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 この頃ラバキンさんが素直じゃない。というか、率直な心根に相応しくない言動をよく見せる。協会とクライス団との戦いが佳境に入っているせいなのか、私には言えないことが増えているみたいだ。ほとんど思ったままを口にする彼が私を前にはぐらかしたり口籠ったりするのはなんとなく気に入らない。
 私には、その話題を出すとラバキンさんが逃げてしまうという禁句がいくつかある。例えば『結婚』だ。今みたいに彼が呑気にお茶を飲もうとしている時を見計らってぽつり呟いてみたとする。
「結婚したいなぁ」
「ぶふーっ!!」
 と、こうなるわけだ。噎せて咳き込むラバキンさんの背中を擦りつつ手拭きを差し出してため息を吐いた。こんなに過剰反応するくせに「ダメだ!」とはっきり言ってはくれないのがずるい。
「け、け、し、したいってお前、だっ誰とだよ!」
「誰とでもいいですけど」
「そんな投げやりなのは許さあああああん!!」
 素敵な恋をしてほしい、自分の意思で選んだ人と結ばれてほしい、そして幸せな家庭を築いてほしい。ラバキンさんのそういう願いは私を大切に思ってくれてる証だから嬉しいけれども。
「じゃあラバキンさんが選んでくださいよ、私の旦那さま」
「えっ!? いや俺が選んでどうすんだよ!」
「自分で決められたら文句ないでしょ?」
「お、俺はただ、リオがちゃんと本当に心底好きなやつと結ばれてほしいんであってだなぁ、べつに文句が言いたいわけじゃねぇぞ!」
 本当に心の底から好きな人っていったい誰なんだろう? ラバキンさんは私がまだ誰にも恋をしてないと言うけれど、ただ単純に“私に恋をしてほしくない”だけじゃないかと思うんだ。だってそれはこの関係の終わり、どちらかに別の家族ができたら今の幸せは変化してしまうから。
 置いて行かないで。離れないで。誰も好きにならないで、ずっとそばにいて。そんな本音を滲ませながら私のためなんて言うのは卑怯だ。
「ツンデレっていうんでしょ、そういうの。可愛くないです」
「なんか違うと思うんだが」
 回りくどいのは好きじゃない。曖昧な気持ちのままでぐだぐだ言うくらいなら「お前を他のやつに取られたくないから結婚するな」って言ってくれたらいいのに、結局ラバキンさんは私に一生添い遂げたいほどの魅力を感じていないんだろう。もし本当に、心の底から私を好きでいてくれるなら、他人に渡したくないとはっきり言ってくれるはずだもの。
「はあ……、結婚したいなぁ」
「うぅっ、最近リオが扱いにくいぜ。これが反抗期ってやつか……」
 優しさとか後ろめたさとか、気遣いとか親心とか、心を抑える枷をすべて取り去ったラバキンさんの本心が知りたい。



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