Even if Reborn



 ここ数年でバレルは少々調子に乗っている。横領でもでっち上げて追い出してしまいたいところだが、彼を庇う者が多すぎて生半可な罪では裁ききれそうにない。もはや堂々と私に楯突ける地位を確立しているのだ。まったく忌々しいことに、生かしておかねばならない理由がないにもかかわらずただ投獄しただけで恩赦の嘆願が数多と寄せられてくる。
 私はアマランシンの統治者だ。そしてあの男は私の邪魔になっている。排除するほかに選択肢などあるものか。
「お前がやつを愛人にしてくれればいいのに」
 そしらぬ顔でバレルの冤罪を訴える文書をしたためていたエリッサが不満そうに言う。
「私そういうの好きじゃない」
「知ってる。冗談だよ」
 だが最も確実な方法だ。誠実で知られるバレルに不倫の噂を作るのはほとんど無理だが、伯爵夫人である彼女がバレルをベッドに誘えば言い逃れの余地を与えずあの鬱陶しい家宰を罪に問える。私の陰謀だと糾弾できる者もいないだろう。
 残念ながらエリッサは私と意見が対立したときの措置としてバレルの援護を望んでいるから、叶うべくもない企みだった。

 文書を書き終えた彼女は真面目くさった顔で私を見つめる。
「殺し合う仲の二人は来世で夫婦になるらしいよ」
「ライセ? なんだそれは」
「死んだあと次に経験する人生のことだよ」
 どういう意味だ。殺し合う仲ってまさか私とやつの話か? だとすればおぞましい限りだ。想像もしたくない。
「死んだら造物主のもとに行くんだろうが。次なんてない」
 野蛮人の風習か異国のお伽噺か、そんなくだらない嘘をどこで吹き込まれてきたんだ。造物主がフェイドに送られた魂をまたわざわざヴェイルのこちらに戻すわけがない。主は人間を見捨てたんだぞ。そんな世話など焼くものか。
 私が一蹴するとエリッサはムキになって身を乗り出した。
「新しい命が生まれても死んでフェイドに送られるだけなら、どんどん死んだ人が増えちゃうじゃない。こっちに戻って生まれ変わる方が分かりやすいよ」
「精霊や悪魔だって終わりが来れば消滅するんだろ」
「そんなのやだ!」
 嫌だとか好いとかの問題ではないと思うんだがな。

 死のあとにまた似たような生が待っているとしたら、無理して今を生きることに意味がなくなるじゃないか。次があるなんて向上心をなくす考え方は好かない。これっきりと思うからこそ命懸けで生きられる。
「殺し合う二人が夫婦になるなら、我々夫婦はその来世とやらでは殺し合う仲になるのかな?」
「ううぅ〜、またそういう意地悪を言う〜」
「それとも今から殺し合っておくか」
 少しからかいすぎたか、エリッサは頬を膨らませて怒ってしまった。
 今を生きるのでさえ手一杯だというのに次の人生のことなど考えられるか。思い悩んでみたところで何の役に立つわけでもないだろう。愛し合おうと殺し合おうと同じなんだ。私が私で、相手が相手なら、いつだってこの関係に変わりはない。



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