことで、エリンが帰ってきたらやめるつもりだし。彼女がいれば看板娘の名は返上できるはずだ。
「お前に好きって言われんのはそりゃ嬉しいぜ? でもその、親子間の愛情とかじゃなくてだな、もうちょっと歳の近い男と、」
「私が同年代の男の人に人気があった方が嬉しいんですか?」
「嫌だ。嫌だけど、ああああ俺は一体どうすりゃいいんだ!?」
「どうもしなくていいじゃないですか」
 よく知らない人たちに自分のことを知られるのはいい気分じゃなかった。そんなのは私の未来を考えるうえで邪魔になるだけだ。私を知ってほしい相手、好いてほしい人は、決まっているんだから。
 もしかしたら、私のことを一番分かってないのはラバキンさんなんじゃないかと思うことが時々ある。



 43 / 43 

back | menu | top